第54話 真相
僕はこの事件の報告書を作成しなければならない。
のちの事件書類として残すためだ。
これから彼らの口から語られる真実をしっかり綴らなければ、僕は風呂敷の中からメモをとる道具をとりだした。
アリバイが判明した順番で訊いていこう。
最初はジーキーさんから。
「俺は空の上から桃太郎が殴られる場面を目撃したんだ。赤鬼の旦那は呆然と立ち尽くしてた。だからこれを機にすべてを隠蔽しようと思った」
「ということはジーキーさんがいちばん最初に鬼ヶ島へ上陸したということですね?」
「ああ」
鬼ヶ島にいちばん早く上陸したのはジーキーさん、と、僕はメモをとる。
雉という種族は高度の飛行は苦手であるけれど、鬼ヶ島へならば辿りつくことは可能だ。
そしてジーキーさんが金棒を持って桃太郎さんを撲殺することは鳥属である以上は無理、と。
つぎはエイプさん。
「俺も同じ時間に松の上からその状況を見てたんだよ。そこで赤鬼の旦那とジーキーが相談してる場面を見て俺も加わろうと思ったんだ。それで俺は赤鬼旦那の変化の術を知ってたから、そこでそれを使うようにアドバイスをした」
「交換変化ですか?」
「ああ」
エイプさんは地頭がいいようだ。
伊達に蟹さんたちと合戦を繰り広げたわけじゃないようだ。
「いまこそ赤鬼の旦那に恩を返すときだと思ったんでね」
「赤鬼さんに返す恩とはなんですか?」
「ああ。猿蟹合戦のとき臼にトドメを刺される寸前で助けてもらったんだよ。あのときの臼は差し違える覚悟だったな。それはあとで話すよ。順番に話したほうが青鬼さんもメモしやすいだろう?」
「お気遣い感謝いたします。ではのちほどよろしくお願いいたします。ですが船頭さんはエイプさんを乗せたとはいっていませんでしたけれど」
「ああそうさ。俺は舟には乗ってない」
「では、どうやって鬼ヶ島へ?」
「本土と鬼ヶ島への近道を使えば約五分でここに着くのは知ってるか?」
「ええ。それは承知しています」
「この時期の特定の時間ほんの数分だけ潮が引いて陸続きになるときがあるんだよ」
「引き潮ですか?」
「ああ。そこを通ると二分くらいで鬼ヶ島へ着く」
「そんなルートがあったんですね」
「今日なんてとくにゴミが溜まっててわかりやすいぜ」
「たしかにゴミが一列に溜まっているそんな場所がありました」
「そこだよ。あそこは満ち潮でも海はそんなに深くないんだよ」
「なるほど」
「ただ、俺の場合はあるていどゴミが溜まってりゃ、その上をポンポン飛んで渡れるけどな。むかしのウサギでフカの背中を飛ぶのが上手いやつがいてな。そいつにコツを教えてもらったことがあるんだよ」
「そうですか。それはエイプさんだけにできる特種技能ですね」
「まあな」
エイプさんは気を良くしたのかとても饒舌になった。
「……まあ、日課のように松の上で昼寝をしてりゃあ、そのパターンは嫌でも頭に叩き込まれるってわけさ」
二番目に上陸したのはエイプさんか。
本土との近道以外にも引き潮で陸続きになる秘密の道がある、と。
僕はすぐにメモを取った。
これからさきこの情報もなにかの役に立つかもしれない。
これで矛盾はないな。
あとはこの裏取りだけ、それはあとで鴎と一緒にやろう。
つづいて僕は深々と深呼吸を繰り返しているポチさんに歩みよった。