守の短編 社会人魔法少女の休日
県境へと向かう山道を颯爽と登る1台の自転車。電動自転車ですら怪しい傾斜を難なく進むのは、多少はスポーティーなデザインとは言えママチャリである。
周囲に人気は無く、車通りも疎らな為に目撃者は他に誰も居ない。
涼しい顔でペダルを漕いでいるのは身長135センチの小柄な少女。名前は、相田理多。
少女とは言ったが、実は違う。こう見えて彼女は立派な成人女性である。ちなみに25歳、会社員。
本日は11月の土曜日。社会人には貴重な休日であり、にも関わらず、重大な任務の為にこうしてサイクリングに繰り出している。
やがて彼女は、山道の脇に自転車を停め降車すると腕を一振り。ママチャリが忽然と姿を消した。
そのまま何事も無い様子で、獣道レベルの細い道へと入っていく。
──────────
しばらく道を分け入り元来た山道から完全に見えなくなっただろう頃、リタはぴたりと立ち止まって瞑目しだした。
「魔力」を放ってその反射から異常物が無いか、周囲を索敵しているのだろう。
「──チッ…。」はぁ…
う~ん。舌打ちも魅力的。
何かを諦めたらしい彼女は、そのままそろりと歩き出す。
「………『変身』──。」フォシュン…!
ボソリと呟くと彼女の体が一瞬──正確には0.02秒、人に視認されない早業──桃色に光り、その姿形を変える。
眠たげでありながら芯の強さを感じさせる瞳はそのままに、日本人特有の艶やかな黒髪が、色味だけ桃色に変化する。
服装は、少々のフリルと多用途ポケット群が付いた、鮮やかな黄色地に紫色の紋様入りの民族衣装の様な出で立ちにチェンジ。手には15センチほどの飾り気のないシャープな木の棒。
そう…! 彼女は日夜、悪と戦う正義の魔法少女なのだ…!!
短時間な為にじっくりと眺められないのが残念だが、今日もとっても素敵な変身バンクであった。キレてるよ! ヒュー!ヒュー!
薄い魔力光をその身に纏ったリタは、ふわり浮き上がると前傾姿勢になって木々の隙間を滑る様に飛ぶ。
他には誰も見ていないのだから、山の入り口くらいから飛べばいいのにねぇ。
奥ゆかしくて、良い子である。どこまでも推せるっ!!
──────────
「相田先輩!! お疲れ様ですっ!!」
「ご苦労様。状況は?」
舎弟風に喋る彼女は、リタの後輩の魔法少女ちゃんだ。スラリと背の高い体育会系女子。
テレビゲームに登場する女弓使いと言ったファンタジックな姿をしている。ちなみに高校生、アーチェリー部所属。
この辺り一帯の魔法少女達を纏めるサブリーダー的なポジションに就いている。もちろん、リーダーは我らがリタちゃんである。
「はい、『次元門』にイレギュラーな兆候は有りません。新人の配置は済んでます。『開放』はいつでもいけます。」
「そう。ありがとう。」
リタが視線を奥へと向ける。
4本の石柱が立つ草の広場と、その石柱の間に浮かぶ黒い球体が1つ。そしてそれを見上げて拳を突き合わせる少女が1人。
「やるぞ、ナッツ! 気合い入れろよ!」
「ジチュー!」ご飯の為にやるわー!
赤い拳闘士風な子だ。勝ち気な小学生…、いや中学生かな。その肩には、丸々と太ったハムスターの様なファンシー生物が乗っている。何やら食欲旺盛なマスコットキャラだが大丈夫だろうか?
リタが彼女の所へと歩いていき、後ろから声を掛ける。
「カシュウさんね?
私はリタ。今日はよろしく。」
カシュウと呼ばれた少女は振り返り、自身より背の低いリタをマジマジと見つめる。その目には嘲りの色が浮かんでいた。
「ヘンッ。オバサンは引っ込んでろよ!」
「ジチュウッ!?」カシュウちゃん!?
お前っ!? 大先輩に向かって何だその態度!? 人生経験値はそっちの倍は有るんだぞ!!
