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第21話 捜索

 翌日、僕と鴎はチュン太さんに教えられた通りその竹藪に向かった。

 僕らはときどき『仲裁奉行所』を留守にしてしまうけれどそこは民たちに寛容な心で許してもらっている。

 なにせこの町の防人は僕と鴎だけなのだから。


 今回、依頼主であるチュン太さんはここに同行してはいない。

 それはなぜか、あの舌の状態では会話がままならないからだ。

 まさか竹藪にきてまで墨と紙で筆談するわけにはいかない。

 

 事件の取り調べではないので同行を強要することもできない。

 それに失せ物探であるために緊急を要する事態ではないと僕が判断したこともある。


 小さな竹藪だと思ってはいたけれど感覚的にはさらに小さい竹藪だった。

 僕の記憶どおり多くの竹がもうすでに刈られてしまっていた。

 裏山の竹藪と同じように町の入り口の竹藪(ここ)も竹の数がすくなくてスカスカだ。

 目線を落とすとそこには雑草や草花が多く咲いていた。

 竹藪というよりも植物たちの集会場みたいだ。


 竹が密集しているわけではないので落とし物も探しやすい。

 けれどチュン太さんのいっていたはさみは小さいので探すのには一苦労だ。

 草花にまぎれてしまっていると見落としてしまうかもしれない。

 ただ、そんな中でも救いはあった。

 はさみは金色だから見つけやすいはず。


 僕らは目を凝らして足元を探りつつ竹藪の奥へと足を踏み入れていく。

 植物たちの青々とした匂いが漂っていた。

 本来なら、チュン太さんがはさみを落としたといっていた近辺を探せばいいのだけれどなにかの拍子で動いてしまった可能性もある。

 だから僕らは竹藪に足を踏み入れた瞬間から捜索を開始していた。


 誰かが足をひっかけて動いてしまったなんてこともあるだろう。

 それを示すようにこの竹藪には人間のほかさまざまな動物たちの足跡が混在していた。

 本当に多種多様な動物が走り回っている。

 それでも真上からはさみをガッシリと踏みつけるように踏まなければ地中に埋まってしまうことはないだろう。


 僕らは、辺りを見回して地面をながめるを繰り返し直進していく。

 足の裏が地面に密着するたびザスザスと音が鳴る。

 しばらくたったところで鴎はとうとつに歩みを止めて僕の着物の袖をクイクイと引いた。

 その華奢(きゃしゃ)な腕とは正反対できつく力が込められていた。


 「青鬼さん」


 鴎がなにかを発見したようで自分の左側を見ていた。

 それは()せ物を発見したときの喜びとはまるで違う。

 いままでだって探し物を見つけたことは何度もある。

 いまの鴎はそのときのそれ(・・)ではない。


 強いていえばなにか事件があったときに鴎がみせる挙動(きょどう)だ。

 僕からはちょうど鴎の体が障害になっていてそこになにがあるのかわからなかった。


 「鴎、なに?」


 僕は鴎の立っている位置からすこしズレてのぞくようにして、その場所を確認した。

 あっ……あれは?

 地面から生えるように鳥の嘴のようなものが突きでていた。

 

 「あれって!?」


 僕は反射的に駆けていた。

 鴎も僕のあとを追ってくる。

 ふたりでなんの合図もなくしゃがむ。

 鴎と僕は隣り合っていたから僕だけ鴎の真向かいに移動した。


 僕と鴎とはちょうど対面になって、どちらからともなく土を掘りはじめた。

 土を掻きだせばだすだけ嘴の露出は多くなっていく。

 もっと早く、もっと多くの土を掻きださないと。

 僕は自分の爪を鉤状(かぎじょう)に変化させた。


 この爪のほうが効率よく土を掻きだすことができるから。

 ひと掻き、ふた掻き、み掻き。

 まるで道具を使うように土が掘れる。

 掻きだした土は山積になっていった。

 

 「あとは僕が」


 鴎に掘るのを止めるよう制止した。


 「はい」

 

 僕はさらに土を掻く、やがて頭部全体が見えてきた。

 どこかの鳥さんはすでに白骨化していた。

 また、ひと掻き、ふた掻き、み掻き、もっと掘り進める。

 白骨の頭部があらわになった。


 僕は土を掘っている最中に気づいてはいた。

 おそらくほかの部位も白骨化しているだろうと……。

 この白骨化した遺体がどんな種族なのか、僕は骨全体の骨格から判断することにした……。

 掘っている途中で、あるていどその種族がなんなのかもわかっていた。

 それでも遺体の全身を見るまで完全な判断を下すことはできない。


 「これで全身」


 この白骨化した鳥の種類がわかった。


 「これは雀さん、だ」


 それが僕の下した結果だ。


 「雀ですか?」


 「ええ」


 僕に一瞬ゾワっと嫌な予感が走った。

 鴎も同じかもしれない。

 ただ、それはすぐに払拭される。

 この遺体はチュン太さんとは別の雀さんだ。

 このご遺体はもしかしてチュン太さん?と一瞬、思ったのももたしかだ。

 それはすぐに否定できたのだけれど。


 それはなぜか?

 人間を含めた動物が、昨日の今日でこんな白骨にはならない。

 それに頭蓋骨の鼻の奥がきれいだったこともチュン太さんじゃないことを物語っていた。


 昨日あれだけの墨汁を使ったんだ。

 鼻腔内部の骨が黒く汚れていなければおかしい。

 この骨にはいっさいの汚れ(それ)がない。

 ということで、この、ご遺体は亡くなってからそれなりの時間が経過していることになる。


 「青鬼さん、ここにも」


 僕が無我夢中で白骨の検証をしていると、鴎はすでに視線のさき数メートルの場所にいた。

 えっ!? 

 そんな。

 

 僕はそこを見やる。

 鴎はある特定の場所を指さしていた。

 僕の焦点はそれ(・・)、いやそれら(・・・)に合った。


 「なんてことだ」


 最初に発見した白骨からわずか数メートル先にも無数の嘴が地面から突きでていた。

 いっきに血腥(ちなまぐさ)い事件と化してきたな。

 チュン太さんには申し訳ないけれど、失せ物のはさみの捜索は後日ということにしてもうらおう。

 いまはこっちを優先しないと。



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