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イマジネーション・ラグーン  作者: 遊森謡子
第二章  物語と現実
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4 建設計画

「塔?」

 ナキさんを見ると、彼は軽い身振りで、両手を下から上へスーッと上げた。割と細身の塔を表してるっぽい。

「海上まで届けば一番いいですがね。届かなくとも、ある程度の高さがあれば、巫女どのも海上まで行きやすくなるでしょう? 何か、簡単に塔を上る手段を作れば」


「わ、私のために!?」

 ナキさんは例えば、海底と海上をつなぐエレベーターみたいなものを考えてるの?

「はは、そうですね、第一は巫女どのがご神託を受ける時のために。それに、我々は海上に出ることは叶いませんが、例えば内部をここの空気で満たした塔を海の上まで届かせることができれば、街の者もついに海上の世界を目の当たりにできるわけで。いや、つまり自分が見てみたいだけなのですがね」

 ナキさんは微笑む。


 私は、潜水艦の潜望鏡のようなものが海の上に突き出ている所を想像した。外から見ると、潜望鏡のレンズの中でお目目がぱちくりしている、昔のアニメみたいな様子を。

 空と砂浜しか見えないと思うけど、初めて目の当たりにする海の上の世界は、ここの人々の目を楽しませるに違いない。海とは違う空の青、太陽の強い光に照らされた輝く砂浜、寄せる白い波。


「すごい計画ですね」

 心から感心して言うと、ナキさんはまたちょっと笑った。

「さっそく、街の者と話し合って設計図を起こしてみます。楽しみにしていて下さい。何かアイディアがあったら、どんどん言って下さいね」


 ナキさんが帰って行き、ザンと私はフィッシュボウルに残された。

 私はしばらく地図を眺めていた。この絵地図、ザンが描いたんだって、うまいなぁ。こうしてみると、街の家々は密集してるけど、周りの土地もそれなりに動けるんだね。


 ふと、ザンが話しかけてきた。

「リク、山を見に行ってみますか? 街を通って」

「今から? いいの?」

「ああ、ズーイとリュウには知らせておかないとね。心配しますから」

 ちょうどグラスを下げにやってきた女性に伝言を頼むと、私たちはフィッシュボウルの奥から城の正面に出た。


 テラスから明るい街を一望する。

 身体を取り巻く空気もどきに流れが感じられ、髪が揺れた。きっと海流に影響されてるんだろうな。


 いきなり、ザンがテラスの手すりの上に上ったので、私は仰天した。この下、一応三階建てくらいの高さがあるんだけど!?

「ちょっ、危ないザン、降りて!」

 駆け寄ってザンを見上げると、彼はちょっと目を見張ってから、悪戯っぽく笑った。

「ああ……そうか。リク、ちょっと」

 私の方へいったん降りると、

「失礼」

 私の膝裏に手が……って、何で抱っこ?……えええ???

「ざ……」

「僕に任せてみて下さい」

 ザンは、私を抱えているにもかかわらず、軽い動作でテラスの手すりに腰かけると、長い足をひょいと上げて、座った場所を中心にくるりと回転した。

 テラスの、外側へ。


「――――!」

 ザンが足で軽くどこかを蹴り、私たちは宙に投げ出された。とっさに、ザンの首にしがみつく。

 こういうときって時間がゆっくり感じられるものなのか、落下のスピードが緩やかなような……緩やか?


 とん、と軽い振動があり、ザンの足が海底の砂を少し舞い上げた。

 彼は私をそっと降ろしてくれた。ラグーン城の前庭なのか、ソフトコーラルがゆらゆらと揺れている。

「びっくりしましたか? こうやって降りても大丈夫なんですよ」

 口をパクパクさせている私に、ザンは笑いかけた。笑顔が近くて、私はあわてて一歩離れる。

「海の上の世界よりも、空気に抵抗があるので。まあ、逆に飛び上がるのは無理ですけどね」

「心臓止まるかと思ったよ……!」

 ため息をつく私に、すみません、とザンは肩をすくめた。


 ん? 待って、今の会話で何かおかしいところなかった?


 私はもう一度会話を振り返ろうとしたけど、ザンが

「それじゃ、行きましょう」

と歩き出してしまったので、ひとまず後をついて行くことにした。


 うーん、今の会話、倉本主任も読んでいるはずだから、後で聞いてみよう。何がおかしかったのか。


 前庭はそのまま緩やかな坂道になり、街へと続いていた。

 街の家々はやはり小さなドーム状をしていて、それらがくっつきあうようにぎっしりと並んでいる。その間の砂地の道を、ザンと歩いて行った。

 街の中心の方は屋台村になっていて、生活に必要なものはそこで売り買いされているらしい。


 あまり人通りは多くなかったけど、時々すれ違う人々はこちらに会釈してくれるし、子どもたちも笑いかけてくれる。

 街の人々は、男性は貫頭衣とぴったりしたズボンにサッシュベルト、女性はズーイさんのようにベアトップと巻きスカートという服装で、ザンや私のような服装の人は見かけなかった。

 だからきっと街の人は、私たちを見ただけで『神官』『巫女』だとわかるのだろう。


 なんか、目立っちゃって嫌だなぁ。私も一般女性と同じ格好したい……。

 そんなことを思っていると、ザンが

「リク、あれがイ・ハイ山です」

と指さした。私は顔を上げた。


 前方の、街が途切れたその先に、山が見えた。

「わ、本当に海底の山だ……」

 思ったより高くない。登ってもそんなに苦にならなさそうだ。海藻や海草などは生えていない、ごつごつした殺風景な黒い山だった。

「僕の記憶は四、五歳のころからですが、ずっと変わらなかった景色がついに変わるのかと思うと、ちょっとドキドキしますね」

 ザンは、じっと山を眺めた。


 私は、山の頂上に塔が立っている所を想像した。

 そしてふと、聖書に出てくる『バベルの塔』を思い出した。人間が天まで届く塔を建てようとして、結局挫折する話だったっけ? 人間の業や奢りを戒める内容だったような気がする。


 海底から、女神のいる地上まで届く、高い塔――そんな塔を建てても、大丈夫なのかな? 愛海先生は怒ったりしないと思うけど……。

 一抹の不安を覚えた私は、愛海先生に聞いてみなくては、と心にメモをした。


 ラグーン城に戻るころにはずいぶん時間が経ってしまって、結局愛海先生に会いに行かないまま、『夜』になってしまった。私は夕食後、倉本主任に会える真夜中まで、部屋で退屈な時間を過ごした。

 あー、何かヒマつぶしがいるな、これ。

次話、再び倉本主任との逢引き。なんか怒ってる……?


アルファポリスファンタジー小説大賞に、『離宮の乳母さま』と『イマジネーション・ラグーン』をエントリーしました。詳細は活動報告もしくはアルファさまホームページにて(バナーから行けます)。初エントリー、楽しませてもらっちゃいます!

投票すると抽選で賞金が出るそうですよ~ 一緒に楽しみましょう♪

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