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結婚式



 結婚式の朝、領地の林檎の木の花が一斉に咲いた。


「とても綺麗よ、フィリス」


 花冠に薄いベール、波打つ長い髪にはところどころ小さな花が散らされた。

 白いドレスも最新の注意を払って織られた、軽やかなものだった。


「花冠を編んでくださりありがとうございます。レイチェル様」


「これからはもう、貴方は私の妹よフィリス。姉と呼んでね」


「はい、お姉さま」


 花冠からは懐かしい香りがした。

 ローズマリー、ラベンダー……。


「材料のほとんどはイアンが摘んできてくれたのよ」


「そうでしたか……」


 小さかったイアンはこの一年でフィリスの背を追い越した。

 ジェスの頼もしい右腕となっている。


「最高の贈物です」


「そうね。良い子に育ったわ」


 それからすぐに侍女長が呼びに来て、敷地内にある礼拝堂へ向かった。

 驚くことにブルーノ家の小さな礼拝堂にはたくさんの人がお祝いに駆け付けてくれていて、けっこうな人垣となっていた。

 アルフレッドと小さな妹アメリが花びらを撒きながら歩く後ろを、後見人のヤング伯爵のエスコートでゆっくりとついていくと、義姉たちの家族や家臣たち、使用人たち、そして領内で知り合った人々、さらにはこの一年の社交で仲良くなった令嬢や夫人たちが拍手しながら歓声を上げてくれる。

 雲一つない青空。

 林檎の花の香り。

 フィリスは涙を堪えた。

 

 祭壇の前には正装のアーロンが緊張の面持ちで立っていた。

 青磁の瞳がきらめいて、白い頬は林檎の花の色に染まっている。


「フィリス」


 名を呼ばれただけで、胸がいっぱいになる。


「アーロン様」


 この人の名を呼ぶ日が来るなんて、思いもしなかった。

 


 宣誓をして、婚姻の署名をして、指輪の交換をして、誓いの口づけをして。

 割れんばかりの拍手の中、これが夢なら冷めないで欲しいと願った。


 祝宴でも多くの人に祝辞を述べられ、アーロンと二人で顔を見合わせては頬を染めた。


 アーロンはデビュタントを終えた翌日に、フィリスと一緒に領地へ戻り、多くの時間を共に過ごした。

 彼が結婚式を早く挙げたいと言うので領地で行うこととし、準備で大忙しだったが、それもまた楽しい日々だった。

 長い間、ほとんど首都にいた跡継ぎがずっと領地にいて仕事に励んでいる姿を領民たちは喜んだ。


 この挙式に当主キャメロンとウエスト家は現れなかったが、それに対して異を唱える者はいない。


「フィリス……。今日の君はまるで女神のようだった。あまりにも綺麗で、君に触れたら消えてしまうのではないかと怖かった」


 寝室で初めて二人だけになった時、アーロンは薔薇の花が散らされた広い寝台の上で、向かい合わせに座っているフィリスの指の爪に口づけを落とした。


「私も。あまりにも幸せ過ぎて……夢だったらどうしようと。夢なら、覚めないで欲しいと願いました」


「これは夢じゃないよ。現実だ。これからずっと。ずっとずっと僕たちは一緒だ」


 フィリスの指にアーロンの指を絡められて、胸が苦しくなった。


「アーロン様。どうしたらよいのでしょう。胸が……きゅっとして、熱くて、苦しいです」


「困ったな……。僕もだよ……」


 月明かりが窓から差し込むなか、二人はゆっくりと顔を寄せて。

 唇を合わせた。



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