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第35話 鴎は遠くから見ていた。

 ――じゃぼん。岩は猿の脇を通りぬけて海へと消えた。

 それから十数秒あとに――ぼっちゃん。海に刀が落水する音がした。

 桃太郎は振りかぶっていた右手をもとの態勢に直す。

 刀を投げてから海に落ちるまでしばらく時間を要したのかがわかった。


 「これでいい」


 砂をかぶった猿は息をきらせて、自分の体と同じくらいの岩の横で寝転がっていた。

 いくつか落石のあった形跡が残っている。


 「刀がなかったから金棒で赤鬼を退治した。それでいく」


 桃太郎は海側を向いたままそういった。

 現在その話を聞いているのは雉だけだ。


 「けど旦那……」


 「激しい戦闘のうち揉み合ってそういう結果になった。もしものときはそういうことで」


 「わ、わかったよ。旦那」


 「あくまでこの段階()は、だ。……さあ、さっそく本来の目的を。ポチはもう……」


 「旦那。あっちは?」


 雉は砂浜で仰向けになっている猿を見た。


 「しょうがない。あれも想定外だから。自然のものだ」


 桃太郎の言葉は現段階で犬、雉、猿をきちんと統率できていなよう口振りだった。

 それを証拠にそれぞれがが好き勝手に動いている。


 「だろうな。まさかあんなところに岩が落ちてくるとは思ってなかった。そもそもすべてが想定外だった。あの遺体もすべて。桃太郎の旦那が鬼ヶ島に着いたときに赤鬼はもう死んでいた」


 雉が気遣いそういったあとにわずかなを置いて――ってこと。と発したところ――痛ってー。と腰に手を当てた猿が戻ってきた。

 犬も疲れたからなのか舌を垂らしながらトボトボと桃太郎たちへと歩み寄ってきた。


 「だ、旦那。空に鳥が?」


 雉は空の異変に気づいた。


 「えっ?」


 桃太郎の視線はすぐに空へと移った。

 その鳥を粘り着くように見ながら口の端をゆがめた。

 ――こんなときに。そんな声が聞こえてきそうだ。


 「あ、あの鳥って防人ですぜ」


 「こ、これも想定外……。でも、いちおうこの段階でやることの半分以上はできている。……上陸したら赤鬼は死んでたんだ。別に困ることはない。みんなは赤鬼の周囲にいてくれ」


 桃太郎は崖の右端に向かって一直線に歩きだした。


 「わ、わかった」


 犬も猿も雉もすぐに同意した。


 ――動ないでください!


 上空から、鴎が大声でそう声をかけた。

 桃太郎は聞こえないフリをして歩きつづける。


 ――そこのあなた聞こえてますか? 動かないでください!


――――――――――――

――――――

―――


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