第5話 決戦と敗北、そして誘い
ディオ男の予選:異形の速さ
「予選最終ランだ!ディオ男、行け!」
拡声器の声が響く。ショウヤはミラー越しに、光を反射させて走る、白いHONDA Dioに跨った細身の男を見た。黒のジャージ、フルフェイスで表情は読めない。だが、そのDioから放たれる**「速さの気」**は、あのVespa野郎とも、自身のジョグとも、次元が違っていた。
ディオの男は、スタートラインで静かにアクセルを捻った。
「パァァン!」
ジョグと同じ2ストの爆音が、アスファルトを叩きつける。彼のDioは、まるで路面に吸い付いているかのように、全くブレない。ショウヤの**「ライド」**による浮遊とは真逆の、異常なまでの路面との一体感だ。
第一カーブ。ディオの男は、減速もせず、加速もせず、まるで最初からカーブを直線として認識しているかのように進入した。
(ありえない……あいつ、重力そのものを味方につけてるのか?)
ショウヤが能力でねじ込んだラインさえも、彼のDioは純粋なテクニックと速さだけで、完全に凌駕していた。ガラス片も、アスファルトの劣化も、彼には存在しないかのようだ。
一周目、25秒0。
場内は静まり返った。ベスパ野郎もショウヤも、誰もがそのタイムに言葉を失った。能力ではない、純粋な速さ。それは、能力者ではないにもかかわらず、能力者であるショウヤたちを完全に否定するタイムだった。
「予選タイム!24秒8!」
拡声器を持ったスーツの男が、初めて心からの笑顔を見せた。
-----決勝レース-----
:能力の限界と崩壊 :
決勝進出者は、ディオの男、ベスパ野郎(27秒9)、そして翔也(26秒1)の三名とも、出場決定した。
「賞金10万円は、誰の手に渡るか!スタート!」
スタートは悪くない。ショウヤは**「ライド」**を発動し、ジョグを路面から3センチ浮かせた。能力による慣性無視の加速で、ショウヤは一気にベスパ少年とディオ男を引き離す。
(よし、このまま、逃げ切る!)
しかし、ベスパ少年の**「心を読む視線」と、ディオの男の背後から迫る「異常な速さの気配」**が、ショウヤの集中力を蝕んでいく。ベスパ野郎の言葉が脳裏にこだまする。――お前が本当に欲しいものは、そんなものじゃないだろ。
焦りから、ショウヤは息を止める時間を無視して、無理やり能力を維持しようとした。
喉の奥が張り裂ける。頭がガンガンと痛み出し、肺が酸素を激しく求め始めた。能力を使いすぎた限界だ。
「はっ、はぁっ、うっ……!」
視界が歪む。過呼吸気味になり、全身の筋肉が痙攣し始める。「ライド」が、ショウヤの制御を離れて不安定に崩壊した。ジョグは一瞬、地面に叩きつけられたかのように大きくバランスを崩した。
その一瞬の失速で、Vespa少年が横をすり抜け、そしてディオのDioが、背中に冷たい風を残して遥か前方を駆け抜けた。
「くそっ!」
息を吸い込むことに意識を奪われ、ショウヤは能力を再構築する暇さえ失った。残りの周回は、ただのボロいジョグだ。次々と他のスクーターに抜かれていく。
――結果、6位。
敗北の代償とスーツの影
ショウヤはジョグを停めた途端、ヘルメットをはずし、激しくアスファルトにへたり込んだ。全身の疲労と、何よりも能力の限界を知った惨めさに、打ちのめされる。
遠くで、ディオの男が黒スーツの連中に封筒を受け取っているのが見えた。スーツの男たちは高笑いしているが、ディオの男はフルフェイスの奥でどこか暗い影を纏っているように見えた。彼はまるで、断れない脅威に晒されているかのように、視線を避けている。
(あの速さで、何かに怯えてる……?そして、俺は、あの二人に全く敵わなかった)
その時、ディオの男が黒スーツの連中から離れ、ショウヤとベスパ少年の方へ歩み寄ってきた。彼はフルフェイスのまま、指で後方を指す。
「……コンビニで、一服しないか」
低く、抑揚のない声だった。
Vespa少年はスクーターの横に立ち、黒いサングラスの奥で何を考えているのかわからないまま、フッと静かに笑った。
「わかった、いいよ、俺も付き合うよ」
『コンビニの誘いと能力の理解』
コンビニの店内。
ショウヤは店内のホットドリンクのミルクティーボタンを押したが、財布の中の小銭を見て動きを止めた。
「それ、俺が奢ってやるよ」
ディオの男が、缶のホットコーヒーを手に取り、ショウヤと、ベスパ少年に投げ渡した。
ショウヤは反射的にそれを落としそうに受け取る。
「……悪い」
ディオの男はホットコーヒーを口にせず、レジ袋に入った**優勝賞金(10万円)**の封筒を、時折不安そうに握りしめている。
(あいつ、その金で、欲しい物を買いたいって顔してるな。そのボロいライダース買い替えたらいいよな……)
ベスパ少年は、なぜ、賞金を手にした優勝者が、あんなにも黒スーツの影に怯えているのだろうか。
「……俺は、ショウ。。ただの、あだ名だけどな」
ディオの男(ショウって呼ばれてるらしい)は、一瞬ヘルメットの顎を上げ、**「ショウ」**という名前を口にした。
(ショウ……?なんか、その間のある言い方……ちと名前被るし。)
ショウヤはベスパ少年が先ほど、ディオの男の名前を尋ねた際の、あの秘密めいた空気を思い出したが、今はこのホットコーヒーを奢ってくれたことに感謝する。
「……俺は、翔也。能力はライドだ。」
つい、正直に自分の能力名を口にしてしまった。
“ディオ”のショウは、首を傾げたが、何も答えなかった。ただのおかしな奴だと思ったのか、、。
だが、その隣でベスパ少年、《名が“まさお”(魔竿)らしい》が、サングラス越しに静かに頷いたのが見えた。(何か全部解られてる気がする、俺の考えが、能力が。)翔也は、違和感を感じていた。
(あいつの速さは、単なる速さじゃない。“魔竿”の全部わかっているよ。 みたいな顔と、ディオの男の純粋な速さ……俺は、この二人に、いつかまた、絶対に出会う)
そしてディオのショウが、又レースで楽しもうと言うとHONDAディオで、空ぶかししながら帰っていった。
『ぺぺぺ、ペペーン、ペペぺベェーん』と音を刻みながら。
缶のホットコーヒーが、冷えた指先にじんわりと熱を伝えてきた。
“まさおさんよ、俺が飲みたかったのがわかるかい?、温かく甘いミルクティーだよ”
翔也の、心の声には感心が無いのか、どうでもいいのか、魔竿も去ってしまった。
→→→→又、いつもの日常に戻るのか。。
nextー-----“日常”に起こる出来事と黒スーツ。




