【ひび割れた月・紫陽花】
【ひび割れた月】
意味もなく寂しい夜は
その胸に細い月を抱いて眠ろう
静かな水面にひとしずく
器に小さな傷を作って去っていく
無数の傷は器を輝きで満たしていく
それが割れるか割れないか
器を持つ者に託される──
赤い月と青い月
どこかで悪魔が産声を上げた
天使がラッパを吹き鳴らす
銀の光をまとった剣が悪魔に向かって飛んでいく
「そこにいた! そこにいた!」
蛇が高らかに叫ぶ
黄金の帯が空に舞う
伸ばしても その手は届かない
それでも人は手を伸ばす──
高みへ己を導くために 拳を強く握りしめ
割れて割れて 強くなる
きらきらと乱反射 黒はその場を失っていく
残された黒 光をまとい癒しを与える
ひび割れた月が
「ほら、あなたの手には星があるよ」と小さく笑う
2012/9/14
【紫陽花】
仰ぎ見る空は色を変え
雲の形を変え
それでもずっと頭のうえにある
多くのことが
めまぐるしく目の前を通り過ぎ
傷つくことも
傷つけることも心に積み重なって
私の人生を満たしていく
あなたとともに歩むのも
わるくはないなと
梅雨の始まりを告げる小雨を眺める
すっかり白くなった髪に
年月の移り変わりを噛みしめて
まるで紫陽花のようだねと
わたしは小さく笑った
2016/05/27
*最後までお付き合いくださりありがとうございます。
少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
2012/09/14 河野 る宇
2016/05/27【紫陽花】追加