表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/61

第5話 【亀さん集団暴行事件】

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


 ある昼下がりの砂浜で童三人が木の棒で亀さんを殴る蹴るをしていじめていた、ちょうどそこを通りかかった浦島太郎さんが子どもたちを諭して亀さんを助けた。


 被害者 亀


 加害者 源太


 加害者 喜作


 加害者 茂吉


 通行人 浦島太郎


 証言 源太 ――暇だったので、亀をいじめて遊んでいた。

 証言 喜作 ――源太くんが、一緒にやろうっていうから亀をいじめた。

 証言 茂吉 ――本当はやりたくなったけど、やれっていわれたからやった。


 証言 亀 ――(その場にいなかったために証言なし)

 証言 浦島太郎――(同じくその場にいなかったために証言なし)


■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


 この調書をとった簡単なあらましはこうだ。

 

 僕は亀さんがいじめられているところを見てはいないし、浦島太郎さんがそこを通りかかって亀さんを助けた場面も見ていない。

 そのご亀さんがいなくなったのも浦島太郎さんが失踪したところも僕は見ていない。


 あの日僕は民からの通報でその場に向かった。

 砂浜には木の棒を持った源太くん、喜作くん、茂吉くんがいただけだった。

 複数の民もそれを目撃している。


 亀さんは子どもからの暴力も硬い甲羅によってほぼ無傷だった、という情報もその民の証言によるものだった。

 証言は正確な情報だといえるだろう。

 砂浜には亀さんと思われるものの血痕などは一滴もなかったのだから。


 そこで僕は子どもたちになにがあったのかを訊きつつ、さらに民たちからの聞き取りを擦り合わせて調書を作成した。

 子どもたちも甲羅を殴ったとしかいってはいなかった。

 頭部を狙っていない(亀さんは頭を守るため甲羅に潜っている。当然の防御反応であるが)という点から見ても殺意は否定される。


 要するに僕は肝心なところはなにひとつ見ていない、ただ木の棒を持ち砂浜で佇んでいた子どもたちに話を訊いただけ。

 子どもたちに浦島太郎さんに諭されたときの状況も訊いたけれど、ひどく優しい仲裁だったようで、大人が子どもを恫喝するというようなこともなく、一言――こら、やめなさい。からはじまって、そんなことをすると亀さんが痛い思いをする、ということを理論立てて注意したという。


 じつに教科書的な仲裁だと思う。

 僕が浜辺に辿り着いたときは亀さんも浦島太朗さんも両方行方ははわからずじまいだった、そのうえ伝聞での状況だったが子どもたちの罪に問えないと判断した。

 そもそもこの世は元服を迎えてはいない子どもは罪にはならないのだ。


 それゆえに子どもたちのいたずらという自供もあいまって両親に知らせることもなく口頭注意だけですませた。

 この元服前の無罪放免(むざいほうめん)も御上が制定した決まりだ。

 更生することを前提とし未来ある若者(こども)の芽を摘まないということなのだろう。


 ただしその無罪放免になった若者が再犯を繰り返すことも多くて、僕自身はこの決まりに(はなはな)だ疑問だった。

 せめて大人と同等ではないにしろなにか対策を講じるべきであると思う。


 という想いを、三人は良い意味で裏切ってくれた。

 源太くん、喜作くん、茂吉くんはあのときの僕と浦島太郎さの注意と忠告が効いているのか本当に優しい子に育ってくれているようだ。

 だから鴎に猪さんのこと知らせてくれたのだろう。


 もっとも亀さんをいじめたこと自体もいたずらということで罪の意識は希薄だったけれど。

 善悪の判断がまだ未熟だったのだろう。 


――――――――――――

――――――

―――


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