(3)最終話
誤字報告ありがとうございます。
1週間後ダンテ・クロワゼ侯爵が帰ってきた。私はダニエルと一緒に迎えることにした。
ダンテ様はたくさんの供を連れて帰られた。
ダンテ様のところに行こうとしたが、早足で私の前に来られた。
そして膝を突き『ナディア姫様お迎えにきました』と言われた。
「あの~私……姫ではありませんよ」
「あなた様はエスコラ王国第二夫人ユリア様のご息女ナディア様です。あのペンダントは若き国王がユリア様に愛を誓って贈ったものです。ユリア様は里帰りのときに夜盗に襲われてしまったのです。少数の護衛しかつけていなかったのであんなことになってしまいました」
「そんなことを言われても、私王城に行きたくありません。ダニエル様と結婚すると決めました」
「そうですか!それはとても嬉しいことです。父親としては大賛成です。しかし、まず国王に会ってから決めてください。そうでないと我家もどうなるかわかりません」
「そうなのですか?お世話になったのに迷惑をかけたくありません。わかりました。とりあえず行きます」
急な展開でドギマギするわ。とにかく王城に行って、国王に会うことにしよう。
王城に着くとゾロゾロと護衛の兵士が私の周りを囲んだ。息苦しい中、国王のいる謁見の間に案内された。
私の目の前には国王がいるが、子爵の娘程度では国王の顔など知らない。こういう場合はとりあえず膝を突いて挨拶をしとこう。
国王が急に立ち上がった。
「ユリア!!生きていたのか!!?」
えーーー!人違いだよーーー!!
「私はナディアと言います」
「そうか!すまない。ユリアにそっくりだったので勘違いした。間違いなく私の子だ。あの頃のユリアそのものだ」
「国王様」
「そんな言い方やめて父と言ってくれ」
「では、お父様、お願いがあります」
「なんだ。なんでも言ってくれ」
「私、ダニエル様と結婚したいのです」
「それは、ダンテ・クロワゼ侯爵の子か?」
「はい。その方です」
「そうだのう。おい、ダンテ!お前の息子を儂にくれるか?」
「はい。もちろんでございます」
「そうか。であれば、結婚に賛成しよう」
「いいのですか?」
「ああ、ダンテも賛成したからな」
私の考えが甘かったわ。クロワゼ侯爵家に嫁に行くと思っていたけれど、国王には子がいなかった。第一夫人は隣国から嫁いできて、人質のようなもので第一夫人が国王との契りを嫌がったので子がいない。第二夫人のユリアとの間にできた私だけが国王の子だった。ユリアを失った国王は家臣の助言に従わず後妻も妾もとらなかった。だから私が国王の後を継いで女王となることに決まった瞬間だった。その王女にダニエルが入り婿となる。ということで、クロワゼ侯爵家はクロワゼ公爵家となった。
国王の子が見つかったという出来事は国中に知らされた。王城には次期女王となる王女に謁見したいという貴族が日参した。それに結婚祝いの品も沢山来ている。私に謁見できるのはほとんどが伯爵以上だ。それでも数百名いる。毎日じっとしているのも辛い。今日も謁見の予定が入っている。謁見は疲れるからその前にダニエルと一緒に気晴らしのため、少し散歩することにした。中庭を散歩していると、どこかで見た人達がいた。
派手な衣装に風を切って歩くガニ股の女性。
「あーーーー!あんたはナディア。まだ生きていたの?あの夜盗ども失敗したな」
やはりヨセフィン元母が夜盗を雇ったんだ。元妹のカリンも一緒にいるようだ。
「あら!あなた、こんなところにいたの。そこの男性は誰?もしかして夫となった人かしら?どこの馬番ですの?ふふふ。まあお似合いだこと」
元妹の嫌みは天下一品だ。素晴らしいの一言では言い表せないほど下劣だ。
たぶん私達の服装を見て判断したのだろう。謁見時間にはまだ時間があるから普段着でうろうろしていた。ここを訪問する人たちは皆特別に綺麗な服装をしている。それに比べたら普段着の私たちはみすぼらしく感じるだろう。でもよく考えたらわかるはずよ。こんな普段着で王城の中をウロウロできる人間は王族以外いませんよ。
「お隣にいらっしゃるのは?」
「アドルフ・ヒネキン伯爵よ。私達夫婦なのよ。あなたと違ってね。そこのあなた。その子が捨て子だと知っているの?」
「私の妻になんてことを言うんだ!!」
ダニエルが顔を真っ赤にして本気で怒っている。
そこへアドルフ・ヒネキン伯爵が割って入った。
(元婚約者で今日謁見する名簿で伯爵の末席にいた人だ)
「まあまあ、君も身分をわきまえたまえ。私を誰だと思っているんだい。伯爵の中でも頭一つ秀でているアドルフ・ヒネキンだ。頭が高い。そんな服装でここをウロウロするものではない。君のような若造がいるからこの国がダメになるんだ。身の丈に合った言動をしたまえ。それに、おい!!そこの拾い子!!」