「そう。お手並み拝見といくわ。」
リタは、赤いメスガキの言葉を素知らぬ顔で流した。流石だ。
それはそれとしてあのガキ、マジで「わからせ」てやろうか…?? お前程度の実力なら秒でグチョグチャだぞ…。
「では。拘束術式を緩めるわ。」
リタの桃色魔力が石柱に流れ込み、その途端に広場上空の黒い球体が巨大化してバチバチとスパークを放出し始める。
あれこそは「魔界」と繋がる門であり、人間世界を支配せんとする「悪魔」達が通る道なのだ。
すると、目と耳を魔力強化させた高校生アーチャーが驚愕の表情になり鋭く叫ぶ。
「──!? 中級が──3体同時!? 憤怒系! カシュウは下がって!! ここは私達が──」
「しゃらくせえ!!」
黒い球体の中から赤黒いゴリラが3匹、ヌッと現れ、ドゴンッ!と派手に着地した。
大きさはどれも3メートルは有るか。猛り狂った表情で即座に魔法少女達に視線を向け襲いかかろうとする。
赤ガキが両手両足に炎を纏い、真っ直ぐに突撃していった。火炎放出の反動で加速、そして拳での破壊力向上。シンプル故に扱いやすい強化だな。
「」ブンッ!!
「ここだっ…! ──!?」
「ゴアッ!!」
魔ゴリラAの腕ハンマーを避け、懐に入った赤ガキ。しかし攻撃を当てる前にゴリラBが横合いから襲いかかってきた。Aもろともに赤ガキを潰す気らしい。
「ちっ!」
諦めて飛び退く。だが──
「ガア!!」
「うっお──!?」
着地とほぼ同時に、その場所にゴリラCからの火炎放射が浴びせられる。
類人猿の姿をしているだけあって、憤怒カテゴリーのくせに割りと知能が高いらしい。おまけに瞬発力も高い。
特に戦闘スタイルが近い赤ガキは数の不利も有って苦戦している。まあ、同士討ちも多いからそこそこ削れてはいるけど。
やがて、AがBを巻き込む形で火炎球を撃ち、赤ガキも飲み込まれた。
「ぶはっ!」離脱…
「ジチュッ…!」全方位結界ぃ~…!
「ナッツ!それ維持してろ!このまま──」
──ドガンッ!!!
Cが炎を噴射させて突撃してきて、注意力の落ちた赤ガキを完全捕捉。大岩の如き拳が直撃した。
マスコットの張った結界障壁ごと砲弾の様にぶっ飛んだ赤ガキが、森の木々へと突っ込む。
バキッ!!ドシッ!!ズガンッ!!
「──ぅが、はぁ…っ…、」
「」ぽてっと沈黙…
魔法少女の耐久力と防御術で耐えきった様子だが、即座の戦闘復帰は不可能そうだ。
まあ、それで終わったりしないが。
「ゴアッ!!」ゴウッ!!
「ぁ────」
ゴリラAの片腕立ち飛び蹴りが炸裂、赤ガキが足裏のシミになる──寸前。
シュンッ!シュンッ! シュシュンッ!!
「ガ/
/ァ?」
「光の線」が走り、ゴリラAが5つくらいの肉塊に分けられ一瞬で絶命。
勢いのまま、赤い血を撒き散らしながら飛んでいき地面に転がった。そのまま黒い灰となって霧散していく。
シュシュンッ!!
「ギギャ!!」
「ゴギギャ!」
強力な光線が連続射出された。
それらはBとCに飛来するが奴らは俊敏に回避。しかし反撃に移ろうとしたところで、背後に展開された反射魔法板に光線が跳ね返り、彼らの脳や心臓を貫通する。
「「」」ドサッドサッ!
「…、」
涼しい顔で、構えていた木の杖を下ろすリタ。
倒れた悪魔ゴリラ達が霧散するまで観察した後、黒球体を確認して後輩ちゃんへ目配せ。それから、倒れたままの赤ガキの元へと向かう。
「──傷を癒せ、『光回復』。邪気を祓え、『浄化』。」
「ぐぅ、あ…!!」
「ジ…ジチュ…、」
1人と1匹の体を白い光が包み込む。傷がゆっくりと塞がり、汚れが消え、破損した魔法衣が直っていく。
ダメダメ新人の回復までこなすなんて、さっすがリタちゃん。人間が出来てるなぁ。
赤ガキはそこで反省してようね。
「くっ、そがぁっ…!!」
項垂れる赤ガキを放置して、リタちゃんは後輩ちゃんと共に散発的に現れる悪魔獣達を効率良く倒していく。
白色の光線が縦横無尽に踊り次々と細切れにしていく様は、惚れ惚れするほどの無双っぷりである。
──────────
「さて、帰りましょうか。」
20体以上の悪魔達を殲滅したリタは、終了を宣言した。ゲートは完全沈黙し、再度封印されている。
今週の敵はなかなか粒揃いだったね。お疲れ様である。
「──勝負しろ、オバサン。」ザッ…
後ろで見ていただけ赤ガキが、暗い顔でリタちゃんに詰め寄ってきた。
「嫌よ。」
「勝負しろよっ…!!」
随分と必死の形相だ。まるでこのままでは自分が殺されてしまうかの様な必死さである。
だが、リタちゃんはクールビューティーな雰囲気を些かも崩さない。むしろ内心では「面倒臭いなぁ。」と思っている。
が、相手の気迫から適当にあしらうのも危険だと考えてもいるみたい。
そんな彼女があらぬ方向に顔を向けて、言葉を放った。
「スクル。居るんでしょ?
