1-7
翌朝、鉚一からメールが来てた。
『昨日の埋め合わせ、必ずしろよ。特に愛理さんに。
にぶいおまえは気がついていないだろうから、
あえて言っておくけど、
俺が昨日、誘ったときに、最初は気のない返事だったのに、
おまえが来ると言ったとたんに「行く」と返事したんだから。
意味、わかるだろ?
昨日の、化粧の気合いの入り方でも、わからないか?
いい加減、そろそろ、気がつけよ。
おまえの悪友より』
え、そうなのか?
いや、ほんと、全然気がつかなかった。
オレは携帯の画面を見ながら、しばらく文面を見つめていた。
その携帯には、昨日珠洲香さんからもらった人形がぶら下がっていた。
これを見ると、なんだか顔がにやけてしまう。
もしかして、おれ、モテ期に入ってたとか?
愛理さんがおれにそんなだったなんて、全然気づかなかったし、
珠洲香さんだって、昨日の様子からすると、まんざらでもなさそうだし、
両手に花?
えへへ、なら、うれしいかも?
その気分を顔に出したままだったらしい。
朝食の時、母親は「気持ち悪い。どうかしたの」と言っていた。
顔が緩みっぱなしだったようだ。
出張所へ出ても、その気分は変わらない・・・と思っていたら、
それ以上に周りの方が変わってた。
末真先輩は、僕を見るなり、ニヤッと笑うと、
「よ、色男」
だし、なんだか、全員の僕を見る目が違う。
訳が分からず、事務所へ顔を出すと、
そこでペラペラしゃべっていたのが、チミさん。
どうやら、昨日、目撃されたようだ。
よりによって、チミさんに見られていたのかあ!
「ま、災難だと思えば」
太江さん、そう言うけど、チミさん、こういうネタ、大好きだし、
それをばらまくのは、もっと好きそうだし。
「こういうエピソードの一つや二つ、男なら当然」
いや、細江先輩、既婚者のあなたならいざ知らず、
清純派の僕としては、あらぬうわさはちょっと迷惑・・・
「なにがあらぬよ!あたしは、見たんだからね!」
は、チミさん。
「ゲーセンで、若い男女が汗を流した後で、目と目を合わせて笑い合ってる。
あれが恋でなければ、いったい何よ!」
あ、あのー、事実も一部ありますけど、だいぶフィクション、入ってませんかあ?
「いいの、読者受けするために、一部脚色することはマスコミでもあることなんだから」
そんなこと、力説されても・・・・
「このネタでずずを脅せば、あの子も少しは大人になるわ」
そ、そんな目的なんですか・・・・
チミさんの予想では、
”お願い、チミ、変な噂はたてないで・・・”
”へへ、ばらされたくなかったら、あたしの言うことをきけ~!”
”わかりました、チミ様、どうぞ、なんなりと言いつけてください”
という、世界に持ち込めるネタらしい。
「あの子は、なにやったって、こたえない子なんだから。
馬の耳に念仏、カエルの面にしょ・・・・失礼。
とにかく、彼女が来たら・・・・来たわ!」
トントンと軽い足音がして、ドアが開く。
珠洲香先輩が笑顔で入ってきた。
待ってましたとばかりに、しゃべりかけるチミさんの前に、差し出す携帯。
「な、なに?これ」
「こっち、こっち」
携帯にぶら下がっている人形を示す。
「これ、昨日、ヒロくんとゲーセンで取った人形なの。どお?」
はあ?チミさんの口があんぐりと開く。
自分からばらす?なに、この子?
「みんな、聞いてー。
二人で取った人形、分けっこしたの。いいでしょう。
交換したり分けっこしたりするの、あこがれていたから、
すっごくうれしくて、眠れなかったぐらい。
もう、今日はみんなに話して、自慢したくてー。
あ、あれ?みんな、なに?笑ってるの?あたし、なんか変なこと言った?」
いや、その爆笑の矛先は珠洲香さんにではなく、チミさんにだった。
彼女ですら、笑うのか、怒るのか、泣くのか、表現に困った顔をしている。
訳が分からないのは、珠洲香さん一人。
「チミよ」
綾佳さんが笑いの渦の中、声をかけている。
「もうちょっと相手のこと、勉強してから、つっかかりなよ。
お前ふうに言うなら、糠に釘、豆腐に鎹、のれんに腕押しだぞ。
相手の天然、全然考えてなかったろ?」
「はい、反省します」
そう言うと、チミさんは珠洲香さんに叫んだ。
「ず、ずず。お前、ヒロのこと、どう思ってる?」
「えー、ヒロくんのこと?
うーん、可愛い弟って感じかなあ。
あたし、末っ子で、下の子、欲しいって思っていたから、
なんか、今になって出来た弟って感じで、
うれしいんだけど、それがどうかしたの?」
わかった。もういい。チミさんはがっくりきてる。
ポンと肩を叩かれて、振り向いた。
細江先輩が笑ってる。
「まあ、この相手は簡単には墜ちないぞ。じっくりとかまえてやんなよ」
あ、あの~、そういうことは・・・・・
あ、少しは考えてたな。今朝。
オレも反省します。
もうちょっとまじめに仕事します。
「よし、今朝の引継、始めるぞ!」
所長の声。
「はい!」
全員の声が調和した。
やっと、1話目が完成です。
出だしとしては、まあまあかなあと思っていますが、
いかがでしたでしょうか。
皆さんのように、長編が書けない(根気がない)ので、
短めの話をたくさん作っていくつもりです。
ちょっと休んだら、次いきたいと思います。
宜しくお願いします。