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第6話 異性の友達

 朝の集団登校は、慶が先頭を行く『班長』で、あたしが最後尾の『副班長』だから、お互いに顔を会わせる必要性は無い。


 姫香達の自主トレに付き合っている事もあって、あたしはまるで潮が引いて行くみたいに、急速に慶の居るグループから離れて行った。



「失礼しました」


「あれ? 香代? 香代ぉ~」


 日直の日誌を担任の先生に届けて職員室を出ると、雛乃から偶然呼び止められた。


「あ? ……ああ、雛乃だぁ、元気ぃ?」


「うん、元気ぃ。どうしたの? 最近秋庭くんと一緒じゃないのね? つれないなぁ~」


「……」


 うーん、やっぱりそう来たか。


 でもってその言い方は、まるであたしが意地悪しているみたいじゃない?


 雛乃は慶の友達である門田くんの彼女。だから門田くんが慶と一緒に行動する以上、雛乃もセットでついて来る。


「聞いたわよ? 男子ソフトテニスのマネージャーになったんだって?」


「うん」


 雛乃が肩をすくめて照れくさそうに笑うと、左右に振り分けている艶やかなお下げ髪がクスンと揺れた。


 あの慶が主将のテニス部のマネージャーを志望するだなんて物好きね……とは思ったけれど、門田くんの練習が終わるのをただ待っているだけじゃ、辛いかもね。


「マネージャーよりも、女子部に入ればいいのに。男子と同じ時間に終わるわよ?」


「え~、だって香代達、部活が終わっても自主トレしてるでしょ? ってか、運動オンチのあたしには無理だよ」


 軽い気持ちでそう言って誘ったけれど、雛乃からはあっさりと断られてしまった。


 雛乃が言った『自主トレ』は、もちろん姫香達の自主トレの事で、毎日の練習が終わった後で一時間くらい。希望者も含めて五、六人が基本練習を遣っている。


「あたしの事はいいのよ。香代? あんた、秋庭くんとケンカでもしたの?」


「は?」


 ケンカ?


「あれ? ……違った?」


 あたしが軽く驚いて固まっていると、雛乃はなにか自分が勘違いしているのじゃないのかと気付いたみたいだった。


「あの……慶とあたしが……ケンカ?」


「違うの?」


「ち、違うわよぉ! なんであたしが『あの』慶とケンカしなくっちゃなんないの?」


 あたしは雛乃の発言を否定した。


 だってここ最近、顔を突き合わせる事も無ければ、お互いに話しをする機会も無い。それに弱虫・泣き虫の慶は、昔からあたしには頭が上がらないし、あたしが慶を言い負かした事があっても、慶があたしを言い負かした事なんて、ただの一度も無いのよ? 


 ケンカするより以前の話だわ。


「そう……なんだ。あー、でも良かったぁー。てっきり絶交でもしちゃったのかと思って心配したよぉ。もぉ~」


 雛乃は大袈裟にホッと胸を撫で下ろして見せた。


 あたしは、自分でも気付かないうちに、雛乃達に心配をさせてしまったのだと気付いて、少しばかりきまりが悪くなった。


「別に慶とはなんでもないよ。でも、どうして雛乃はあたしと慶をくっ付けたがるの?」


「え? 違うの?」


「えっ?」


「付き合ってるんでしょ? 秋庭くんと」


 あたしにとっては、慶の事よりも雛乃の反応の方が意外だった。そして、俄かに不愉快になって来る。


 雛乃も姫香や亜紀達と同じなの? 


 一緒に帰ったり、傍に居れば『付き合っている』って事になっちゃうの?


 あの……『アキバケイ』と?


「じょ、冗談言わないでくれる? 付き合うだとか。あたしはタダの幼馴染で、慶の家のご近所さんだって事だけだわ」


「『ご近所さん』じゃなくって『お隣さん』……でしょ? ……あら?」


 やや興奮気味に語ったあたしの揚げ足を取って、軽く受け流した雛乃は、あたしの背後に誰かが遣って来た素振りを見せた。


「誰か来たの?」


「噂をすれば何とかだよ? ほれ、秋庭クン」


「ええっ?」


 雛乃の言葉に驚いて、あたしは背後を振り返る勇気さえ持たずに、息を詰めて咄嗟に身構えてしまった。


 あたしには心の準備ってものがあるんだから、いきなり出現なんかしないで欲しいわ。


 特に慶には。


「ぷ!」


「……ど? どうしたの?」


 あたしの様子を見ていた雛乃が突然吹いた。


「ごめ……くっくっくっ……ご、ごめんね。まさか引っ掛かるとは思わなかったから……今のは『嘘』」


「な……?」


 雛乃にからかわれてしまったと知ったあたしは恥ずかしくなり、全身がかぁーっと猛烈に熱くなってしまった。気持ち、なんだか息苦しいわ。


「ふむふむ……多少なりと意識しているのだわね?」


 そう言って、雛乃は自分で勝手に頷いて納得しちゃっている。


「い、意識だなんて……し、していないからっ!」


「いいのよ? 自分で判っていないだけなんだから」


 なに? そのお姉さんみたいな態度は。


「ち、ちがっ……違うってば! あ、あたしは慶の事なんか、少しも思っちゃいないわよ!」


「あーあ。言い切っちゃったわね」


「それがなにか?」


 いきり立って雛乃に咬み付くと、彼女は少し困った表情を浮かべてあたしを見た。


「香代?」


「んな……なによ?」


「素直じゃないわよ」


「そ、そんなこと……」


 笑いながら、冗談っぽく雛乃はさらりと言ったけれど、あたしには十分重い一言のように思えて、正直不快だった。


 雛乃の言葉の半分が冗談なら、残りの半分は本気ってことだよね? 『素直に』……って、あたしが慶の彼女だって認めなよって事なのかな? でも、本当に彼女だとか彼氏だとか意識……していないんだってば。


 確かに慶とは他の男子に比べて話し易いし、妙に気を利かせる必要も無ければ、一緒に居ても気疲れもしない。友達以上、彼氏未満の仲の良い『男友達』……じゃダメなのかなぁ。


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