マルタ=スカヴロンスカヤはステーキの夢を見るか~「ピョートル大帝のステーキ」を巡るあれこれ~
マルタ=スカヴロンスカヤ、後に名を改めエカチェリーナ=アレクセーエヴナ(1684~1727)。
エカチェリーナ一世の名で知られる彼女は、ロシア帝国の初代皇帝ピョートル一世(1672~1725)に見初められ、一介の戦争捕虜から皇后、さらには皇帝にまで成り上がった女性です。
彼女を主人公にした小説『マルタ=スカヴロンスカヤは灰かぶりの夢を見るか~史上最大のシンデレラ物語~』を執筆したのは2年ほど前の2023年8月のこと。
秋月 忍さまが主催された『サマーシンデレラ企画』向けに書き下ろしたものです。
その後、マルタがピョートルの胃袋を掴んだとされる「ピョートル大帝のステーキ」なる料理が存在することを知り、もっと早く知っていたら作品に取り入れたのに、と残念に思いました。
ロシア語では、「Мясо по-петровски(ミャサ・パ・ペトロフスキ)」。ピョートル風肉料理、といったところでしょうか。
インターネットで「ピョートル大帝のステーキ」を検索してみると、タマネギとチーズのソースをかけたビーフステーキが出てきます。
これは、加藤 美由紀さんという料理研究家の方の著書、『きょうはロシア料理』という料理本に載っているものです。
しかし、「Мясо по-петровски」で検索をかけてみると、出てくるのは全く違う代物。
キャセロールにジャガイモと牛肉を盛り付け、キノコのソースをかけてオーブンで焼いた料理です。さしずめ、ロシア風肉じゃがですね。
はたして、マルタがピョートル大帝(当時はモスクワ大公)にふるまったのは、どんな料理だったのか?
そもそもそのエピソード自体創作だろ、とかいうツッコミはなしの方向で(笑)。
とりあえず、両方とも実際に作ってみました。
あ、もちろん同時にではないですよ。それぞれ別の日です。
まずはチーズがけステーキの方。『きょうはロシア料理』を最寄りの図書館で借りて来ました。
赤身のステーキ肉を買って来て、牛乳に3時間ほど漬け込みます。
今回使ったのは、和牛の腕肉。赤身が多めの部位ですね。
元々、赤身の肉を美味しくいただくためのレシピのようで、サシのたっぷり入ったいわゆる「上等な」お肉を使うと、かなりくどくなるようですのでご注意を。
どちらかというと和牛肉よりもオージービーフとかの方が良いようです。
漬け込んだお肉に塩胡椒をして両面を軽く焼き、湯通ししたタマネギスライスを乗せます。
で、本のレシピにはマヨネーズと書いているのですが、くどくなりそうなのでヨーグルトにしてみました。
ハードタイプチーズ(レシピにはグリュイエールとありましたが、今回使ったのはゴーダ)をすりおろしたのと、パセリのみじん切りを混ぜて、お肉をマリネします。
2時間ほど漬けこんでおいて、スライストマトを乗せて170℃のオーブンで15分ほど焼いて出来上がり。
なかなか美味しかったです。
そりゃそうだ。トマトにチーズだもの。
でも……。
やっぱりこれ、18世紀のはじめに召使い上がりのマルタが作った料理とは、到底思えないんだよなあ。
『きょうはロシア料理』には、エカチェリーナはこの料理でピョートルの胃袋を掴んだ、彼女はこの料理しか作れなかったという、などとまことしやかに書いてありますが……、多分後世の創さ……ゲフンゲフン。
ではお次。肉じゃがの方です。レシピはロシア語のサイトをgoogle翻訳さんに訳してもらったのを参考にしました。
キャセロール等の直にオーブンに入れられる鍋に、バターをしっかり塗り、角切りのジャガイモを敷き詰め、塩を振ります。
その上にお肉。レシピではブロック肉を1.5cmくらいにスライスしていますが、今回使ったのは厚めカットの焼き肉用オージービーフです。
塩胡椒してタマネギと炒め、ジャガイモの上に盛ってギュッと押さえつけます。
さらにその上にかけるキノコのソースを作ります。
ブラウンマッシュルームのスライスを炒めて、サワークリーム(ヨーグルトで代用)と塩で和えて煮詰めます。
イモと肉にキノコソースをかけたら、180℃に予熱したオーブンで50~60分焼く、とあるのですが、焦げてきたので40分ほどで出しました。
ピョートル大帝の肉じゃが、完成です。
お皿に盛るとこんなかんじ。
これも美味しかったです。酸味のきいた味付けのお肉もいいですね。ほくほくジャガイモ美味え。
うん。やっぱりこっちの方が、マルタがピョートルにふるまった料理と言われて納得しやすいですね。
カレリア地方(ロシア北西部からフィンランド南部にかけての地域)の料理らしいので、マルタの出身地がリヴォニア(ラトビア東北部からエストニア南部にかけての地域)ということと考え合わせると、やはり疑問は湧いてくるのですが。
で、ロシア料理のお店も何軒か回って、これについて質問してみました。
しかしながら、ロシア人の店員さんも含め、「ピョートル大帝のステーキ」なる料理は初耳だ、ロシアと言っても広いからね、というような回答でした。そりゃまあそうだ。
これに関してどなたか情報をお持ちでしたら、お教えいただけたら嬉しいですm(_ _)m
さて、今回何故こんなエッセイを書いたかというと、発表済みの女性君主テーマ短編をひとまとめにして短編集にすることにいたしまして。
それを機に、『マルタ=スカヴロンスカヤ~』に料理シーンをぶち込んで大幅加筆修正しようと思い立った次第。
もちろん、採用したのは肉じゃがのほうです。
基本的に発表済みの作品を纏めただけのものですので、既読の方には申し訳ないのですが、一気読みしたい方は是非どうぞ^^;