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イマジネーション・ラグーン  作者: 遊森謡子
第二章  物語と現実
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6 一・年・後

前回と今回の話で、少し内容が前後してしまった部分がありました。前回を9/2午前中にお読みになった方、同じ話がチラリと出てくるかもしれません。修正済みです、失礼いたしました。

「海底から海の上に届く、塔をー?」

 愛海先生は、面白そうに瞳をきらめかせた。

「原作者……女神さまが面白がってどうするんですかっ」

「だって、私も予想してなかったものー、こんな展開。キャラが勝手に動くって、こういうことを言うのねー」

 そして、ぽんっと手を打った。

「そっか! あの地図に描いてあったの、塔だったんだ!」


「地図? 小説と一緒に封筒に入ってたものですか?」

 倉本主任の話を思い出して、私が言うと、先生は「そうそう」とうなずく。

「それって、先生が描いたんじゃ?」

「ううん、違うの。ヨウちゃんが……弟が描いたの、四歳の時」

 四歳の子が描いた、地図?

 ははあ、それで倉本主任、「地図のような絵のような」みたいな言い方をしたのね。


「当時七歳の私が海の底のお話を思いついて、弟に話したら、弟が描いてくれたのよー。参考にと思って、小説と一緒に入れておいたのー」

 先生はクスクスと笑った。

「青いクレヨン一色で、お城やら街やらがガーッと描いてあって、わかりにくい絵でね。山の上に棒みたいなものが描いてあって、てっきり海底火山が噴火してるところだと思ってたんだけど、あれが塔だったんだわー。なるほどなるほど」


 先生はうなずいてるけど、女神さまはたった今、それに気づいたのよね? なのに、お話の中ではすでに塔の話が出てるのは何でだろ? 弟さん=ザンが考えたのかなぁ。


 先生は飛沫を輝かせながら、私の周りをすいーっと泳いでまた海の上にすらりと立った。

「そっか、海の上を見に来るのかー。空と砂浜だけで、みんな喜んでくれるかしら?」

「初めての光景だから、きっと感動だと思いますよ。でも例えば、緑があってもいいかも」


 何気なく提案してみると、先生が身を乗り出した。

「それいいわね璃玖さん! 森があってもいいかもしれない!」

「森、ですか?」


「うん。今はこんなだけどー」

 先生は手を振って、辺りを示した。

「もうちょっと何とかしようかなって。ほら、森の養分が水に溶けて川に流れて、海が豊かになるって話、聞いたことないー?」

「ああ、あります。そういえば」

『森は海の恋人』だっけ? そんな言葉も耳にしたことがあるような。


「いいと思わない? ラグーン世界にとっても、ここを見に来る人にとっても」

 先生は機嫌良く笑って、

「塔ができるまでにはずいぶん時間がかかるだろうから、その間に少しは木々が育つかな?」


「え、女神様でも『森ができました』の一文で森を出現させることはできないんですか?」

 驚いて聞いてみる。

「だってなんか、後から急につじつま合わせするみたいで変じゃない? 整合性がないっていうかー」

 ほう。ヨッパーが整合性を説きますか。

 でもきっと先生基準では、いくらファンタジーだからってやりたい放題やるのはどうか、っていう美学みたいなものがあるのかも。


「そうですね。でも、塔の方は大工事でしょうから、完成を見届けるほど長くは私ここにいられませんよ。早く会社に帰らないと」

 私はウミガメ君の甲羅につかまったまま、ため息をつく。できれば月曜までに戻りたいんだけどなー。

 まあ見本出しも終わってるし、数日なら倉本主任が有休でどうにかごまかしてくれると思うけど。


「ふふ。それなら、早く塔を見られるようにしてあげよっかー」

 先生が私に顔を寄せて、内緒話をするように言った。その神々しさ(女神なんだから神々しいの当たり前だけど)に、ドキドキする。

「み、見られるように、って?」

「時間の経過よ。お話の展開には必要よねー!」


 先生はふわりと身を起こして、両手を広げた。先生を取り巻く真っ白な光が、急に強くなった。

「行くわよー」

「え? え?」


 まぶしさに目を開けていられなくなって、私は目を覆いながら叫んだ。

「時間の経過ってなにー!?」


 ――光が収まって、私はおそるおそる目を開けた。

 自分も、目の前の愛海先生も、何も変わってないように見える、けど……。

 先生がちょいちょいと後ろを指さすので、私は振り向いた。


 遠くに見える砂浜に、鮮やかな若葉色の一帯が出現していた。


「一年経って、森の苗木がずいぶん育ってきたところよー」

 うふふ、と嬉しそうな愛海先生。

 私は自分のあごが、ガクンと落ちるのを感じた。


「っせんせ……一年って、ラグーンの世界も? 一年後になってるんですか!?」

「もちろん、そうよー。塔もずいぶんできてるんじゃないかしら、計画倒れになってなければだけど」

「下、どうなってんですか!?」

 声をうわずらせる私に、女神様は首を傾げてにっこり。

「さあ。みんなそれぞれの生活を営んでて、私はタッチしてないわー」


「先生! 私は早く会社に戻りたいんですってば!」

 半泣きになって言うと、先生はちょっと「しまった」的な顔をして、私の手を取った。

「ごめんなさい、それもちゃんと考える! 私の考えた世界なのに、どうしたらいいのかわからなかったけど、もしかして璃玖さんがヒロインとしての役割を終えたら、帰れるのかしらー?」


「ヒロインとしての、役割?」

 涙が引っ込んで、私は聞き返した。

「そう。ヒロインが何か行動して、物語として何か区切りがついたらいいんじゃないかな、なんて思うの。もちろん、『めでたしめでたし』系でねー?」


 私は、透き通る海の中で魚が泳いでいるのを見つめながら、しばらく考え込んでしまった。

 役割……。


◇  ◇  ◇


 ウミガメ君の背につかまって、海の中を戻って行く。

 ラグーン城とその周辺が見えてきて、私は目を見張った。


 うわー、ホントに塔ができてるよ!

 まだ上の方がいかにも建設中という感じだったけど、サンゴだか石灰石だかでできた真っ白な塔が、イ・ハイ山の山頂に建っていた。まるでねじった棒状のキャンディみたいで、メルヘンチックで可愛い。誰のデザインかなぁ。

 海の上までは、あとほんの数メートルというところ。完成したら、一体どうなるんだろう……。


 ラグーン城のフィッシュボウルに戻る。

 ズーイさんに頼んで、フィッシュボウルの隅に海藻を入れた壺を用意してあった。それは今日も、ちゃんとそこにある。

 取り出して彼(雄雌の区別つかないけど)に差し出すと、彼はパクリとくわえて悠々と上から出ていった。どこかお気に入りの場所で食べるのかしら。


 私はこの一年、ここでどんな風に過ごしたことになってるんだろう? もうっ先生、無茶苦茶なんだからっ、何が整合性だ!


「リク」

 声がして、私はおそるおそる振り向いた。


 奥のカーテンの陰から、ザンが入ってくるところだった。

 少し髪型が変わってる。前髪を伸ばしたらしい。一年後のザンなの……?


「お帰り。今日はずいぶん時間がかかったから、ちょっと心配したよ」

 近寄ってくるザンの口調が、以前と違う。フレンドリーになった、っていうよりはむしろ……甘さ増量?

 嫌な予感が、イヤーな予感がします!


 固まる私の前に立ったザンは、甘やかな笑みを浮かべて私の頭を自分の胸に引き寄せると、私のおでこに――キスをした。

「疲れてない? あちらで何か飲み物でもいかがですか、婚約者どの?」

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