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イマジネーション・ラグーン  作者: 遊森謡子
その後のふたり
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3 小話集 【お弁当はやめよう】

内容は拍手お礼小話的なのですが、拍手画面に載せると他作品に拍手下さった方にネタバレてしまうので、こちらにupしました。倉本がやや可愛め。

【お弁当はやめよう その1】


 彼女が、弁当を作ってくれるようになった。


 もちろん昼食を外で食べる日もあるし、彼女の都合もあるので、その辺は前日の夜に連絡を取りつつ週に二回程度。朝、会社に行くと机の下に紙袋に入れて置いてあるのだが、買ってきた弁当に見えるように使い捨て容器に入ってる所が、芸が細かい。

 俺は微妙な幼年期を過ごしたので、弁当らしい弁当を誰かに作ってもらった記憶がない。妙にこそばゆいが、嬉しかった。

 ちなみに俺が気に入ったのは、オムライス弁当。ケチャップ多めのチキンライスを、薄焼き卵で包んである奴。

「ああ、あれ簡単だからまた作りますよ」と璃玖はあっさりしたものだが、実は俺が心の中で、弁当じゃなくて目の前でなら半熟トロトロのオムライスも作ってもらえるのかな、などと夢想していることを彼女は知らない。


 そんな日々が始まって二週間が経った、ある夜のこと。新宿西口、思い出横丁某店にて。


「お弁当作るの、やめましょう」

「もう!? 何で!?」

「だって、私と同じ内容のお弁当持ってたら、おかしいじゃないですか。バレちゃうでしょ。まずいからやめましょう」

「……えーとだな。誰に?」

「?」

「俺とお前が一緒に食べないのに、誰が二つの弁当の内容を見比べるんだ?」

「おお」

 おおって。

 

 というわけで、とりあえず弁当は続行となった。ふう。



【お弁当はやめよう その2】


「スーパーとかでさ。フリーズドライの食い物、売ってるだろ」

「ありますねぇ。インスタントのお味噌汁とか、お菓子に入ってるイチゴとか」

「あの『フリーズドライ』っていう文字を見ると、璃玖を思い出すんだよな」

「はい?」

「まあ、ドライなのは璃玖で、フリーズするのは俺なんだけどな。ははは」

「…………」

「…………」

「(ニコリ)お弁当いらないなら、そう言ってくれればいいのに」

「すみませんでした(滝汗)」



【お弁当はやめよう その3】


 静岡行きも迫った、ある夜のこと。新宿歌舞伎町、元コマ劇近くの洋食屋にて。

 ドライな彼女の無情な一言、再び。


「お弁当作るの、やめましょう」

「また!? 今度は何で!?」

「だって最近忙しくて、なかなか会社でお昼食べられないじゃないですか。作っても、夕方まで食べられなかったりすると傷むし。出先に持って行くには、お弁当大きすぎて邪魔だし。ひとまずやめましょう」

「う……」


「でも……ね。代わりに、はい、これ」

 小さな紙袋を渡された。軽くて硬い感触。

「ビスコッティです。お菓子ってあまり作ったことないんだけど、割とうまくできたので持ってきちゃった。日持ちするし、そこそこ腹持ちもするから、お腹が空いた時につまんで下さい」

 連絡事項は終わったとばかりに、アイスティーのストローをくわえる彼女の、頬が少し赤い。


「……甘いな」

「え? あ、健康のこと、気にし始めるお年頃ですか? あの、それ一応、てんさい糖で作ったから、身体にはいいと……」

 お年頃って。

 俺は手の甲で、彼女の頬を撫でる。

「お前の存在が、俺には甘くて幸せだってこと」

「ごほっ」

 口元を隠してむせる彼女。


 ……これ、早く食いたいな。



【お弁当はやめようシリーズ おしまい】


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