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イマジネーション・ラグーン  作者: 遊森謡子
第二章  物語と現実
15/38

5 ほっとする時間

9/2修正 話が次の内容と前後してましたっすみません!!

 城が寝静まった頃、私がまたこっそりとフィッシュボウルに行くと、ザン(倉本主任)はすでに待ち構えていた。

「こんばんは、倉本主任」

 近づいて、瞳が黒いのを確認してから話しかける。


「……みやしろ」

 あ、あれ? なんか、怒られる時の雰囲気がひしひしと。原因は、アレ……?


「あのぅ、神官と巫女が付き合ってることにしたの、まずかったですか?」

「……いや……確かに色々と都合はいいし、展開が早まっただけと言えばそれだけなんだが」

 倉本主任は目線を逸らすと、ながーい溜息をついた。

「元々、ヒロインは神官にほのかな恋心を抱く設定になってたようだからな。あくまでも、ほのかな、だぞ」

「ええ、そりゃ、もともとヒロインは小学校高学年くらいって設定でしたから、そんな愛憎渦巻く展開にはなりようが……」

 答えた私は一つ大事なことに気がついて、あ、と声を上げた。


「そういえば、いわゆる『巫女』って処女が基本なのかなぁ」


 がく、と倉本主任の膝から一瞬力が抜ける。わあ、ザンの身体でこういうリアクションって新鮮。

「……っく。今の台詞には突っ込まないでおいてやる。だが、少なくともこっちの世界で男と変な関係は持つなよ! ザンに限らず、だ!」

「言われなくてもわかってますよぅ」

 私は肩をすくめ、上目づかいで主任の様子を窺った。何だか今日、機嫌悪いな。


「そうだ主任、今日、変だと思ったことがあったんですよ」

 話を進めよう。私は城から出た時のことを主任に話した。テラスから飛び降りてもここでは大丈夫なのだ、と言った時のザンの説明に、何か違和感を感じた事を。


 倉本主任はうなずき、私に座るようにうながした。二人並んで、長椅子に腰かける。

「物語的に、変だよな。ザンが地上の世界を知ってるみたいなセリフだ」

「え?」

「『海の上の世界よりも、空気に抵抗がある』って説明してただろう。あれは、この世界しか知らない人間には言えないセリフだと思う」

「あっ……」

 そうだよね。ここの人は生まれた時から、こういう空気の中で暮らしてるんだから。


「ザンは、記憶があるのは四、五歳のころからだと言ってました。それからずっとここにいるって」

「じゃあ、ここに来る前は地上にいた設定なのかな。それならまあおかしくはないが……いや、でもやっぱりちょっと不自然か?」

「たいしたことじゃないですけど、つじつまが合ってないと何だか変な感じがして」

 はあ、と私はため息をついた。小さな緊張が続いてるから、地味に疲れるんだよね……。


「今日は、塔の話が出ていたな」

 倉本主任の言葉に、顔を上げる。

「一応、この世界では、海の上は女神の領域なんだよな。女神と巫女しか立ち入ることのできない世界。そこと海底がつながる……」

「はい。だから、この話はちょっと愛海先生にもしてみようと思って」

「そうだな」


「あの、倉本主任」

 私は尋ねた。

「そっちって、今はいつなんですか?」

「土曜日の午後。宮代がいなくなった金曜日の、翌日の夕方」

「あ、こちらの方が時間が早く流れてるんですね」

 戻ったとき、浦島太郎にはならなさそうね。

 倉本主任は横目で私を見た。

「あんまりそっちでのんびりしてると、逆・浦島太郎になるかもしれないぞ」

 うわあ。元の世界に戻れても、私だけおばあちゃんになっちゃってたり? それイヤ。


「あ……倉本主任、まさかずっと起きてるんですか!?」

「別に、一日徹夜くらい大したことない」

「食事は!?」

「さっきコンビニに走って買ってきた」

 言葉が続けられなくなった。迷惑かけまくってるな、私……。


「お前のせいじゃないんだから、気にするな」

 私の表情から心中を察してくれたのか、倉本主任は軽く私の頭をポンと叩いた。そして、さっさと話を戻す。

「とにかく、その白い塔ができあがるには長い時間がかかるだろうな」

 あれ? 倉本主任の声を聞いてたら、何だか眠くなってきちゃった。私は自分の声を意識しながら、ゆっくり返事をする。

「はい……完成を待つつもりはないです」

「そうだな。その前に、物語を破綻させずにヒロインが地上に戻る話を、俺の手で書き込めないものかと……璃玖?」

 はっ、と私は顔を上げた。うわ、ウトウトしてた。

「お前なー……まあ、疲れてるんだろうが」

「すみません……何だかホッとするんです。主任と話してると」

 うー、目がしばしばする。私は子どもみたいに目をこすった。

「……とにかく、明日は愛海先生に会えるように行動してくれよ」

 倉本主任の声が、少し遠い……。


 身体が何か、がっしりしたものにもたれていた。温かくて気持ちいい。

「そりゃ、この身体で何かしたりはしないけどさ……」

 つぶやきが振動になって伝わってくる。くらッシュ、意外と渋い美声。


 そういえばさっき、私のこと「璃玖」って名前で呼んだ。いつもザンにそう呼ばれてるから、自然すぎて気がつかなかったな。

 もう一つ、倉本主任の言葉で「あれ?」って思ったんだけど……なんだっけ……?


◇  ◇  ◇


 目が覚めたら、自分の部屋のホタテベッドの上だった。部屋の中も、窓の外も明るくなっている。

 朝!? うわあ、倉本主任、ザンの身体でここまで運んでくれたのコレ? ということは。


「おはようございます、リク」

 あいさつするズーイさんの笑顔が、なんか意味深でした。……ですよねー。


 朝食後、私はまたフィッシュボウルの方へ向かい、出かけようとしているザンを呼び止めて許可をもらってから、ウミガメくんを呼んで海上へと向かった。

次話、遊森的に2回目の盛り上がりです。楽しみにしてます(遊森が)

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