第6話
ディーンが時間稼ぎをしている最中、夜の街で普段ならば皆が眠りについている時間、街の中心部では松明が灯り人だかりがあった。
「これより選別を行う! グロールと共に歩むというものは名乗りでよ!」
街の中心部、そこは火災が起きた際などに避難するために広場が作られていた。
普段ならば露店などが立ち並ぶものだが現在は違う、武装したグロール人達に囲まれ広場には街の住民が集められている。
集められたのはいずれも黒髪に蒼の瞳の持ち主、一目でグロール人の血が流れていると分かる者と、その家族、レント人も集まっていた。
「お初にお目にかかります。私はグロール王国の女王、キーヴァ・カヴァナーです。すべてのグロール人は私の家族、私の子。ですがレント人と共にあるというならばその限りではありません」
護衛のグロール人達に守られながら、キーヴァは集めた街の住民に対しまるで母親のように、聖者のように優しく語りかける。
「人間一度は過ちを犯すでしょう。私も一度は許します。貴方達の過ちを許します。ですのでどうか我々と共に来てください」
見目麗しく、力と慈悲を持ち合わせた女王、グロール人達はそう信じて疑わない。
きっとここに集められた者達も自分達と同じ道を歩むことができる。
キーヴァはそう考えていたのだが……
「ふざけるな! 街をめちゃくちゃにしておいて何をいってやがる!」
「私は夫を殺された! もう二度と帰ってはこない!」
当然、住民達からは反発の声が出た。
キーヴァが見た目は優しい人物に見えたから、住民達も油断したのだろう。
「致し方ないことです。敵国の民と交わり、愛してしまった。人ならば致し方ないこと。ですが今からは捨ててください。再び正しいグロール人に戻るのです」
「何が正しいグロール人だ! ふざけ──」
キーヴァの言葉に反発した住民がいた。
だが次の瞬間、剣を抜いたレント人によってその住民は背中から刺し貫かれた。
「ヒッ!?」
「彼は勇敢で慈愛のある方でした。覚えておいて下さい。他に意見のある方はいますか?」
穏やかな笑顔を浮かべたままのキーヴァ。
もう誰も彼女に対して言葉をあげる者はいない。
それを確認したキーヴァは納得したように頷く。
「結構、結構です。それでは皆さんついてきてください。ああ、レント人の家族は皆様の手できちんと殺めて別れを済ませてくださいね。それが出来て初めて私は皆様を信頼します」
集められた住民達は目の前で震えるレント人の家族達を見る。
自らの手で家族を殺さないといけない。
そうしなければ助からない。
生き残っていた住民達の次の地獄は始まった。
無駄を承知で逃げ出そうとする者は殺された、抵抗した者は殺された、泣きながら家族の首を締めて殺した者は周囲のグロール人から称賛された。
泣きながらグロール人の剣を奪い取り、自分が死ぬから家族は助けてくれといった男がいた。
キーヴァは止めたが聞く耳を持たず己の首に剣を突き立てる。
「なんてことを……貴方が死ぬことなんて……」
見ていたキーヴァはそう嘆いた。
だが容赦はしない。
残された家族は殺せとキーヴァは命じた。
せめて苦しまないようにと斧が用いられた。
まずは泣き叫ぶ赤子から、次は狂乱する母親を、そして最後はその息子を。
容赦はしなかった、容赦をすることを赦さなかった。
そうして最後の住民が家族だったレント人を殺し終わったあと、キーヴァは近くにいた返り血で汚れた住民を抱いた。
「辛かったでしょう? 痛かったでしょう? 愛した家族を失う痛みはこの世のあらゆる痛みに勝る。ですがこれからは私が貴方の母であり家族です。貴方を受け入れる。貴方を愛することを誓います」
抱いた住民の顔をまっすぐに見ながら、キーヴァは優しく微笑んだ。