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第3話 仲裁奉行所(ちゅうさいぶぎょうしょ)

 僕はいま『仲裁奉行所ちゅうさいぶぎょうしょ』という茶黄色の板札いたふだの提げられた防人たちの待機所にいる。

 待機所といっても資料や調書類、簡易的な家具を置いただけの小屋で、僕と鴎は日々ここで事件の資料や調書などを読みながら非常事態に備えている。

 ただ毎日毎日事件が起こるわけでもない。

 それこそ民同士の小競り合いひとつない穏やかな日もある。

 

 そんな日は大方(おおかた)小屋で過ごしつつときどき外にでては道ゆく民と会話するくらいだ。

 その触れ合いもとても大事な仕事だ。

 ときになにかの事件に関する重要な話が混ざっていることもある。

 世間話とはつまりは世間の出来事そのものだ。 

 できれば僕は民となにげない世間話をしているほうがいい。

 それは町が穏やかである証拠だからだ。

 

 小屋の扉はいつも開けっ放しで開放状態にしてある。

 なにかのときに民がすぐに駆け込んでこられるようにだ。

 開けっ放しにしているのにはもうひとつ目的があった。

 中にいる防人の姿をおおっぴらに見せることで犯罪の抑止になるからだ。

 そのため全国各地、防人の『仲裁奉行所』はほぼ同様の造りになっている。


 「よっ、色男。今日もかっこいいね~」


 民が挨拶代わりに小屋の前を通っていった、僕はその社交辞令を――ありがとう。と返す。


 ――今日も頑張ってくださいね。


 ――町。お願いしますね。


 ――いつもありがとうございます。


 そんな(ねぎら)いの言葉と応援は僕と鴎を救う、いやどれだけ救われてきたのだろうか。

 こんな仕事をしていると悲しい事件に当たるのが宿命だ。

 それでも民が安心して過ごせる世界のために頑張らないと……と、思ってはいても心はやはり擦り減っていく。


 意外に単純だけれど民によって与えられるふとした優しさに心満たされるのだ。

 まだ歩きたての幼子おさなご喃語なんごで手を振ってくれるだけで僕は張り切ってしまうくらいだ。

 むかしある事件の被害者で半獣の猫さんがいた。

 彼は事件のショックで自分の毛を飲み込んでは吐くという行為を繰り返していた。

 トラウマで心身に相当のダメージを追ってしまったのだ。

 この町の町医者には名医と呼ばれる医者がいて、人間、半妖、物の怪、半獣を診ることができる腕の持ち主だ。


 名医にかかった猫さんは、いまではずいぶんと回復したそうだ。

 ときにはそんな辛い思いを抱えた被害者と向き合わなければならない被害者の様子を見てるとやはり心は滅入ってしまう。

 それを救ってくれたのもまた民だった。


 民となにげなく交わす会話も仕事に役立つ、それが思わぬところで繋がって事件解決の決め手になったりすることもある。

 もっとも僕はそれを目的として民と接しているわけではないのだけれど。

 あとで思い返すと、そういえばあの会話がそうだったのか……となることが多いという結果論だ。


 今日もしばらく資料を読んで二時間ほど経ったころ、同じ姿勢で凝り固まった体をほぐすために僕はいったん小屋の外にでた。

 僕は軽く背筋を伸ばしながら毎日の習慣で道ゆく民と挨拶を交わした。

 体もずいぶんと楽になったので僕はまた小屋に戻って資料や調書に目を通す。

 資料は隣町やその隣町で起きた事件のものまでもが集まってくるのでそれはそれは膨大な量になる。

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