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全3回を予定しています。

誤字報告していただきありがとうございます。

読み直して投稿したつもりでしたが、自分でも驚くほど沢山の誤字がありました。

ご指摘いただいたすべてを適用していませんが、これからもよろしくお願いします。


 カーテンからは朝を告げる眩しい光が漏れている。今日も雲一つない、いい天気だ。


「あら、お父様、お母様、わざわざ私の部屋に来られるとはめずらしいですね」


(どうしたのかしら?お二人とも怖いお顔をされてるわ)


「お前の婚約は破棄された」


 お父様が突然私の部屋に入りそう告げた。


「え!どういうことですの?」


「昨晩アドルフ・ヒネキン伯爵様からお前に婚約取消承諾書が届いた」


「どうして?昨日伯爵様の侍従の方と結婚式の日取りのことで打ち合わせをしたばかりですよ」


「その結婚式はお前のではない。カリンのだ。それに婚約破棄をお願いしたのは私だ。儂は娘のカリンを婚約者とすることにした。アドルフ・ヒネキン伯爵からはカリンとの婚約承諾書も一緒に届いた」


「どういうことですの?意味がわかりません」


「そうだな。お前に話していないことがある。お前は私達の子ではない」


「え?」


「ヨセフィンにも先程伝えたばかりだ。実はヨセフィンが最初に産んだ子は死産だった。儂はそれを言えなかった。ところが運がよかったのか悪かったのか玄関先にお前が捨てられていた。だからヨセフィンがお前を産んだことにした。2年後にカリンが生まれたからいつお前を捨てようか思案していたが、お前がことのほか優秀だったから他の貴族に自慢をしていたら16年間養ってしまった」


「でも、もうお父様とお母様の子です」


「儂はお前を儂の子と思ったことは一度もない。それにカリンが前々から伯爵様を好いておって、どうしても結婚したいと言ってきた。実の娘の頼みだからな、他人の子よりやはり自分の子の言うことを叶えてやりたい。まあ本物の親馬鹿だ。だから今日からお前は我が家とは一切関係ない。荷物はまとめておいた。養育料は請求しないから安心するがいい」


「早く出て行ってちょうだい。今まで他人の子を育てていたと思うとゾッとするわ。前からカリンに比べて何でもできるあなたは気に入らなかったのよ」


「お母様、なぜそんなことをおっしゃるのですか?」


「あーーー!汚らわしい。母親と呼ばないでちょうだい。早く出て行って!!」


「あら~お姉様―。あ、違ったわ!ナディア・フィリップ元子爵令嬢さん、お帰りは裏口からお願いするわ。ジョルジュあとで塩まいといてよ!」


 カリンが勝ち誇ったように声高らかに他の使用人にも聞こえるようにジョルジュに伝えた。


 執事のジョルジュが私の衣服を入れているであろう小さなカバンを馬車に積んで領地の出口まで運んでくれた。


 ジョルジュは道の途中でヨセフィン・フィリップ子爵夫人がくれたカバンを捨てた。カバンの中が開いて、着古したメイド服と使い古した下着がはみ出した。どこかの商家でメイドにでもなれというのだろうか?


「ナディアお嬢様、ここを訪ねてください。そしてこの手紙をその方にお渡しください。きっと力になってくれると思います。その方は昔私が悪さをして大怪我をしたときに助けていただいた方です」


「ジョルジュは私が捨て子だと知っていたのですか?」


「はい。死産の子を葬ったのは私です。その帰りに夜盗に襲われた女性が生まれて間もない赤子を私に託したのです。そのときにこのペンダントも預かりました。子爵様にも渡さないで私が保管しておりました。でもお嬢様でよかった。カリン様と違い使用人にも分け隔て無く接してくださいました」


 ペンダントの裏には『ユリアへ永遠の愛を誓う』と彫ってあった。


「私の本当の名はなんというのですか?」


「ナディア様ですよ。その女性がユリア様だと思いますがナディアと言ってましたから、子爵様にナディアではどうでしょうかと提案しました」


「あなたが私を玄関に置いてくれたの?」


「はい。そしてすぐに子爵様に報告しました」


「ありがとう。これまで何も知らなくてごめんね」


「早く行かれた方がいいです。奥様は気の強い方ですから気が変わって何をするかわかりません。もう一度お嬢様に仕えることができることを夢見ております。ですから、『さようなら』は言いません。またお会いしましょう」



 私は婚約破棄されただけではなく、フィリップ子爵家も追い出された。行く当てもない。頼りはジョルジュのくれた新しいカバンと『ミシェル様という宛名の手紙』にその人のいる場所の地図だけだ。


 さすがに歩き疲れた。寝起きにすぐに出て行くように言われたから適当に室内着を着て出た。室内で穿く長いスカートは外を歩くのに向いてない。せめてズボンを穿けばよかった。陽も傾き始めたからどこか宿を捜さないといけない。

 忘れてた、お金をもってないんだ。


「はぁ~」

 ため息をつくと幸せが逃げると言いますが、もう逃げているわ。

 着替えもしたいし、ジョルジュのくれたカバンを開ける。中には新品の服と下着が数着、それにお金とジョルジュの手紙があった。


『昨日、子爵様が奥様と話されているのを耳にしました。たいしたことはできませんが、お洋服などを揃えておきました。それと同封のお金はお嬢様から旅行にでも行くようにと頂いていたお金です。旅行をする機会などございませんでしたが、お嬢様のその気持ちが嬉しくて使えませんでした。お役に立てば嬉しゅうございます』


 ジョルジュには私の方が助けられた。それなのにこんなことまでしてくれた。これまでも人の親切で泣いたことはありますが、でもこれほど泣いたことはありません。

 私は日が沈みそうな草原で一人泣いた。


 その時

「オラオラ、カモがいるぞ!」


 馬に乗った数人の夜盗が現れた。


「お!姉ちゃん!かわいいじゃねえか。俺の嫁さんにしてやろうか。それとも売るか?」

 一人の男が剣を抜いた。

「めんどくせえ。やっちまおうぜ。金は前金で貰っているんだ」


(怖い。まだ陽が明るいから夜盗は出ないと思った自分が甘かった)


 男の剣先が私の胸元に入り、ゆっくりそのまま下ろされた。

「おお!見た目よりでかいじゃないか。それにうぶだぞ。拾いものだ。殺せとは言われたが、その前に愉しむぞー」


(これは運命かもしれない。これまで運がよかった。汚されるくらいなら自害する。でも今はその剣すらない。舌を噛むことも考えた。でもあれは苦しいらしい。男の剣を奪って自害しよう)


「ヴッ……」

「バタッ」

「おい、どうした!死んでるぞ!!みんな気をつけろ」


 どこからか矢が飛んできた。


「このあたりは草原だぞ。木は100メートル先でないと生えてないぞ。どこかに隠れてないか探せ!」


「ヴッ……」

「バタッ」


「気をつけろーーーー!敵は凄腕の弓の名手だぞ」


「ヴッ……」

「バタッ」

「ヴッ……」

「バタッ」

「逃げろーーーーー!!このままでは全滅する。その女はもういい。置いていけーーー!!」


 助かった。夜盗は矢に射貫かれて四人死んだ。残った三人は一目散に逃げた。

 私は腰が抜けてその場に座り込んでしまった。


 でも、このことが新しい出会いを生んだ。


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