第12話 村長の依頼
僕はときどき遠方の事件解決を依頼されることがある。
そんなときはできるかぎり出張して力になれるように努めている。
地域によっては防人がまったく存在しない空白地帯もあるからだ。
僕以外の防人も日々の予定をやりくりしては他所の事件捜査に赴く。
そんなときは悪いとは思うけれど鴎ひとりを残してその現場へと向かわせてもらう。
もちろんそのさいの下準備はきちんとして出かけるけれど、仮にこのかんに町で大きな事件があれば隣町の防人の応援を頼む。
それが無理なら隣町の隣町、それが無理なら隣の隣の隣の防人に頼むという互助会がある。
僕らは持ちつ持たれつで治安維持に関わっていることを肝に銘じている。
今回もそんな依頼で僕はとある雪国にいる。
厚手での藁草履に履き替えて雪原の中を歩いている真っ最中だ。
ザクザクと雪を踏む音がする、僕の目の前を進んでいるのはこの村の子どもだ。
さすがに子どもは元気だ。
こんな寒さの中でも雪一面にドスドスと足跡を残して舞うように進んでいく。
僕も彼のあとを追って歩く。
すこし歩く速度を上げようか。
頬を切るような冷たい風が過ぎていった。
気づけば唇がカサカサに乾燥している。
肌を刺すようなチクチクしたマイナスの温度の痛みはまだまだ止みそうにない。
「青鬼の兄ちゃん。もうすぐ着くからね~。オラ、前にもおばあさんを案内したことあるんだよ~」
「わかりました」
案内か、そのおばあさんはどうなったのだろう?
訊くのがすこし怖いな。
「偉いでしょ~」
「はい。とても立派だと思います」
「そうでしょ~。青鬼の兄ちゃん。おっとうがネギの団子汁作って待っててくれてるよ~」
「それは楽しみです」
まるで形があるような吐息が流れていった。
その方向に顔を向けると白い息はとっくに消えている、僕のうしろも見渡すかぎり白銀の世界だ。
この辺りの地理は僕にはさっぱりわからない。
だから彼が踏んだ場所をつづけて僕がもう一度んで進む。
地理どうのこうのいう前にこの状況じゃ東西南北の方角もわからない。
下手をすれば上下の感覚さえわからなくなりそうだ。
新雪だと足や脛までが雪にすっぽりと埋まってしまうから思った以上に体力を使う。
つぎの一歩も進んでもまた脛まで埋まってしまう。
それを延々と繰り返す……雪を掻き分けて歩くのは本当に大変だ。
でも、彼が一度つけた道につづけば雪が踏み固まっていてとても楽に歩ける。
彼に感謝だ。
彼はまた飛び跳ねるようにドスドスと雪原を進んでいく。
ふ~、もうすぐ着くという彼の言葉を信じて頑張ろう。
それにしても疲れ知らずだな……子どもは……。
源太くん、喜作くん、茂吉くん、忠之助くんたちもそれに似た元気さであの裏山の事件に遭遇したようなものか。
はてさて、僕はこの村の村長の依頼を無事に解決することはできるだろうか?
子どもは風の子元気な子、そんな諺を思いだす。
そうこうしてるあいだにも彼はまたグングンと雪原を進む。
「青鬼の兄ちゃん。頑張ってね~」
僕はすこしだけ両足に力を込めた、彼に遅れをとらないためだ。
おっと!? 危なかったー!
着物の懐に入れてあった手鏡がぐらぐらと動いた。
僕はそれを着物の懐のさらに深い場所にしまいこんだ。
もうこれ以上着物の中で動かないようにしないともしも雪の中に落としてしまったら探すのに一苦労だ。
よし、これで歩くことに集中できる。
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