11話 天才武術師現る(蘭忌妃編)
ゆにです。
さあ今回から『蘭忌妃編』開幕です。
河川敷の土が、踏み荒らされていた。
そこにはすでに、倒れた男たちが転がっている。
その中心に立つ少年は、拳を鳴らしながら肩を回した。
「よし、これで99人抜きだ!」
満足そうに笑いながら振り返る。
「次は記念すべき100人目!
誰が俺の相手になる!?」
だが。
振り向いた先には誰もいなかった。
「何だよ。誰もいないのかよ。」
その時、背中をなぞるような不気味な違和感を感じた。
「ん…この感じ…。」
少年は一瞬で気配の方向を察し、河川敷の道の方へ走り出した。
そして見つけた。
木刀を腰にぶら下げ、のんびり歩いている魔条琉妃を。
「おい!そこのお前!」
琉妃は振り返った。
「ん?俺?」
「そう、お前だ!」
琉妃は少し不思議そうな顔をする。
「なに……?」
少年は親指で自分を指した。
「俺は今、力比べをしているんだ。
今の記録は99人抜き、次が記念の100人目なんだ。」
そして琉妃指を突きつけた。
「100人目はお前に決めた!」
「え、何の力比べ?ゲーム?」
少年はニヤッと笑い、拳を鳴らした。
「そりゃあもちろん…」
ゴキッ
「拳のな。」
琉妃は一瞬黙り、それからため息をついた。
「あー、なら他を当たってよ。
悪いけど素手での勝負は専門外なんだ。」
「いや、お前に決めた。」
少年は琉妃の木刀を指差した。
「それ木刀だろ。
俺は剣士に勝負挑んでるんだ。」
琉妃の眉が少し上がった。
「え、剣士相手に99連勝してきたってこと?拳で?」
「あぁ!拳でさ!」
「わー、素手で剣士に勝つって…リーチの差すら的に回さないのね…。」
「意外とられるもんだぜ?」
少年はその場で素振りをするように腕を振った。
「こう、スッてやってドン!だよ!」
琉妃は半目で見ていた。
「うわ、きょーれつ。」
「俺はお前に勝って、最強だと知らしめる!」
「何で俺なの?」
少年は胸を叩いた。
「なんかババーンってきたんだよ。
今までにない感じ。」
「謎。」
その時。
遠くから悲鳴が響いた。
「きゃーーーー!」
少年が叫び声の方を振り向き、走り出す。
だが、
敵を倒したのは琉妃の方だった。
地面に倒れた男を見て、少年は呆然とした。
「ちょ……横取り…。」
琉妃は先程叫んでいた市民に手を差し出した。
「大丈夫ですか?」
「はい…ありがとうございます…!」
市民は頭を下げ、去っていった。
少年は腕を組んだ。
「おい!俺の獲物だぞ!」
琉妃は肩をすくめた。
「あのね。こんな人で100連勝いってもいいの?
記念なんでしょ。君にとって。」
少年は少し黙り、それから笑った。
「あぁ…そうだったな。」
琉妃を見る。
「お前から奪うんだった。」
「だよね。」
少年は改めて琉妃を観察する。
「見たところ…お前強そうだな。
見かけによらず。」
「一言余計、一言余計。」
少年は胸を張った。
「俺の名前は蘭忌妃。
武術を極めし者だ。」
琉妃は軽く頷く。
「ふーんそうなんだね。」
「おいおい!お前も自己紹介するところだろ!」
琉妃は少し考えてから言った。
「魔条琉妃。まあそれなりに、剣術をやってる者だよ。」
蘭忌妃は笑った。
「人の自己紹介の真似しやがって!」
「リスペクトだよ、リスペクト。」
「全く…好きだぜ!そう言うところ!男としてな!」
「好意はいらんよ。」
琉妃は木刀を軽く回した。
「こんな自分。紹介するほどのものでもないしね。」
蘭忌妃は少し真顔になる。
「そんだけ強いのに、自分すらも紹介できないのかよ。」
琉妃は少し笑った。
「いいんだよ。それで十分。」
蘭忌妃は腕を組んだ。
「だってさー、俺はお前のこと気に入ってるんだぜ?
もっと教えてくれよ。」
「特にないし、あっても言いたくないしー。」
舌打ち。
「ちっ、分かったよ。」
蘭忌妃は拳を構える。
「じゃあ早速勝負しようぜ。」
「そうだね。約束だもんね。」
2人は距離をとった。
「さあこいよ。いつでもな。」
琉妃は首を傾げる。
「俺から行くのね。
君からきた方が剣の内側に入りやすいんじゃない?」
「知らん!俺は頭が悪いんだよ!」
「お馬鹿新キャラ回は前回やったから…。」
木刀を構える。
「……行くよ。」
地面を蹴る。
一瞬で距離が詰まる。
(もらった…!)
だが。
蘭忌妃が木刀を素手で掴んだ。
琉妃は大きく目を見開いた。
「うっそだろ…?」
蘭忌妃はニヤニヤ笑う。
「へっへっへー!」
そして木刀を奪い取り、遠くへ投げた。
「これでお前は何も出来ないな。」
琉妃は小さく笑った。
「それはどうかな…?」
次の瞬間
琉妃は、蘭忌妃の背後に滑り込む。
蘭忌妃が咄嗟に振り返ると、目の前から石が飛んできた。
「ぐっ……!」
石が額に当たった。
体制を崩した蘭忌妃が、壁に背を預けた瞬間。
ドンッ!
短刀が壁に突き刺さった。
蘭忌妃の顔スレスレだった。
「まじか…こんなもん隠してたのか…。」
琉妃は肩をすくめる。
「俺の武器は特殊でね、剣の中に短刀を仕込んでるんだよ。」
蘭忌妃は嬉しそうに笑った。
「気づかなかった……!
やはり俺の目には狂いはなかった…!
お前なかなかの強者じゃねーか!」
「まあ伊達に剣士やってないよ。」
琉妃は、落ちていた木刀を拾う。
その瞬間
蘭忌妃が木刀を拾い、投げた。
「だったらこれならどうだ!」
琉妃は飛んできた短刀を木刀に納め、そのまま木刀ごと投げ返す。
蘭忌妃はそれをかわす。
そして一瞬で距離を縮める。
「これでもくらえ…!」
ドンッ!!
琉妃は咄嗟に右手で受け止めた。
「っ…!」
骨に響く衝撃。
「あぁ、いってえ…。」
右手が痺れる。
だが。
「…まだ。」
琉妃は地面を蹴る。
砂が舞い上がる。
「うえっ…!」
蘭忌妃が咳き込んだ。
琉妃は、その背後に回り込んだ。
「これで終わり…!」
だが。
ガシッ!!
蘭忌妃か振り返り、琉妃の胸ぐらを掴む。
そのまま地面に叩きつけた。
「ぐわっ…!」
拳を振り上げる蘭忌妃。
しかしその瞬間。
琉妃が隠し持っていた短刀が、蘭忌妃の額につき当てられていた。
そして2人は動きを止めた。
蘭忌妃は笑った。
「…引き分けか。」




