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第5話

 壁の外へと逃げようとする武器もろくに持っていない市民を殺す。


 ただそれだけと思っていたグロ―ル人達だったが、予定が狂った。


「お前等怯むな! そいつはたかだか棒切れ一本だけしか持ってないんだぞ!」


 剣と槍で武装して、グロ―ルの兵士として訓練も受けている。


 加えて人数も多く、士気も高く、力も上。


 だが目の前にいる男が倒せない。


「おうかかってこいや! グロ―ルのひよっこ共が!!」


 白髪交じりの黒髪を揺らしながら棒切れを振って戦う男。


 グロ―ル人達が何度打ち込んでも弾かれるか力が乗る前に押し込まれる。


 そして反撃を受けて頭を割られたグロ―ル人はすでに10名近い。


 目の前にいるたった一人の男にすっかり足止めを食らっている。


「なんでなんだよ!! お前はグロ―ル人だろ!? なんで俺達の邪魔をするんだ!?」


 痺れを切らしたグロ―ル人が叫ぶ。


 男の蒼い瞳と残った黒髪を見てそう言っているんだろう。


「お前等が間違っているからだ! とっくの昔に戦争は終わってるのに20年たった今更話を蒸し返しやがって!」


 言いながら男は棒切れを振るい、ついにグロ―ル人から槍を叩き落した。


「おのれ……」


「いい武器をありがとうよ。さてどうする? 大人しく退くか? それとも万全になった俺と戦うか?」


 拾い上げた槍を自慢げに構えながら男はそう言った。


「愚問! 俺達はキーヴァ様と共に国を取り戻すんだ!」


 そのグロ―ル人は叫んだ。


 負けてなるものかと、国を取り戻すために全身全霊を。


 槍を構えた男に対し腰から抜き放った短剣一本を腰だめに構えて突貫する。


 己の命を捨てる覚悟で、男が構えた槍に真正面から突っ込んでいく。


「……覚悟は認めてやる」


 恐らくは槍に刺されている間に他の仲間に倒してもらう算段だったのだろう。


 だが男には効かない。


 男は槍を向かってくるグロ―ル人の下腹を深々と刺した後、素早く抜いて後ろに退いたのだ。


 結局グロ―ル人は無駄に刺されただけで終わった。


「俺を教えてやる。俺はお前等の言う通りグロ―ル人、そして名前はディーン。20年前グロ―ル城で戦った兵士の1人だ」


 名乗りを上げたディーン。


 戦っていたグロ―ル人達はその名前を聞いて目を見開いていた。


「嘘だ……グロ―ルの英雄が……こんなところで、こんな奴等を守ってるわけがない」


「本当だとも」


「偽物だ! あの『不落のディーン』がこんなことをするはずがない! あの男なら俺達の味方をしてくれるはずだ!」


「…………」


 ディーンは何も言い返すつもりはない。


 確かにグロ―ル人なら、彼らの方に付くべきなのだろうから。


 だが彼らの、キーヴァのやり方は気に食わない。


 幸せに生きていた両国の、それも兵士でもない人間を老若男女問わず虐殺するなど、気が触れている。


「……お前等の気持ちも分からなくはない。俺だっていまだにレント兵を見るたびに舌打ちしたくなるからな。だが俺個人の感情は優先されるべきじゃない。兵士ならなおさらな」


「殺してやる! この裏切者が!」


 吠えるグロ―ル人に、ディーンは笑いかけた。


「話は終わりだな。かかってこい。俺ももう歳だ。全力でさっさと終わらせてやる」


 

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