この子の相手をしてあげて。」
リタちゃんからお呼びが掛かった!!
「──即座に参上! 任せてリタちゃん!」
突然姿を現した僕に、三者三様の視線が飛ぶ。
赤ガキは混乱、後輩ちゃんは矢をつがえ弓を向けての嫌悪、そしてリタちゃんのは諦めと面倒の感情が籠っている。
「誰だこいつ…。」
「カシュウ。こいつは下衆男です。耳を貸してはいけません。」ギリギリギリ…!!
「この男はスクル。私よりも強いわ。こいつに勝てたら貴女が名実共にナンバーワンよ。」
「本当かよ…。」
ふむふむ。負の感情で凝り固まった彼女に、胡乱な存在である僕をぶつけてあわよくば正常な精神状態に移行させる狙いがあるみたいだね? ならば!
「僕は! 光の守護者マジカル・リタファンクラブ! 会員ナンバー4のスクル!!
さあ、赤ガキちゃん! 相手をしてあげよう!」
──パチン!
──────────
指パッチンをした後、ゆっくりとした動作で腕に傷をつけ血を流れ落とす。
地面に溢れた赤い液体を操作し、複雑な紋様を描いた。途端に魔法陣が赤く輝き、機能を発揮する。ズゴゴゴ…と異質な音を響かせて黒い石造りの荘厳な門が、地面から迫り上がった。
そのまま自然に扉が開き、黒と紫色に渦巻く空間が現れる。
「は…??」
「ジ、ジチュウ…。」がくぶるがくぶる…!
赤ガキ呼ばわりされたカシュウちゃんが、怒りを発現させるよりも困惑が勝った様で固まる。
「ここでやると結界柱に影響するからね~。場所を変えよう。さ、どうぞ。」ウェイター風の指し示し…
「だ、誰が行くか──!」
「」すたすた…
「あ! ま、待てよ!!」
リタちゃんが転移門を素知らぬ顔で通り、赤ガキも恐々としながらも後に続けて飛び込んだ。
「後輩ちゃんは来ない?」
「」無言の弓引きしぼり…!!
「そっかそっか、お疲れ様~。」
アーチャーちゃんを残し、僕自身も転移門を潜った。
「こんにちは、スクル様。『プライドホテル』へようこそ。」
「やあ、こんにちは。」
転移門の向こうには、専用受付ロビーとなっている。
カシュウちゃんはリタちゃんの側で周りをキョロキョロと見回していた。
「バトルフィールドは空いてるかな? 宿泊は無しで。」
「はい、空きがございます。今なら『獅子の間』が適当かと思います。」
「そこでお願い。時間は…、とりあえず3時間で。結界はこちらが負担します。」
「かしこまりました。」
受付員の彼女にチップを多めに渡してから、2人を連れてホテル内を移動する。
「な、なんだよ、ここ…。」
「プライドホテルだよ。割りと有名な宿泊施設なんだ。ここに有る設備なら魔法少女ものびのびと戦えるから安心して?」
カシュウちゃんは「意味分かんねぇ…。」と呟くが、気にしたら負けである。
「さて。ルールはどうしよっか?」
体育館の様な大広間の中で、カシュウちゃんに声を掛ける。リタちゃんは壁際に寄って光の結界魔法で施設を保護しながらパイプ椅子に座り観戦モードだ。
「殴って倒せばいいだろ。」
「そんな野蛮なことはできないよ~。
そうだな、カシュウちゃんは君の炎を僕にかすらせることができたら勝ち、僕は君に『参った。』と言わせら勝ち、でどうかな?」
「」ギリッ!
