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イマジネーション・ラグーン  作者: 遊森謡子
第二章  物語と現実
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9 心残り

 翌朝の朝食後、私はズーイに貝殻インターホン(?)の使い方を聞いて、ザンに連絡をした。倉本主任に言った通り、とりあえず今朝は顔を合わせないようにしたかったので、こうやって簡単に女神のご神託を受けてくることを伝える。

 ザンもこれから用事があるらしくて、特に突っ込まれずにほっとしたよ。


 自分の部屋を出てすぐの所でウミガメくんを呼んでみたけど、来なかった。

 お、倉本主任、ちゃんと私の言ったことを聞いて少し仮眠を取ってるのかも。よしよし。


 フィッシュボウルの外壁を一人で登って、上からあたりを見回してみたら、城の裏手の方でウミガメくんを見つけることができた。

 今までに比べたら面倒だけど、大した労力でもない。私はもう一度フィッシュボウルを降りて、ウミガメくんのいた方に向かった。


 その途中、渡り廊下で呼びかけられた。

「巫女殿、おはようございます。ちょうど良かった」

 町長のナキさん(実は一年ぶり)が、微笑みながら歩み寄ってくる。

 な、なんかこの人、迫力増したなー。やっぱりちょっと疲れてそうな感じはあるけど、眼光鋭いというか。塔の建設プロジェクトに燃えてるのかしら。


「おはようございます、どうしたんですか」

「塔の完成も間近になったのですが、女神マーナにはお変わりありませんか」

「ええ、全然お変わりありません」

 相変わらず酔っ払ってるような感じだしね。あの酔いって、いつ覚めるんだろ。

「塔ができあがるの、女神さまも楽しみにされてるようですよ」

 付け加えると、ナキさんは「それなら良かった」とうなずいて続けた。

「実は、完成セレモニーの時に、巫女殿に女神の降臨をお願いしていただきたくて」

「……?」

「つまり、塔の頂上のあたりに、女神においでいただけないかと思っているのです。もしかしたら、我々にも女神の声が聞こえるかもしれない」


 ああ……そっか。

 今までは、ここの人たちは海中にいる女神マーナしか見た事がないのよね。で、愛海先生は海中ではしゃべらないから、声も聞いたことがない。

 でも今度は、塔が海の上の空気中につき出すことになる。空気中にいる愛海先生が何か言えば、塔の中にもそれが聞こえるかもしれないんだ。なるほどなるほど。


「それじゃあ、女神さまに申し上げてみますね」

「ぜひお願いします。……待ち遠しいですね?」

 ナキさんは、ちょっと意味ありげな笑みを浮かべた。

 えーと、つまり完成セレモニーと結婚式が同時だから、結婚式が待ち遠しいでしょ、っていう冷やかしですか?

「ええ……」

 私はちょっと視線をそらして、はにかんで見せた。

 それどころじゃないんだけどね! ホントはね!


◇  ◇  ◇


 愛海先生は、もともと大きな目をさらにまんまるく見開いて両手を口にあてた。そんなポーズも、相変わらずお美しい。

「ザンと、璃玖さんが、婚約――っ!?」

「なんか、そんなことになっちゃってて。すみません」


 海の上。今日もさんさんと日差しが降り注ぎ、空は高く海は光り輝いている。

 私はウミガメくんの背につかまった状態で波に揺られながら、ちょっとうなだれていた。


「アリでしょ!」

 思わずといった調子で言い放った愛海先生は、でもすぐにあわてて私の顔を覗き込む。

「あっ、でも、璃玖さんはもちろん嫌なのよねー?」

「嫌っていうか……そりゃあ、ザンはすごく素敵な人ですよ。通常の状態だったら、よろめいちゃいますよ私。通常だったらの話ですけど。残念ですねぇ」

 私はちょっと目をそらした。

 外見で言えば好みとは違うタイプなんだけど、あんなイケメンに「大切にする」なんて言われて、よろめかない方が……無理でしょ。


 すると愛海先生は、「くぅーっ」とか言いながら両手をこぶしにすると、こう言った。

「あーっ、いつか現実で弟と璃玖さんが出会ったらいいなぁ! そしたら本当に恋に落ちて、結婚しちゃうかもしれないわよねー?」


「……はい?」

 今、なんと?


「先生……あの、失礼ですけど、弟さんって亡くなったんですよね?」

「えー? やだ、死んでないと思うわよ、たぶんー」

 たぶん、死んでない?

「ちょ、待って下さい。夜の海が、弟さんとの最後の思い出だっておっしゃってましたよね? それにザンは、弟さんが大人になってたらこんな感じだろうっていう、願望だって」

 愛海先生はウンウンとうなずいて、

「そうなのー。両親の離婚がきっかけで、子どものころに別々の家に引き取られて以来、弟とは会ってないのよー」


 な、な、な、なんですと―――!?

 確かに先生、死んだとはハッキリ言ってないっ。だってそんなこと普通ハッキリ言わないものだし。

 私、勘違いしてたのか!!


「両親が離婚した頃、私はもう小学生だったから『自分のことは自分でできる』ってみなされたんだけど、弟は小さすぎて……」

 先生はいったん言葉を切って、目を伏せた。

「……とにかく、両親のどちらも弟を引き取らなかったの。それで、親戚の家を転々と……きっと辛い思いをしたと思うわ。だから私、ラグーン城ではせめて、って思って……」


 ……ああ、それで、シュリさんとヤーエさんのキャラクターができあがったのか。

 理想の養父、養母である二人。ザンが幸せであるように。


「ね、璃玖さん」

 先生は微笑んで私を見た。

「もし、私の書いたこのファンタジーが出版されて、弟の目に触れたら、私のことに気がつくかもしれないわよねー? 子どものころに話したことを覚えてれば、だけどね? そしたら連絡がくるかしらー?」

 愛海先生はトロンとした瞳で、遠い水平線を眺めた。

「それだけが、私の心残り……なの……。あれ?」


 先生は瞬きをして、私を見た。

「心残り……?」


「あ、ね、先生先生!」

 私は背筋がぞくりとして、反射的に話しかけた。

「下の街の町長さんに、頼まれたことがあるんですよ。塔ができあがったら――」

 ナキさんに頼まれたことを先生に伝えながら、私は自分の心臓がドクンドクンと脈打つのを聞いていた。

 今、先生、自分が死んでいることに気づきかけた?

 物語が完結しないうちにそれを知ったら、どうなってしまうんだろう。そこで物語は中断するのかな? その時、私は?


 私がこちらに閉じ込められるのはともかく、せめて倉本主任が『こちらにいない』ってわかってる時じゃないと、彼がこちらに『残って』しまいそうで怖い。


「わかったわ、『結婚式の時に』塔の上あたりに行けばいいのねー。璃玖さんが呼んでくれれば、いつでも行けるわよー!」

 親指を立てる愛海先生は、いつも通りの笑顔に戻っている。

「『完成セレモニーの時に』、ですからね! 結婚はどうにか回避したいんですってばっ」

 私は念を押した。倉本主任が読むことを意識して。

 とにかく今は、私の思いつきを実行できるように、物語を持って行きたい。元の世界に戻れるかどうかは五分五分だけど……。


 決戦は、『結婚式』の日。

これにて第二章終了、次話から最終章です。

色々と予想して下さってる方(いらしたら嬉しい♪)にとってもハラハラドキドキの展開にしたいな! できるか!?

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