表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/105

第36話 計略


「……」


 自転車置き場で立ち尽してしまったあたしは、頭から冷水を浴びせられたような気分だった。


 田村くんのお誘いに、なんだろうかと首を突っ込みたくなって、少しだけ舞い上がり……そして、半分だけ姫香の事を想って嘘まで吐いてしまったのに……あっさりと嘘がばれてしまうだなんて。


 あたしは姫香に訊ねるべき言葉を失くして俯き、親友に嘘を吐いてしまった事を後悔した。


 こんなのって……無いよ。


 それに、どうして姫香がそこに居るの?


 練習の後、きっと姫香はあたしがこうして遣って来る事を既に知っていたのだわ。だから曖昧に答えるあたしに対して、妙に絡んで来ていたのね。


 でも……姫香だって酷いわ。慶や田村くん達と一緒なら、先に言ってくれれば良いじゃない。それならあたしだって余計な心配や、嘘なんか吐いたりする必要なんか無かった筈よ?


「あれぇ? 香代、親戚の人が来るのじゃなかったの?」


「う……ううん。あたしの勘違い。来るのは来週だったの」


「ふうん」


 予想通り、姫香はあの時のあたしの答えを蒸し返して来た。


 きっと、姫香は嘘を吐いたあたしの事を見損なってしまったに違いないのだわ。一緒に居る慶や田村くんだって、あたしを友人に嘘を平気で吐けるとんでもない女の子だって思った筈よ。


「あ、あたし……やっぱ……か、帰る……ね」


 あたし……三人から見詰められている……そう思うと身体が竦んでしまった。震える手をやっとの思いで自転車のハンドルに伸ばして、握り締める。


 あたしは居た堪れなくなって、とにかくこの場から逃げ出そうとした。



「香代、待てって」


「あー、待てよ土橋」


 慌てた慶と田村くんの声が重なる。そして……


「ほらな川村? 言った通りだったろ?」


「……そうね」


 田村くんと姫香が意味深な遣り取りを始めた。


 あたしは何事かと思い、俯いてしまった顔を上げて二人を見る。



 あたしから嘘を吐かれた姫香は……少しも怒ってやしなかった。むしろその逆で、なんだかあたしを気の毒がり、可哀想に思っているみたいな表情を浮かべている。


 対して田村くんは、彼の後ろで困っている慶を見て、少しだけ意地悪そうにニヤニヤと笑っていた。


「な……なに?」


 あたしは二人の様子を訝り、答えを求めて姫香を見詰めた。


「ううん。大した事じゃないの」


 姫香は無理矢理な作り笑いを見せる。


「そんな……」


『大した事じゃない』……って、一体どう言う事なの? あたしは姫香に嘘を吐いちゃっているんだよ? 悪いのはあたしでしょ? なのに、どうして笑顔なんかあたしに向けられるの?



「さー、これでメンツも揃ったし、行こうか?」


 何事も無かったみたいに平然としている田村くんの声に、あたしはハッとする。


「ちょ……田村くん? 一体どういう事?」


 あたしは自分の置かれた居心地の悪い状況に納得出来なくて、今度はあたしを呼び出した田村くんに食って掛った。


「ハイハイ、んじゃあ後で説明して……」


 田村くんは面倒臭そうに軽く両手を上げて見せたけれど、その後すぐに慶とあたしの顔を素早く盗み見ると、急にプッと吹き出してクスクス笑い出したかと思ったら、掌を返すように態度を変えた。


「やっぱ説明すんの……止めるわ」


「おい、田村そりゃ無いぞ?」


「え?」


 言い返そうと身構えたら、先に慶が口を割った。


 慶も……なの? 慶もあたしみたいに呼び出されたのかしら?


 田村くんは慶から突っ込まれているにも関わらず、相変わらずなニヤニヤ笑いを浮かべている。慶はそれが気に食わなかったらしく、少しだけ頬を紅潮させながら眉を潜めた。


「まあ、ココで話込んじまうのも時間が勿体無いしよ。取り敢えず予約してるコートに行かね?」


「……お? あ、ああ……」


 慶は狐に摘ままれたみたいな顔をしたけれど、田村くんの強引な押しの強さに気圧けおされて、上手く丸め込まれてしまったみたい。二人の男子はあたしに背を向けて、先に歩き始める。


「……」


 ちょっと……待って? 『時間が勿体無い』? 『予約してるコート』??? ってなに?


 取り残されてしまったあたしは、田村くんの言葉に混乱した。



「ほらぁ、香代もこっち、こっち」


「え?」


 先に二人の後を追う姫香が、あたしに声を掛ける。


「あれ? ラケット持って来なかったのぉ?」


「え?」


「仕方無いなぁー、じゃあ、あたしの予備を貸してあげるね」


「ええ―――っ???」


 ラケット持参が当然のような姫香の言い様に、退いてしまった。


 ここに呼び出されたのは確かだけれど、でも、今日だって一日中部活をしていたのよ? なのに、部活がやっと終わったら、呼び出されてまたしても練習なのぉ?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