第7話 貯金と夜光虫と、ライドの鍛錬
1. RZ250への距離と、過去の公言
コンビニの休憩室で、翔也はスマホの電卓を睨んでいた。
RZ250の中古相場は、最低でも45万円。
そして、あの闇レースでの惨めな6位という順位は、賞金という現実的な金銭的な見返りさえもたらさなかった。
現在の貯金は、純粋にコンビニバイトで貯めた分のみで、まだ10万円にも満たない。
目標達成率はまだ六分の一程度だ。
「あと、あと35.6万か……」
(絶対にRZに乗る。中学の頃から、RZ250って言い続けてきたんだ。あ、ケンジがそのことを知ってるか。。。)
RZ250は当時のバイク乗りにとって一種の象徴であり、翔也のバイクへの情熱の原点だった。自分の力で手に入れなければ意味がない。
2. 敗北の教訓と、トレーニングの開始
あの闇レースでの敗北の最大の原因は、能力の限界、つまり息止めの時間だ。過呼吸に陥り、能力が不安定になった。
「持久力を上げなきゃ話にならない」
翔也は、すぐさまトレーニングを開始した。学校とバイトの合間や帰宅後、シャワーを浴びる前に浴槽に潜り、ひたすら息を止める練習をする。また、高校の体育の授業で習った水泳での呼吸法を応用し、肺活量を鍛え始めた。
(0.5秒でも長く「ライド」を維持できれば、あの二人にも……いや、今はRZ250だ)
能力を純粋なバトルではなく、目標達成のために磨くという矛盾を抱えながら、翔也はストイックに自分を追い込んだ。
3. 再び現れた「夜光虫」の誘惑
数日後、高校の授業が終わり、ジョグで帰宅する途中。
見覚えのある高架下で、中学の同級生、ケンジに遭遇した。
「よお、翔也。逃げんじゃねーよ」
ケンジはセドリックのボンネットに寄りかかり、ニヤリと笑った。周りの暴走族メンバーが翔也を囲むように集まる。
「どうだ、俺らのチーム**『夜光虫』に入れよ。お前、走りは速かっただろ。中免持ってるの知ってるぜ。それに、テメェがRZ250に乗りたいってのもな」
ケンジは、中学時代から変わらない翔也の夢をエサにした。
「入れば、すぐだ。テメェのRZ250の貯金なんてすぐチャラにしてやる。幹部たちの手伝いをすれば、金は稼げる。その力、喧嘩じゃなくて走りに使えばいいんだろ?」
誘惑は、あまりに甘かった。
4.ライドの限界、日常での使用
「悪いが、俺はパスだ。自分で稼ぐ」
翔也は静かに拒否した。
「てめぇ、調子乗ってんじゃねえぞ!」
ケンジの隣にいた大柄なメンバーが激昂し、翔也の胸ぐらを掴もうと一歩踏み出した。
(ここはもう、逃げるしかない……!)
訓練の成果をすように、翔也は全力で肺に息を吸い込んだ。
「ライド」
約10秒。訓練前の倍近い時間、翔也は地面から3センチ浮遊し、掴みかかろうとした男の腕の力を完璧に無効化した。男の指は空を切り、勢い余ってバランスを崩す。
「な、なんだよ? 今、なんか見えなかったか?」
男は不審げにその場に前のめりになる。翔也はその一瞬の隙にジョグに跨り、全力でアクセルを開けた。
「クソッ、逃げたな!追え!」
ケンジたちの排気音を背中に聞きながら、翔也は路地裏を抜けた。
5. 虚しさの残像
安全な大通りまで逃げ切った後、翔也はジョグを停めて、深く息を吐き出した。
(訓練のおかげで、10秒は持続できた。でも、これが何になるんだ……)
命懸けのレースで大敗北を喫した能力を、暴走族相手の日常のトラブル回避のために使う。それは、マサオやディオとの高次元の戦いを知った今の翔也にとって、あまりに虚しい力の使い方だった。
能力を使うたびに強くなる孤独と虚しさ。翔也の能力は、彼の目標(RZ250)とも、彼の戦い(異能バトル)とも、まだ繋がっていない。
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