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プロローグ
「おい、ウェスト伯。いくらなんでもこんなみすぼらしい子どもに金を払えと?」
応接室で尊大に足を組みパイプの煙をくゆらせる男は、呆れたように笑った。
「まあまあ、ブルーノ伯爵」
へらへらと笑いながらいなすのは、その向かい座り、身を乗り出し説得にかかっている男で。
「この子の母親も初めはこんな感じでしたが、年ごろになると見違えるように成熟しましたよ。後妻のアリスをご存じでしょう。あれは前妻の従妹なのです。あの一族の女は見た目も良いし、ぽんぽんと子どもを産みますよ」
「ふうん。そうか」
気のない返事だが、ブルーノ伯爵と呼ばれた男の目の色が変わった。
「直系の跡継ぎをお望みでしょう。貴方の血を間違いなく引いた」
「まあな」
「しかも伯爵以上の正妻の子で年ごろの娘に婚約者がいないのは、この国ではこの子くらいしかもう残っていませんよ」
「ふ……。口が上手いなウェスト伯。なら、買い取ってやろうか、その子を」
話が決まった。
フィリスは瞬き一つせず、会話の行方を見守った。
まるで山羊の売買と変わらない。
二人は、この国の高位貴族の当主たちなのに。
「ありがとうございます。つきましては婚姻費用を……」
かくして。
フィリスの嫁ぎ先が決まった。




