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イマジネーション・ラグーン  作者: 遊森謡子
第二章  物語と現実
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1 真夜中の金魚鉢

 夜のフィッシュボウルは、かすかな青い光に染まっていた。

 海は深くなるにつれ、赤い波長の光から吸収していく。そして残った、純粋な青。


 まだ、ザンは来てないみたい……。

 私はフィッシュボウルの真ん中に立ってぐるりと見回し、誰もいないのを確認すると、奥の一段高くなった場所に腰かけた。

 白い床も、青く染まっている。足元を、数匹の細長い魚が追いかけっこしながらすり抜けていく。


 音を立てないようにこっそり部屋を出てきたから、ズーイさんやリュウにはたぶん気づかれてないと思う。でも、あんまり長く部屋を空けてもしばれたら、また心配をかけてしまうので申し訳ない。一応、上掛けの中に適当なモノを詰めて、寝てるっぽく見せかけては来たけどね。

 いないことに気づかれたら、後で「また女神に呼ばれちゃって!」って言うしかないか。お手軽に呼び出される巫女だなー。


 時計がないから、真夜中って言うのがいつなのかよくわからないけど、お城の中は静まり返っていた。

 ラグーン城にはもちろん、掃除や料理や他の色々を担当する様々な人たちもいて――まあ、それほど数は多くないみたいだけど――昼間は歩いていると何人かとすれ違うんだけど、今夜ここへ来る途中には、誰とも会わなかった。もしかして、通いで来てるのかな。夜は下の街へ帰るのかも。


 ――あの人たちも、みんな、現実世界では亡くなっている人たちなのかな。ズーイさんも、リュウも、そしてシュリさんやヤーエさんも……?


 考えに沈んでいた私に、後ろから声がかかった。


宮代(みやしろ)


 振り向いた。

 少し離れた所に、ザンが立っている。紺色の髪が、この青い空間では黒っぽく見えた。


 少し遅れて、驚きが脳を揺さぶった。無意識に立ち上がる。


 この人、「リク」って呼ばなかった!


「今、なんて?」

 上ずる声で聞き返すと、ザンはこちらに近づいてきて段差を降り、私のすぐ隣に立った。

「宮代、俺だ。倉本」


 私は黙って彼を凝視した。

 あの、青いような緑のような、不思議な色の瞳は、今は明かりを点した闇夜のように黒く光っていた。でも、姿かたちは、この世界で初めて出会った人物、ザンだ。

 それなのに、倉本主任…だと?


 私は聞いた。

「フルネームをどうぞ」

 ザンは軽く目をすがめた。あ、今の表情は初めて見る……ザンらしく、ない。


「倉本 (たか)

 

 合ってる。

 いや待て、ここが愛海先生の作った世界なら、先生が知ってることをザンが知ってるのは当たり前だ。何か……そう、私と倉本主任しか知らないようなことを聞いてみないと。


「倉本主任が担当したピラティスダイエット本、印刷直前に発見されたミスは?」

 尋ねると、ザンは口をへの字に曲げてから答えた。

「カバーの写真が裏焼きだった」


 合ってる。

 カバーの校正紙を見て、写真の女性タレントのホクロの位置が左右逆なのに気づいたのは、私だ。結局あれ誰のミスだったんだろ。


 ともかく間違いない、姿はザンだけど、今私と会話してるのは倉本主任だ!


「どういうことですか?」

 私が聞くと、ザン(倉本主任)は「信じたか」と言いながら、さっき私がそうしていたように段差に座った。

「時間がない。手短に行くぞ」

 あっ、と私は思った。いつも打ち合わせの時に、倉本主任が言う決まり文句だ。「手短に行くぞ」。

 私は少し安心した気分で、隣に腰かけた。


「まず俺、倉本は今、会社の出版部の部屋にいる」

 しょっぱなから「?」な言葉が飛び出した。


 ザンの顔をした倉本主任の話は、こうだった。

 金曜の夜、彼は他社の編集さんたちと、愛海先生の追悼飲み会をやった。お酒が大好きだった愛海先生を偲んで、それは深夜まで及んだ。

 当然のように終電を逃し、倉本主任は会社に泊まりに来た。

 はいはい、それ用に寝袋置いてるもんね、くらッシュ。

 出版部の部屋には明かりがついていた。誰かが残業してるのかと入ってみたけど、誰もいない。

 私のデスクがいかにも作業中で、バッグも携帯も置きっぱなし、デスクの下には通勤用の靴もそのまま。しかし当の私がいない。

 そして椅子が倒れ、床に原稿用紙の束が落ちていた。様子がおかしいのでいぶかしみつつも、原稿の束を拾おうとすると……。


「原稿用紙が、発光してるんだよな。で、すぐそばのコピー用紙の束に、その光が移ってるんだ。見てみると、こう……コピー用紙にじわじわと文字が浮かび上がっていて」

 こう、と何か表現しようとしたらしい倉本主任は手を浮かせたけど、結局そのまま膝の上に下ろす。

「その文字、筆跡が愛海先生の字なんだ。宮代が先生から預かった原稿はプロローグだけだったけど、続きが――本編が少しずつ、浮かび上がってきてるんだよ」


「続き、って……」

「宮代がラグーン城に到着して。ズーイに世話になって。神官ザンに巫女って呼ばれて」

「ちょちょちょ、ちょっと待って下さい」

 私はあわてて遮った。

「ずっと、私の行動を小説として読んでたってことですか!?」

「そういうこと」

 ザン、いや倉本主任がうなずく。


 一瞬呆然となった私は、即座に立ち直って急きこんで聞いた。

「あの、ひとつ確認したいんですが。愛海先生の書いたプロローグは三人称で書かれてましたが、浮かび上がってきた本編もそうですか?」

 彼は答えた。

「そうだけど?」

 よ、良かったぁ――!

 私は思い切り、安堵のため息をついた。


 だって本編が、ヒロイン(私だ)の一人称であってごらんよ! 私の考えたことがダダ漏れになってた可能性があるじゃないの! ただでさえ不思議な世界なんだから。

 リュウを見たときに元カレのことを考えたこととか、やっぱ知られたくないじゃん、上司になんて。


「ただし、ヒロイン視点の三人称だったけど。たまに神視点も入るし」

「ぎょぎょっ」

 げ、じゃあ私の行動が、他のキャラクターよりは細かく書かれているということにっ。しかも神視点? ってことは、キャラクター自身の知りえない、愛海先生しか知らない出来事も入ってきてるわけ?

 うわーん、先生、あまり私について変なこと書かないで下さいよ!?

 

「何」

 倉本主任にじろりと見つめられて、私はぶんぶんと首を横に振った。

「何でもございません。続きをどうぞ。そう、どうして倉本主任が、ザンの姿でこんな風に?」

ザン二重人格疑惑の真相、次話に続きます。なんとなくビクビクしながら更新中(笑)

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