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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

機械人形の恋

作者: 百合宮桜

この世界に生まれたことを

これほど恨んだ人は

いないだろう

そう私の他にー




私は機械だった

何に対しても

機械として振舞うことを強要された

なぜかなんて考えなかった。

物心がついた時にはもう

私は機械だったからー


私が機械でなくなったのは

大好きな人がいたから

私が今、自分を機械ではないと

信じているのは

大好きな人がいるからー


これから話す話はまだ私が自分のことを機械だと信じていた時の小さな小さな昔話


それは私が珍しく買い物で外に出ていた時のこと。

「うわわわっ!!」

ドサッ!

突然、木の上(?)から落ちてきた少年。

「あたたた…やっちまったな~。うわっ!あんた、大丈夫か?下敷きになっていたなら、さっさと言えよ。」

「…」

これが彼と私の最初の出会い。私は木の上から落ちてきた彼の下敷きになってしまっていたのだった。

「おい?大丈夫か?どっか痛いのか?立てないのか?」

いつまで経っても転んだまま立ち上がらない私を彼はそう言って本気で心配してくれた。

「立ち上がってもよろしいのですか。」

私は言った。だって私が嫌がることをやる人達は大抵、私が嫌がるとわかっていて、やっているのだから。それに私は命令以外の言葉を聞いたことがなかったから。

「馬鹿か?自分の意志で立つんだろ。ていうか、立つのに人の許可がいるっておかしくないか?」

「だって…私が嫌がることをする人は私が嫌がるってわかっててやってるから…。てっきりあなたもそうなのだと思って。ごめんなさい。」

「たっく…訳わかんねえな。俺は別に嫌がらせでやったんじゃねえ。ただの事故だ、事故。わかったか?」

「事故…。ならわざとではないんですね。勘違いしてごめんなさい。」

「あのな~。非はこっちにあるんだ。責められこそすれ、謝れるどおりなんてねえよ。」

「わかりました。ありがとうございます。それでは失礼します。」

「おい!あんた!名前は?」

「名前?ありません。」

「はっ?ない訳ねえだろ。教えろよ!」

「ないんです。本当です。生まれてこの方、名前なんてありません。私は機械ですから。」

「機械?んなわけないだろ。お前の肌はこんなに温かい。人肌の温かさだ。それなのに…人間じゃねえわけないだろうが。」

「でも、皆言います。私は機械だって…。機械だから何してもいいんだって。」

そう言い終えた私の目からはいつの間にか涙が溢れていた。

「それ見ろ。泣いてんじゃねえか。機械は泣きもしないし、笑いもしねえ。表情がねえんだ。表情のある。あんたは紛れもない人間だ。」

「本当ですか?」

「俺が言うんだから本当に決まってんだろ。それより名前だ。名前。ないなら、俺が考えてやるが…どうする?」

「考えて下さいませんか。名前。」

「おしっ!そうこねえとな。いい名をやるぜ。明日、またこの時間にここに来い。それまでに考えといてやる。」

「はい。わかりました。」

翌日

私はこっそり部屋を抜け出しました。そして、あの方の所に行ったのです。

「おう!やっと来たか。約束破られたかと思ったぜ。」

「そちらこそ約束は守って下さいましたか?」

「当たり前だろ。」

「なら、教えて下さい。私の名前とあなたの名前。」

「あっ!そういや、言ってなかったな。俺は二宮春海。んであんたの名前が三宮琴葉だ。」

「琴葉…。いい名前ですね。私には勿体ない位です。」

「ああ。俺の一番尊敬する女の名だ。もうその人は死んじまったからあんたにやるよ。」

「ありがとうございます。それでは、私は主人に見つかってしまうといけないのでもう帰りますね。」

「そうか。ってあんたじゃなかった…もう名前あんだから名前で呼ばないとな。琴葉、主人がいるのか?じゃあ、苗字まで考えなくてよかったか?」

「いえ、主人は私に名前さえ付けてくれない方です。ご自分の苗字などくれるわけがありません。苗字まで付けて下さってありがたかったです。そして私を人間だと言ってくれたことも嬉しかったです。昨日、お礼を申し上げてなかったので改めて御礼申し上げます。」

「いや、いいよ。俺がそう思ったから言っただけだ。なあ…俺…いや、何でもない。俺は毎日、この時間にここにいるからよかったら、来てくれねえか。」

「はい。明日も来ますね。」

「おう!またな!」

「はい!」

そう言って彼と笑顔で別れました。彼と会うのはこれが最後だとも知らずに…。


私は浅はかだったのです。門番の目を盗んで来れたと思い込んでいただけだったのです。そして、主人も機械である私の様子がおかしいと気がついていたのです。だから…門番に私を見張らせていたのです。そして…私に彼が名前をくれた翌日…彼は亡くなりました。殺されたのです。主人が雇った殺し屋に…。彼は死んだのではない。殺されたのです。伝えたいことがたくさんあったのに…。伝えきれませんでした。私のせいで彼は殺されたのです。主人は自らが殺した彼を私の前に引きずりながら持って来て汚く笑いながら言いました。

「人形だ。お前にやる」と。

信じられませんでした。人を殺しておいて「人形」と言える神経が。彼が帰らぬ人となっていることが。そして主人はこうも言いました。

「琴葉とはお前のことか?ずいぶん大層な文字で名前を付けられたものだなあ。おい。こいつ人形になるまでずっと言ってたぞ。『琴葉、好きだ。愛してる。』ってなあ。よかったな。お前のような機械でも好いてくれる人がいて。可愛がってやれよ。この人形。」

そう言って権力まみれの汚い顔でニヤッと笑うのです。その時、私はこの世界に生まれた自分を呪いました。そしてこの世界を恨みました。しかし、死にはしませんでした。それでは何もかもが主人の思い通りになってしまうような気がして悔しかったからです。だから、せめてこの日記に彼への春海様への気持ちを記してから機械の振りをしながら、生き延びてやろうと思います。

『春海様、大好きです。愛しています。』

これで小さな小さな昔話は終りです。これからも私は機械の振りをし続けながら生きていこうと思います。



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