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第42話 二人きり…


「どうしてそうなるのよ?」


――あたしに拒否権は無いの?


 口を尖らせてジトッと慶を睨んだ。


 慶を選んだのは、ここに居る中で一番返事をしてくれそうに思えたから。だけど、あたしと視線が合った慶は、一瞬だけ困ったような表情を浮かべると、気不味そうに視線をあたしから逸らせてしまった。


「ちょ……」


――なんで無視するのよ?


 答える心算が無さそうな慶の反応にムッとなる。


 確かにリハビリついでのゲームなら、パワーで押して来る田村くん達男子ばかりを相手にするのはキツ過ぎるかも知れないわ。でも、だからと言ってあたしをわざわざ指定する必要なんか無いでしょう? 田村くんだって、妙な所であたしにボディーショットのコントロールをするようにと、しつこいくらい指示していたし。


 あたしは慶のリハビリ要員として呼ばれただけなのだと思い込み、不愉快になってしまった。第一、当の本人がこうして無視するんだもの。これはもう、リハビリ要員ですときっぱり言われてしまったのと同じ事だわ。


「土橋ぃ~、ンなに拗ねンなよー」


「だっ、誰が! ……す、拗ねてなんかいないわよっ!」


 あたしの心を見透かしたのか、田村くんが妙な猫撫で声を掛けて来る。でも、今更ごまかそうとしたって、そうはいかないんだからねっ。


「ホントーかぁ? 俺の眼にはどう見ても拗ねてるようにしか見えねーぞ?」


「う、うるさいわねっ!」


 田村くんの直球が一々癪に障る。


 だけど、仕方が無いじゃない。何の説明も無しに呼び出されて、姫香に嘘まで吐いて遣って来たら、挙句、慶のリハビリ練習に付き合わされ、疲れた身体を酷使してゲームに参加させられてしまったんだもの。


「ねえ、香代?」


「?」


 田村くんとの遣り取りを黙って見ていた姫香が口を割った。


「このメンバーでゲームしたの、面白く無かった?」


「……ううん」


 そんなこと……無い。


 普段、男女別々で練習をしているから、練習量も違えば、こなして行くメニューも若干違っている。ストロークのラリー程度なら男女混合もあるけれど、部員数に対してコート数が少ないから、混合ダブルスのゲームを遣ったりする事は滅多に無い。だから、あたしはこのゲームがとても新鮮に思えた。


 正直、男子二人からのパスは速くて中々手が出せなかったけれども、ゲームが進むにつれて眼が慣れて来たのか、ボールに対する恐怖心はどんどん薄れて行ったように思う。


 それに、部活中では全く考えられない事だってあった。


 ゲーム中に時折あったミスショットへの突っ込みや、冗談を交えて笑いを取り、わざと相手のミスを誘う卑怯な心理戦のお喋りも、ツボに嵌って面白かったもの。こんな愉しいゲームも『在り』で良いのかなぁ……なんて。


「なら、明日も来ない?」


「姫香……?」


「愉しめて上手くなれるのなら、あたしはそれでいいと思うよ? 要は『気』の持ち様じゃない?」


「……ん~~~? そうなのかなぁ?」


「そうだよー」


 なんだか姫香に上手く丸め込まれてしまったような気がするわ。試合が近いと言うのに、こんな事で良いのかしら……?



 夕暮は遠く西の空の端に消えてしまい、代わって一面に拡がった漆黒の空には星がまたたき、東の方から綺麗な満月がぽっかりと浮かんでいる。日中はまだまだ残暑が厳しいけれど、夕暮れとともに気温が下がって過ごし易くなって来た。


 あたし達は広い歩道を四人が二列になって、自転車を押して話しながら歩いていた。他愛の無いお喋りから、アゲアシの取り合いや突っ込みまで……こんな時間に、男の子達を交えてこうしてお喋りするのは初めてだったような気がする。なのに、何故だか『懐かしい』と感じてしまったのは、このメンバーの中に慶が居るからそう思ったのかしら……?



「じゃーな、また明日。腕、ちゃんと手当しておけよ?」


「うん。サンキュ。田村こそ、帰り気を付けろよ」


「っせーな。アキバケイに言われたかねーよ、そのセリフ」


 慶との遣り取りをしながら、田村くんは慶にふざけて軽く右手でパンチを繰り出し、慶は笑いながらそのパンチを広げた左掌で受ける真似をする。


「香代、明日ね。お疲れー」


「うん、お疲れー」


 姫香は田村くんに送って貰うのだそうで、二人は先に自転車を漕ぎ出した。


 姫香にはもっと一緒に居て欲しかったけれど、家の方向が違うからこればかりは仕方が無いわ。


 そしてあたしは、家がお隣どうしだから当たり前なのだけど……


――慶と二人きりになっちゃった……


 こうなると、何から話せばいいのやら……別に意識する必要なんか無いのだと頭では理解出来ている心算なのに、何処か妙に構えてしまい、胸がつかえて息苦しい。


 そして自然に口が重くなってしまう。


 そんな自分が不自然で変だなと思った。


 こんなのいつものあたしじゃ無いわ。姫香と田村くんが居てくれた時は、こんな事なんて無かったのに……


「……」


 急に黙り込んでしまったあたしを訝ったのか、隣で慶が様子を窺っている気配がしている。だけど、あたしは慶の方を振り向いて直視する勇気が出なかった。


 振り向けば胸の奥で痞えている何かが、もっと大きくなってしまいそうで不安だったから。


 慶は田村くんや姫香みたいに、想った事を直感的にズバズバ言うような事はしないし、かと言って気の利いた会話をしてくれるほど器用でも無い。


 どちらかと言えば不器用……なのは、あたしと同じね?


 だからこそ、慶の事が苦手になってしまったのかしら……それとも他になにか理由が……?


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