見下しやがって…!!と闘志を高めるカシュウちゃん。ふふ、君は憤怒系の方が適性有りそうだね。
「さ、暴食の妖魔ハムスターちゃん。これあげるからカシュウちゃんに本気の魔力供給してあげなよ?」ひょいっ…
「ジ…、ジチュチュ!」美味しそうですわ!
僕やホテルの魔力に当てられて震えていたハムスターちゃんが、放り投げられたお菓子をパクッとキャッチ。頬張って恍惚の表情になる。
「ちなみにそれは、マジカルリタ印のマジカルラムネ! 軽微ながら魔力回復もできる優れものだよ~。付属シールを集めてるんだけど激レアな初期イラストのリタちゃんが出な──」
「ジチュー!!」やったるでー!
「おらあ!!」魔力極大噴射!
話の途中なのにカシュウちゃんが突っ込んできた。
うんうん、大人の話なんか聞きたくないよね君は。
直線移動としてはなかなかの速度だが、炎を纏った拳の軌道はひどく読みやすい。スイスイと避けていく。
「このっ! なんでっ!」
無計画に突っ込むならせめて勢いのまま攻撃し続けないと~。
「じゃ、こっちからも行くね。『ダークボール』~。」
指先から黒い半透明な魔力弾を撃ち放つ。ひゅ~っとそれはカシュウちゃんへと向かっていった。
「こんなもんっ!」ブンッ!
炎の拳がダークボールを叩き落とそうと触れた瞬間──
「──あああアアアアぁあ!?」
カシュウちゃんが絶叫をあげて崩れ落ちた。
「ジチュ!」カシュウちゃん!
「」はひっ…、ぐぅっ…
「あはは、痛いでしょ? でも安心して。それは痛いだけだから。」
闘争心は鳴りを潜め、怯えた表情になったカシュウちゃん。
ふふ、なかなかにそそる顔をするね。
「僕は幻覚、幻、を相手に見せることができるんだ~。今君には、『腕を噛み千切られた痛み』を再現させた。実際に腕には傷1つ付いてないから大丈夫だよ。」
「ふーっ! ふーっ…!」
お。激痛だったろうに、立ち上がったね。うんうん、それでこそ悪に屈さぬ魔法少女。
「それじゃ、模擬戦再開するよ~。」ポウ…ポウ…ポウ…
周囲にダークボールを3個展開。カシュウちゃんへとけしかける。
「くっ、そっ!!」
逃げる様に回避する彼女に、鬼火の様に黒い弾が追いすがる。
「ほらほら、僕に炎を当てないと終わらないよ?」たったかたったか~…
「!? このっ!!」
並走する僕に驚いた赤拳闘士が腕を振り払う。
その軌道上に4つ目のダークボールを出現させた。
「あ────~~~~ッッ!?!?」
お腹を抱えて踞るカシュウちゃん。悲鳴すら上げられない様子だ。
そこに追尾していたダークボールが迫る。
「ジチュー!!」させませんわー!!
黒弾が暴食ハムスターちゃんの結界に接触──そのまま素通りでカシュウちゃんの背中へと吸い込まれる。
「──!──!?──!?!? ァ…、ぎぃ…!!」
「ジチュ!?」カシュウちゃん!?
ビックンビックンと跳ねる魔法少女の身体。その顔は涙と洟でビシャグチョ状態である。
「うん、うん。その痛みでも気絶せずに意識を保つなんてやるねぇ。」
「ひ──は──はぁ、ふぅ──」がくがくがく…!
「ちなみにその痛みはリタちゃんが今までの戦いで受けたものを再現しているんだ~。一般市民とか他の魔法少女を庇って被弾することが多くてね、彼女。昔っから、自分の傷は簡単に治療できるって無茶してさ~。ほんと、『利他主義』にも程が有るよね~。」
そこが格好良くて、眩しい英雄なんだけど。
「そんな彼女は君みたいな新人ちゃんの言葉なんか気にはしない。でも、そんなのはファンが許さない。分かったかな?」
「んぐっ…──、ふーっ!」微かな反骨精神…!
「そっか。」
腕を一振り。カシュウちゃんの周囲をダークボールが覆い尽くす。その数66個。
魔法少女が絶望的な表情で顔を青ざめさせる。
「ジ、チュ…、」こんな、の…
「」カタカタカタカタッ…!
