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第5話 別れ道

「で? 姫香はどうなの?」


「うぇえ?」


 いきなりあたしから話題を振られて、姫香は慌てた。


 さっきは亜紀よりも先に自分の事を話したかった癖に。隙が無さそうで案外隙だらけになっているのね?


「慶のどんなトコが好き?」


「ち、ちっ、違うわよっ!」


 あたしの『直撃』に姫香は真っ赤になって、猛然と否定する。


「え? 姫香も秋庭くんを?」


「あのね、姫香はね……もがっ?」


「ちょ、まっ、待ってぇ! ご、誤解して欲しくないんだけど。あたしは亜紀の応援であって秋庭くんのファンとかじゃないから」


 ご丁寧に解説しようとしていたあたしの口を、慌てて姫香が手で塞ぐ。しかも、更に後から『絶対に』って強調して付け足した。


 今更なにを隠そうとしているのよ? 亜紀からは気付かれていなかったでしょうけれど、あたしの眼からはバレバレだわ。


 亜紀だって……姫香の事、もっと早く気が付いてあげなさいよね? あたしなんかさっき知り合ったばかりなのに。もう判っちゃったから。


 亜紀の『天然』ぶりに退いてしまいそうになる。


「ふふん、判り易い子ね? 姫香、あんたこそ怪しいわ。ここで吐いちゃいなさいよ。スッキリするから」


 さっきとは立場が逆になった。なんだか自分が刑事か名探偵になったみたいな気分だわ。


「べっ、別にどう思っているかだなんて……つか、意識なんかしてないわよ。ただ亜紀の応援でつい視線が秋庭くんに行っちゃってるだけなのよ」


「ふ―――ん?」


 怪しいなぁ。


「あー、なにその疑いの眼は」


「疑っているもん」


「……香代ってしつこ」


 あたしの疑いの眼差しから必死で逃れようと、姫香は心持ち頬を上気させ、『心外だわ』と言わんばかりに口を尖らせてあたしから眼を逸らせた。


 まあ、なんて判り易い性格なのかしら? それにしても『あの慶』を……ね?



 背が高くてカッコ良いと言っていた亜紀達に、一度は否定的になったあたしだったけれど、確かに慶は男子の中で、そんなに人目を惹くほどのイケメンじゃないけれど平均ラインはクリアしているわね。


 そう言えば……慶とよく一緒に居る副主将の門田くんにも、さっき下駄箱の所で会った日名子が居る。補佐の田村くんにも他のクラスに居ると本人が話していたのを聞いた事があった。


 あのお笑い系目指しているんだと宣言している門田くんだって『特別な女の子』が居るのに、慶にはそんな『特別な女の子』なんて居ないの……かなぁ? でもあたし、慶からそんな話を聞いた事も無ければ、別に噂だって聞かないし……


 

 慶は『女なんか不要だぜ!』みたいな硬派系でもなければ、逆のアブナイ方向なんかでも無……い? だけど門田くんも田村くんも、慶にいつもくっ付いているわよね……幾ら仲が良くったって、二人とも特別な女の子が居るのに、どうしてあんなに毎日……


 あたしはにわかに慶の取り巻き連中が、妙な趣味を持っている妖しい連中に思えて来た。


「……」



「どうしたの? 顔、真っ赤だよ?」


「香代? おうぅ~い? 『戻って』来~い」


「はっ?」


 我に帰ったら、亜紀と姫香が二人して心配そうにあたしの顔を覗き込んでいた。


「んな、な、ななななんでも無いよ? あはは……」


 あたしはたった今思い浮かべてしまったイケナイ妄想を二人に見破られはしないかと焦り、必死になって笑ってごまかす。


 我ながら、想像力が凄過ぎて困ってしまうわ。




 別に食べ物に釣られた訳じゃないつもりだけれど、改めて会話をしてみたら、姫香も亜紀も最初に受けた印象よりずっと親しみが持てる子だった。


 姫香の突っ込みはキレがあって鋭いけれど、亜紀がそれをやんわりと受け止める役目を果たしていて、二人の間には妙に嫌味な遣り取りは見られない。気性も性格も全く違っていて、しかもお互いが『慶』を想っている恋敵。ライバル同士の二人なのに。



 その後、彼女達は女子軟式テニスに入部してくれた。


 元々運動神経の良い姫香は、俊敏にボールに反応してくれるのだけど、コントロールがいま一つ。亜紀は逆にコントロールは良いのだけれど、ボールの球筋を予測して反応するのが遅れがち。二人とも、即戦力になるには時間が必要だった。


 二人には、慶を知っているあたしに近付きたいと言う、よこしまな思惑があったから、きっと続いてはくれないかもと思っていたのに、彼女達はあたしの想像以上に熱心だった。


 亜紀は、暇さえあればソフトテニスのマニュアル本を読みふけり、姫香はイメージトレーニングやラケットでの連続ボールつきを練習して、それぞれが自分に合った自主トレを頑張っている。


 部活終了後も彼女達の練習に付き合っているから、あたしは慶とは帰りが全く一緒にならなくなっていた。


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