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第58話 文化祭…6

「あ、お疲れ様~。どうだった? 初のお仕事は?」


 教室で何が在ったのか知らない姫香は、戻って来たあたしを見るなり笑顔で迎えてくれた。


「う……うん」


「どうしたの? 元気、無いなぁー。あ、もしかしてテーブルを間違えたとか?」


「そんなことないわ。ハムサンドはちゃんと注文先のテーブルに届けたもの」


「じゃあ、どうしてそんなに落ち込んでいるの?」


「え? ああ……ちょっと……ね」


 あたしの様子に気付いた姫香は訝って訳を聞いて来た。だけど、今のあたしには姫香にさっき教室で起こった事を、そのまま伝える気にはなれない。ううん、あんな事、伝えられるどころか、相談出来る訳が無いじゃない。


 そう思っていたら、姫香の方から彼女なりの推測が……


「さっき、アキバケイが香代の後から行ったでしょ? 急に騒がしくなったから。で、その事で香代に何かあったみたい……って、在ったんでしょ? 大体「今年は三年の女子がやけに多いね」って、先輩方が言っていたもん。殆どがウエイトレスのアキバケイを見に来てるってもっぱらの噂だよ。だけどなかなか来ないって。それで待っている間、みんなあれこれと噂していたらしいからねー。香代の不利になりそうな噂も在ったのじゃないの?」


「……うん」


「そうだったんだ。それはちょっと気不味かったわね。なんならあたしと一緒に裏方に居る?」


「いい。大丈夫……だから」


 姫香の言葉は嬉しかったけれど、既に持ち場を決められているあたしには、先輩の許可無しに勝手に持ち場を替えるわけには行かなかった。しかも、それが慶の事が原因で……となると、ますます他の人達から怪しまれて妙な誤解をされてしまうかも知れない。


 慶と昔の時みたいな関係に戻りたいと想うのに、慶に近寄って来る女の子にはどうしても心の何処かで嫉妬みたいな意地悪な気持ちを抱いてしまう。その癖、他人から慶の彼女なのかと聞かれてうろたえ、否定してしまうなんて。


 一体、あたしはどうしちゃったのかしら?


 今のあたしには、一旦離れてしまった慶との距離をどう保つべきなのか、それさえよく判らなくなってしまっている。



「ただいま帰りましたー」


「おっ! 待ってたよ~んホットケーキの素~」


「って、あたし等を待ってたんじゃないんかいっ!」


 買い出しに出ていた谷先輩と亜紀が戻って来た。浅井主将の御迎えに、即突っ込みを入れる谷先輩との遣り取りに、調理室が明るく賑わう。


「香代、もう起きて大丈夫なの?」


 姫香の隣に座っていたあたしを見るなり、亜紀は買って来た荷物を実習台にそそくさと置いて、真っ直ぐにあたしの処へと近寄った。


 亜紀の姿を見たあたしの頭の中で『お姫様抱っこされて』と言った三年生の先輩の言葉が繰り返して聞こえている。慶の事を今でも一途に想い続けている亜紀には、その時のあたし達がどう映ったのだろう? もし、あたしが亜紀だったら、あたしの事をどう思ったのかしら?


 亜紀が近寄って来る……でもあたしは心配してくれている彼女を無視したりは出来なかった。


「う、うん。心配してくれてありがとう」


「なに? 他人みたいな事言ってるのよ」


 お約束の言葉を切り出したら、姫香から突っ込まれてしまった。



 慶は、自分と百瀬先輩とであたしを保健室に運んだと言った。でも、さっきの先輩は慶があたしをお姫様抱っこで連れて行ったって……一体どっちの言葉を信じればいいの? そして、今のあたしは亜紀になんて言えば良い?


 亜紀の接近に思わず一歩後ずさってしまったあたし。その挙動不審な態度はたちまち亜紀に伝わってしまった。


「どうかしたの?」


 立ち止まった亜紀が、あたしの様子に訝り小首を傾げる。髪に天使の輪が掛った亜紀の肩までの黒髪がサラサラと流れて、同性の女の子であるあたしでさえ、ハッとさせられてしまった。


――亜紀、随分と綺麗になって……る?


 ふっくらとしていた亜紀の身体は、小学生の時よりも少し痩せたように見える。低いと思っていた背丈だって、なんだかあたしと同じくらい。


 ずっと傍にいたせいか、あたしは亜紀の見た目の成長でさえ見落としていたんだわ。離れてしまった慶だって、あんなに成長していたんだもの。


 亜紀の成長は、見た目の外見だけじゃなかった。


「ん、な、何でもないよ? 亜紀は大丈夫だった?」


「これくらい、平気よ?」


 そう言ってクスッと笑った。今朝の騒動に巻き込まれて肘を擦り剥き、絆創膏を貼っているのに、それでもあたしの事を気遣ってくれている。そんな亜紀の純粋さが、あたしには眩しく見えた。


 亜紀は、今朝のあたしと慶の事を何とも思わなかったの? 


 慶が言っていた事と、先輩が言っていた事の一体どっちが本当なのだろう? ……あたしは自分が取るべき態度の判断に迷い、亜紀の出方をうかがおうとした。



 その時だった。


 急に隣の喫茶店が一際騒がしくなり、次いでさっきあたしと入れ替わりでオーダーを取りに行った一葉と美帆が、バタバタと調理室へ駆け戻って来た。


「廊下は静かに歩きなさいって……」


「た、大変ですぅ! さっき来たお客さんの中に……」


 長谷川部長の注意を遮る様にして、美帆が息を切らせて報告する。


「し、し、東雲中のあの『彼』が来て、アキバくんに再試合を申し込んでいます」


「なんですって?」


 驚いている女子部員一同とは全く逆の反応で、男子部員はそれぞれが奇声ならぬ雄叫びを上げて一斉にざわめき立ち、まるで蜂の巣を叩いたような騒ぎになる。


「ちょっと……浅井!」


 長谷川部長は男子の浅井主将を呼ぶけれど、その声は全く届いていなかった。


「雪辱戦だ!」


「こんな時に、試合だなんて駄目よう!」


 反対する女子部員の声を無視して、男子部員の先輩方がコート使用の許可を貰いに、顧問である藤野先生を探しに何人かに分かれて、それぞれの方向へと散った。


この辺りで最新話に出てくるキャラ設定の整理です。(ちと怪しいかも~)

ご不要ならスルーしてください。


主人公 : 土橋 香代 (中学一年生軟式テニス部員)

親友 : 川村 姫香、遠藤 亜紀、一葉、美帆、他

男子同級生 : 秋庭 慶、門田 雅人、田村 恭介、他


二年生(女子)

部長キャプテン : 長谷川 舞

副部長 : 真鍋

会計 : 谷

先輩 : 百瀬 真奈美、金子、宮脇


男子部員 ※この時点ではまだ二年生は辞めていません。

部長キャプテン 小林(三年) → 浅井(二年)

副主将 原(三年) → 北村(二年)

会計 : 三浦(二年)


顧問 : 藤野先生(男子部)、岡先生(女子部)

 

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