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イマジネーション・ラグーン  作者: 遊森謡子
第一章  珊瑚礁の城
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2 絵にも描けない

夏なので、涼しく行きましょう。

 目が覚めて辺りを見回した瞬間、私は悶絶しそうになった。

 なにこれこっぱずかしい――――!!


 私は巨大なホタテ貝の中にいた。開いた貝殻の中にふわふわのベッドがしつらえられていて、その中で身体に白い布を巻き付けるようにして横たわっていたのだ。

 ベッドの真ん中に立って手で大事なところを隠して、「はい女神様の誕生でーす」って世界の名画ゴッコでもしろと!?

 あまりの恥ずかしさにベッドから逃げ出し、ベッド脇に座り込んであたりを見回す。白い天井と壁、何か光るものがあちらこちら埋め込まれた床、丸テーブルに長椅子。

 そして、大きな丸い窓が目に入った。


 ……まるで、水族館の中にいるようだった。

 私が今いる部屋は、信じられないことに海中にあるらしい。

 窓の向こうには海底の珊瑚礁が広がり、色鮮やかな魚たちがすぐそばを横切る。白い、ややドーム状の建物の連なりも見える。視線を上げてみれば、海面に揺れる光が見えた。

 頭の中で、「竜宮城に~来てみれば~♪」という、あの歌がぐるぐる回っている。


 私は、愛海先生の書いた小説のプロローグを思い出していた。

 あの物語は、一人の女の子が海で溺れかけ、海の底のお城にたどり着く所から始まっている。

 まさか、まさか、ここは……?


 いきなりノックの音がした。

 ヒィ、とか変な声を上げていると、ドアが開いて、紺色の髪を結い上げた妙齢の女性が入ってきた。ベアトップのヘソ出しルック、膝丈の巻きスカートを着ている。両手に服らしきものを抱えていた。

「まあ、お気づきになったのですね、巫女さま」

 ぱっ、とほほ笑むと、目じりに笑いじわが刻まれた。

 ミコ? 誰それ?

「全身びしょ濡れでしたので、失礼ながら服は脱がさせていただきました。こちらにお召し替えになってください」

 女性は笑顔でベッドの縁に服を置き、

「私はズーイと申します。外に控えておりますので、終わりましたらお呼び下さい」

と出ていった。ドアが閉まる。私はただ、口をパクパクさせていた。


 ふ、服……とにかくこの裸同然の格好じゃヤダ。服。

 広げてみると、その服は愛海先生が着ていたのと同系統で、インドっぽい雰囲気。だけどサリーみたいな布はなくて、何と言うか……か、身体の線が出まくりですね。

 トップスはピタTみたいな感じなんだけど、襟ぐりは広くV字に開いているし、丈が短くておへそは丸見え。もし私の胸があと一カップ小さかったら、馬鹿にすんなー! とか、どうせどうせ! とか叫んで着なかったかも。

 

 下は足首までの巻きスカートにサッシュベルトなので、足を晒す必要はなくてほっとしたけど。

 気がついたら、砂浜において来たはずの私のミュールが部屋に置いてあって、履きなれたそれを履くことにした。


 とにかく、ここはどこなのかを確かめよう。

「ず、ズーイさん」

 ドアの外に声をかけると、さっきの女性が顔を出してくれた。

「よくお似合いですよ」

「あの、ここは、なんて言う場所ですか?」

「名前ですか? ラグーン城です」


 ……うそでしょ……。

 私は立ちつくした。

 それは、先生の設定資料集に書いてあった名前だ。読んだ時、先生ネーミングセンスないな、『珊瑚礁ラグーン城』って、まんまじゃん! って思ったのを覚えてる。

 それに、ズーイさんの髪の色、瞳の色も、先生が設定したラグーン城の住人そのままだった。

 私はパッと自分の髪を引っ張った。勢いがつきすぎて痛いけど、その痛みで夢ではないことが分かったし、私の髪は黒かった。黒が好きなのでカラーリングはしてない。

 なんで、しがない二十六歳OLの私が、『ラグーン城』にいるの!?


「神官が、あなたを発見されたのですよ。何でも、女神マーナが連れて来られたとか……」

 話しかけられて、我に帰る。

「は、はあ」

「詳しくは神官にお聞き下さい。目が覚めたらお会いしたいとのことですが、大丈夫ですか?」

 心臓がバクバクしすぎて頭がガンガンするほどだけど、とにかくついて行くしかない。この部屋にいても現状は把握できない。


 ここが先生の作った世界だと、仮定するとして。

 それなら、たぶんそんなに危険はない、と思う。初めて物語の構想を聞いた時、「あんまり悪役とか出てこないから、物語としてはぬるいかもしれないわ」なんて言ってたもん。

「わかり、ました」

 私はどうにかうなずいて、ズーイさんの後に続いて部屋を出た。


 お城はいくつもの建物が渡り廊下でつながっていて、合間に小さな庭がたくさんある。一つ一つにテーマカラーがあるらしくて、ピンクの珊瑚の林になっている庭、緑のマリモみたいなものがたくさん転がった庭、黄色のイソギンチャクが絨毯のように広がった庭なんかがあった。

 上を見上げると、遠い水面で陽光がきらめいて揺れ、魚の群がゆったりと過ぎていった。


 一番大きな建物に入った。白い珊瑚の壁や床に、虹色の貝殻があちこち埋め込まれてきらきらしている。壁には等間隔で巻き貝が飛び出ていて、殻を透かして中から光があふれている。これが照明なのかな。


 廊下の突き当たりは、ドアなどはないまま大きなホールにつながっていた。

 そこは天井がなく、巨大な金魚鉢みたいな形をしていて、見上げるとやっぱり陽光きらめく水面が見えている。金魚鉢の縁からは、巻き貝が縦にいくつもつながったものがたくさん下がっていて、様々な色に光っている。


 奥は一段高くなっていて、やはり珊瑚でできているのか真っ白な長椅子が一つ。

 そのやたら大きな長椅子の端っこの方に、さっき気を失う前に見た、あの青年が座っていた。

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