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第46話 刀を持たない桃太郎

 ただ――鬼ヶ島にいったけれど赤鬼はいなかった。そう誰かにいえば、この問題の根本は解決するはずなのに、なぜそれを正直にいえなかったのか……愚問か。

 剣士にそんなことはできないからだ。

 桃太郎さんは陣羽織を羽織っている。

 剣士が陣羽織を着るときとはつまり戦場へ向かうとき。


 たとえば鬼ヶ島から引き返す理由が島にいったけれど赤鬼さんがいなかったという場合と上陸したけれど赤鬼さんはすでに死んでいた。

 どちらの場合なら桃太郎さんの体裁(ていさい)を保てるかということだ。

 いなくて引き返した場合ともすれば怖気づいたとも取られかねない。

 では遺体がありすでに死んでいた場合。

 誰もがしょうがないというだろう例え民に噂が流れても見下されることはない。


 ……鴎が発見したときも誰かが証拠隠滅を図っていたはず。

 それは誰か? 

 まあ十中八九ポチさんでしょうけど、なにせ彼の癖は穴を掘ること。

 これ以上ない容疑者だ。

 ポチさんは砂でさまざまな痕跡を隠しているようだ……。

 僕は金棒特有のズシリとした重みを感じた。

 僕だって鬼の端くれ金棒を振り下ろすマネをしてみる。


 ビュンと空を切る音がした。

 絶好調のスイングだ……ん、とすると……この角度は。

 そ、そうなるとこのメンバーに犯人はいないということになる。

 どういうことだ……?

 すこし考えかたを変えてみよう。


 「これは凶器の金棒です。つまりですね。赤鬼さんは一度金棒を奪われたあと、撲殺されたんですよ?」


 「それで……」


 僕は自分の考えが揺らぐ中ふたたび桃太郎さんを見る。


 「あの、桃太郎さん。自分の刀はどうしたのですか?」


 「ああ、刀ね。鬼ヶ島にくる途中で落とした」


 別角度から攻めてみる。

 桃太郎さんのそっけない答えが返ってきた。

 口からのでまかせだろうか?


 「理由は?」


 「海を流れるゴミに引っかかって。今日は海の上ゴミすごかったでしょ?」


 「そうですね」


 あのゴミの量を考えればありえなくもない。

 舟の脇に腰かけていた場合なら刀が引っかかって落ちてもしかたがない。

 下手な態勢であれば体ごと海の中ということもある。

 それほどに今日の海はゴミで汚れていた。

 そういえば僕も刀の柄のようなものを海で見た気がする……。

 こんなことなら船頭さんに訊いておくんだった。

 いい逃れという線も否定できない。

 ただ、凄腕の剣士がそんなヘマをするだろうか?


 「あとなにか質問があればどうぞ?」


 桃太郎さんは口角を上げて大胆不敵(だいたんふてき)に微笑んだ。


 「さきほども訊いたのですが桃太郎さんは帯刀許特権のルールを理解していました。相手に拷問を与えてはいけないことも」


 「ええ。それがなにか?」


 「刀を海に落としたのならどうやって赤鬼さんを退治しようとしたのですか?」


 「えっ?」


 「討伐申請もなく刀もない場合ふだん帯刀者であっても退治はできません。それこそ刀以外の凶器を使えば法度違反です。御上が帯刀者に一撃絶命を許しているのは、相手に苦痛を与えることなく退治させるためです。もしも桃太郎さんが金棒を使っていたなら法度違反ですけれど?」


 桃太郎さん、これにはどう答えますか。


 「あっ、ああ、それね」


 桃太郎さんは表情ひとつ変えずに煌びやかな陣羽織の内側を開いて見せた。

 羽織は中までもがキラキラとした高級な生地だった。


 「これ」


 「なるほど」


 羽織の内側には一本の脇差(わきざし)があった。

 桃太郎さんは脇差の()にちょんちょんと触れた。

 脇差でも立派な刀、腕のある剣士ならあの小太刀でも十分一撃絶命は果たせる。

 僕の読みはハズれた。

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