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鐘が鳴る


 ガン……ガランガラン……!



 創建時の名残りで、この屋敷には有事を知らせるための鐘楼が中央に存在する。

 本来は領地争いで襲撃された時に、守りを固めるよう知らせるための物だった。

 それがけたたましく鳴らされている。


「……っ!」


 グィネスは起き上がるなり、簡単な衣装を身に着ける。


「奥方様! 申し訳ありません!」


 ドアの向こうから侍女長のダリルの声が聞こえた。

 扉の近くの棚から短剣を取り出し、尋ねる。


「あの人が、きたのね」


「はい。この鐘で逃げ出すでしょうが……」


「貴方はすぐにアーロンたちの所へ」


「はい!」


 扉越しに侍女長が去り、他の使用人たちが走り回る音を確認し、解錠した。

 廊下に灯が灯され始める。


「奥方様」


 護衛騎士が現れ、グィネスが従う。


「ついて来なさい」


「はっ」




 グィネスが短剣を握りしめ、息子夫婦の寝室を目指して駆けていると、途中で騎士団長が現れた。


「申し訳ありません。迂闊でした。まさか今夜……」


「油断していたのは私も同じ。周囲は固めた?」


「はい。必ずや……」


「仕留めても構わない。必ず捕まえなさい」


「はい」


 騎士団長と別れ、さらに奥へと進むと、息子夫婦の寝室の前で執事と数名の騎士たちが待っていた。


「火事だと、偽って開けさせたのね」


「……はい」


 寝室の前の床には大きな銀のトレイが置かれ、木切れと紙くずの燃えたあとが残っている。


「……医師もすぐに来るはずです。今呼びに行かせていますので。アーロン様におきましては……」


 執事が言い終える間もなく、部屋の中からアーロンの叫び声が聞こえた。


「ああああっ!」


「肩を、外されていました。苦しんでおられたので、騎士が応急処置を。今ので元に戻せたら良いのですが……」


「入っても?」


「はい……」


 執事は言葉を続けようとして飲み込んだ。 


 騎士が扉を開ける。

 グィネスが見たのは、信じがたい光景だった。


 愛らしく整えられていたはずの夫婦の寝室は泥と煤で汚れて破壊され、暴行を受けて血まみれのアーロンは痛みに耐えられず気を失って横たわり、部屋の真ん中にフィリスの身に着けていたであろうものが散乱していた。


「若奥様は……。私室へお運びしました」


「アーロンも……別室で寝かせましょう。ここはもう使えない」


「はい」


 騎士たちと執事が近くの客室へアーロンを運び出す。


「フィリス……ごめんなさい。私がもっと……」


 片方だけ転がっていたフィリスのスリッパを手に取り、グィネスは悔いた。




「くそくそくそっ! 早すぎるだろう!」


 馬を駆るキャメロンに冷たい雨と霙が容赦なく叩く。


「旦那様。惜しかったですなあ。せっかくのご馳走でしたのに」


 並走する男はここ数年一緒にいる傭兵崩れで、ポーと言う。

 小柄だが、力は強く、人を痛めつける事が何よりも好きで、悪知恵においては天下一品な上、声真似も得意だ。

 ほんの少し侍女長の声を耳にしただけで、フィリスを簡単に騙すことに成功した。


「ほんっと、あのおっさんの言った通りでしたねえ。娼館にもあれほどの極上はいませんぜ。一口ご相伴できなかったのが残念無念」


「ふん。またほとぼりが冷めたら次こそは……」


 と、そこで強い風が向かいから吹き、二人は思わず身体を低くした。


 ヒュンヒュンヒュン!


「うわ、しまっ……」


 よけようのない無数の矢が二人に向かって飛んできた。

 馬にも人にもグサグサと刺さる。


「ぐああっ」


 馬はどう、と横倒しに倒れ、投げ出された二人も地面にたたきつけられる。

 それから間もなく、幾人もの人と馬と松明に囲まれた。 

 地面に這いつくばったままのキャメロンは、キリッと糸を絞る音にわずかに顔を上げた。

 すぐそばで一人の男が矢を構え、自分の額を狙っている。

 松明の炎の揺れるなか、栗色の瞳が光った。


「お前は……」


 名前は憶えていない。

 ただ。

 十数年前に、同じことがあった……ような気がする。

 記憶を巡らせながら、キャメロンは意識を手放した。




 

 

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