第4話
助かりたい、そう願うレント人達は大勢いる、というか全員だろう。
ディーンはそんなレント人達を誘導し、なんとか街の外へと送り出していた。
無論ディーンがグロ―ル人であることを理由に従わない者もいた、だがいくらかはディーンに従って付いてきてくれている。
「こっちだ! 街を出たら森に逃げ込め! そして朝までしのぐんだ!」
「は、はいっ!」
老若男女様々15名程、この街に住む住民の数からしてみれば極々少数。
だがたとえ僅かだったとしても、たとえ少ない命だったとしても、それでもディーンは彼らを助けたかった。
「おいアンタ何してるんだ!? 早く行こうぜ!」
「待て、何か武器が……」
ディーンは一度立ち止まり、何処かに武器がないものかと目を凝らす。
崩壊した建物の残骸? いいや大きすぎる。
では根本から折れた短剣? そんなものは使えない。
ならば窯の横に置かれていた木の棒? これならばないよりはましだ。
「よし、これなら多少は扱える」
「アンタがどんなもんなのか知らないがやめとけよ数が違いすぎる」
「最後の手段さ」
今現在逃げている住民たちは戦闘の経験などほぼないだろう。
そんな状態でもしグロ―ル人と出会ってしまったら、一方的にやられてしまう。
そうならない為にもせめて何かしらの武器が欲しかったのだ。
ここから先に進むと街をぐるりと取り囲む壁が見えてくる、そこにたどり着いた後、恐らくディーンの出番がやってくる。
「さぁ早く進むんだ! ぼやぼやしてると火に飲まれるぞ!」
ディーン達は壁へと向かった。
「こっちだ! 早く出ろ! 急げ!」
壁の近くではレント兵とみられる男達が逃げまどう街の人々を誘導し外へと逃がしている最中だった。
幸いなことにまだグロ―ル人たちはここに来ていない。
だが街の人々の混乱は凄まじく、人に挟まれて圧死してしまいそうなほどの人だかりが出来ていた。
「こりゃ逃げられるのがいつになるのか分かったもんじゃないな」
そう呟くディーンは壁の反対側、街の中心に目を向ける。
黒煙をまき散らしながら燃え盛る家、壁に向かって全力で走って来る街の住民、部分的に敷かれた石畳には黒く変色した血がたっぷりと塗られている。
穏やかだった日中とは全く違う光景が広がっていた。
「おい! 貴様グロ―ル人だな! 我々を殺しに来たのか!?」
顔をしかめているディーンのもとへ怒気を多分に含ませてがなりたてる兵士がやってきた。
恐らくは街で暴れているグロ―ル人と同じと思われているんだろう。
ディーンの他にもグロ―ル人の特徴である蒼い瞳と黒髪を持つ人間に対しては厳しい視線が向けられている。
「この人は違う! 俺達を助けて逃がしてくれたんだ」
「なに?」
──捨てたもんじゃないな。
困り顔でどうしたものかと思っていたら一緒に走って逃げていた男がディーンを助けてくれた。
「……そうか。すまん。疑り深くなってしまってな……良いグロ―ル人だって確かにいるのに」
「構わんさ。それよりも急いだほうがいい。来たぞ」
ディーンの視線の先には燃え盛る路地から現れる剣や槍で武装した20名前後の黒髪の一団。
街で暴れていたグロ―ル人達が集まってきているのだ。
「嗅ぎつけられたか。くそったれまだ避難が終わってないのに」
「俺が相手をする。アンタは住民の避難に集中しててくれ」
「は? いい年こいたおっさんがあんなの相手に出来るわけないだろう!?」
兵士の言葉にディーンは笑い返す。
「ただのおっさんじゃないことを見せてやる。よく見ておけひよっこ、お前達が昔戦ったグロ―ル人の力をな」
棒切れ一本構えて、ディーンはグロ―ル人の方へと向かっていった。