「え!私?」
「拾い子といったらお前しかいないだろう?」
「はい?」
「お前のような身分のやつがここにいることは許されない。早く出ていけ」
「でも、ここは私のお家ですが?」
「馬鹿なことを言うな。寝言は寝て言え!」
「でも、本当です」
「まだ言うか!!無礼だぞ。貴族に対する侮言は死罪だ。そこへなおれ」
アドルフ・ヒネキン伯爵が剣を抜いた。元母と元妹はそれを見てクスクス笑っている。
そこへ王城の衛兵が騒ぎを聞きつけやってきた。
「君たちご苦労、今この女を成敗するところだ。君たちも貴族が無礼な者を成敗する瞬間を見ることができてよかったな。これからこの女の首を落とす」
「貴様、なんてことを言ってるのだ。皆の者姫様をお守りしろ!!それにこの男を捕まえろ」
アドルフ・ヒネキン伯爵はぐるぐる巻きにされた。それに元母と元妹も後ろ手に縛られた。私が帰ってこないので心配したお父様がやってきた。この人はほんとうに過保護だ。うれしいけどね。
「何を騒いでいる!?」
「はっ!こやつが姫様を殺そうとしました」
「何!儂の娘を殺す?」
「この男を牢にぶちこんでおけ!!」
アドルフ・ヒネキン伯爵は王族を殺そうとした罪でその日のうちに斬首された。ヒネキン伯爵領は廃絶され王家が直轄することになった。元母と元妹は王族に対する誣告罪で無期限の投獄となった。元父のアドルフ・フィリップ子爵も連座して罪に問われ子爵から男爵に格下げされた。前々から妹のカリンは私以上にアドルフ子爵に似ていなかったが、ヨセフィンが卒業した貴族学校の先生との子だった。しかも死産した子も同じだった。極めつけはいまだに肉体関係が続いていたことだ。
ヨセフィンとカリンが投獄されたためアドルフがヨセフィンの書斎の金庫を開けると貴族学校の先生の手紙が入っていた。それには死産したことで悲しいというものと、カリンが生まれて嬉しいというものや、次の子が欲しいというものまで数十通の手紙があった。
元父のアドルフ・フィリップ男爵が聞きもしないのに私に語った。本来の目的は元の子爵に戻して欲しいという陳情に来たのだ。
「ナディア王女様、ああ私の娘よ」
「あなたは誰ですか?」
「父のアドルフだよ。忘れたのかな?」
「知りません。私の父はエスコラ国王です。確か『今日からお前は我が家とは一切関係ない』とおっしゃいましたよ。それにもうお会いすることはないと思います。あなたはこれから辺境地に領地替えになります。そこでもう一度がんばってください」
「お前は、私に仕返しをするつもりか。恩を仇で返すのか!」
「ジョルジュ、この方を玄関まで送ってください」
(王女となって真っ先に執事のジョルジュを呼び、今では私の世話係をしている)
「私の願いを一つくらい聞いてもいいではないか!」
ジョルジュが諭すように口を開いた。
「アドルフ様、本来フィリップ子爵家は廃絶となることが決定しておりました。ナディアお嬢様が嘆願されたので辺境地の男爵で済んだのです。お礼をすることはあっても、そのような口を利かれるべきではありません。国王様が聞かれたら、それこそ王女に対する不敬罪で斬首されます」
(私がアドルフを助けたのは恩義を感じたからではない。ジョルジュからフィリップ家が廃絶となれば私が世話になった人たちが職を失い路頭に迷うと聞いたからだ。あの人たちには子供の頃から親切にしてもらった。ジョルジュと一部のメイドは私の側にいるが全員をここに連れてくるわけにはいかない。あの人たちにも家族がいる)
アドルフはジョルジュに抱えられ退出した。
その後アドルフ男爵は自身のこれまでの行いを反省し、地元民を大切にし、平民の女性と再婚した。
父はますます元気だ。私の勧めもあって第三夫人を迎えた。子はできないかもしれないが、いつまでもお母様の影を背負って生きて欲しくない。愛に生きることと背負うことは違うと思う。それに国王として長生きして欲しい。私はまだ女王になるのは嫌だ。自由がなくなる。ダニエルと今日もなにげない一日が始まる。
私は何者でもいい。好きな人と一緒にいられることが幸せだ。
「Fin」
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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誤字や言い回しなどご指摘いただきました。一部直しましたが話が崩れそうなのでご指摘いただいた方には感謝しつつ次回以降に気をつけたいと思います。
ご指摘ありがとうございました。