「さて。ルールは覚えてる?」
穏やかな声色で彼女に問えば、ぐっと歯を食い縛ってから絞り出す様に言葉を紡いだ。
「ご、ごめ、ごめん、なさ、い、こ、降、参するぅ…!」
うんうん。ちゃんと自分の行動を、心の底から省みれたね。偉い。
「じゃ、ここまで。」
──パチン!!
──────────
「へ…??」
「ジチュ…??」
カシュウちゃんとマスコットハムスターが瞠目する。
まあ、無理もない。彼女達の主観では、ホテルのバトルフィールドから「元の山奥」にいきなり切り変わったんだから。
「良い経験になったかしら?」
リタちゃんがカシュウちゃんに優しく声を掛ける。
「え? …ん???」
「カシュウ。信じられないかもしれないけれど、あなたはこの下衆の催眠術に嵌まったの。」ギリギリ…!
「さ、催眠術…??」なんでユミ先輩がここに…??
僕に弓矢を向けたままの後輩ちゃんが、諭す様に言葉を繋げる。
「順に言えば。
ゲートの悪魔達を倒した後、あなたが勝負を吹っ掛けて、下衆が現れて指鳴らしして。そしたらあなたが虚ろな眼になって。
10秒ほど経ったのが『今』よ。」ギリギリギリ…!!
「はっ──あ…!?!?」
「そうだよ~。ダークボールを当てたりせずとも君程度なら一瞬で僕の術中なのさ☆」
指パッチンから指パッチンまでの全ての過程は、カシュウちゃん(とお供ハムスター)の頭で瞬間展開された幻なのだ。
ま、本当に転移門も出せるし、傲慢ホテルも実在するんだけど。
──────────
「なんでカシュウさんの母親を精神操作したの?」
「うん?」
悪魔退治と幻影模擬戦を終えた後、カシュウちゃんと後輩ちゃんをそれぞれの家に送ってリタと2人で歩く道すがら、質問が飛んできた。
「する必要が有ったから、だけど…?」
「まあ、あんな人じゃ、そうでしょうね。
だけど、私が指摘してるのは『理由』じゃなくて『動機』。あなた、あの子のこと嫌いじゃないの?」
カシュウちゃんの母親はいわゆる束縛系教育ママと言う奴だった。僕らが家の前に着いた時も問答無用で問い詰めてきて。面倒だったから、余裕皆無な哀れ女を精神操作して大人しくさせておいたのだ。
これでカシュウちゃんへの精神負荷は今後そこそこ減るだろう。
「まあ、リタちゃんを馬鹿にした態度は今でも許せないけど、ちゃんと反省はできてたし。あの子もそれなりに苦しい中で頑張っているって分かったからね。」
「心の中を覗けるのも考えものね。」
「彼女も一応は、魔法少女足りうるってことだよ。」勇気と成長…プライスレス!
「あら、担当ファン乗り換え?」
「まさか。僕はリタちゃん一筋だよ。」
「頻繁に浮気してる気がするけどね。」
肩を竦めて流されてしまう。夕焼けを浴びてのこの表情も映えるなぁ。
「──先々代の怠惰の魔王に憑依されながら、魔法少女としても社会人としても真面目に活動できる至高の化け物なんて、リタの他に居る訳ないじゃん。」
気怠げな中にも力強い芯を感じさせる瞳が、僕を射貫く。
くぅ~! 良いッ!
「そんな私を堕落させた、色欲の魔王の息子が何を言ってるんだか。」
「全力の精神汚染で快楽堕ちできず、普通に人格を保たれた時点で僕の全面敗北だけど?」
「本当に勝ってるならあなたを傍には置かないわよ。」不毛な会話だわ…
僕は、父親が元人間である強欲の魔王だから、他の悪魔よりも人間世界で活動しやすい程度で直接戦闘力は大したことはない。精神汚染に抗われた時点で降参である。
「ほら。晩ご飯、奢ってくれるんでしょう? とっとと行くわよ。」
「ねぇ、本当にラーメン屋行くの…? 今からでもプライドホテルの最上階レストラン行かない…?」予約取れるよ僕…
「行かない。」
せっかくの休みにそんな堅苦しい所に行くなんて、気が休まらないじゃない。と、僕に念話を送ってくるリタちゃん。
う~ん、やっぱり僕、負けてるよな~…。
ちなみに、後輩アーチャーちゃんは、リタファンクラブ会員ナンバー666で、1桁ナンバーのスクルに「嫉妬」の炎がバリバリです。
今日も一心不乱に鏃を研いでます。最近、危険な魔毒を付与できる様にもなりました。




