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第35話 お洒落?

 姫香達と別れた後、田村くんからの呼び出しを受けて向かった待ち合わせ場所は、数年前に市が移転拡張した中央公園だった。


 公園に向かう途中で自宅があるから、あたしは一旦自宅に帰って、部活へ持って行った荷物一式を降ろした。ついでに手早くシャワーで練習の埃と汗を流して、普段着に着替えた。


 だけど、初めて男の子との待ち合わせと言うちょっぴりドキドキなイベントに、少しだけ自分の格好が気になって、こっそりお母さんの部屋に入り、置いてある姿見に全身を映して、くるんと廻ってみた。



「ん~と……」


 自分の姿だし、誰からも見られていないのは判っているのだけれど、何だか少し……照れちゃうな。


 あたしが着替えたのは、淡いベビーピンクのTシャツとクリーム色のパステルカラーのハーフパンツ姿と言う、これからまた部活練習すると言われても違和感が無い恰好だった。


「……」


 ちらりと頭の中で、この前お母さんから貰った、白地に小さな青い水玉柄のワンピが浮かぶ。



 それはお母さんが型紙と布を買って来て、手作りしてくれたワンピだ。ちょっとした場所にも出られるようにと、丈の短い半袖ボレロタイプの上着とセットになっている。『アンサンブル』とか言う上下お揃いの服だ。



 あたしのお母さんは手芸が得意で、年に何回か地域で開催されている趣味の講座で、手芸教室の講師として呼ばれていたりしている。


 フェルトの布で可愛いマスコットなんかを簡単に作ってしまうし、季節によっては編み物とか、刺繍。カントリー調のトールペイントとか、ステンドグラスなんかも自分で作っちゃう、とても器用なお母さんだ。


 でも、あたしはお母さんの器用さは譲り受けては居なかったみたい。


 第一じっと座って居られないし、家庭科でお裁縫をしても怪我ばかりするし、縫い目はバラバラでとても見られた出来じゃ無い。


 お父さんとお母さんは、あたしが生まれた時、女の子で良かったって喜んでくれたそうだけど、今のあたしはちっともおしとやかじゃ無いし、女の子らしくなんか無いんだもの。



  *  *



 あたしはリビングのロングソファにうつ伏せに寝転び、膝から下……両脚を宙に浮かせて時折足首をヒョコヒョコと動かしながら、頬杖をついて優雅に雑誌を見ていた。


『少しはスカートでも穿けば?』


 練習が無い日でも、ジャージかスウェットの短パン姿でいるあたしを見兼ねたお母さんがそう言った。


 でも言われれば、いつの間にか家でスカートを穿かなくなっている事に気が付いた。


『ええー? あんなのヒラヒラしてて邪魔だもん。あたしにスカートだなんて似合わないわよ』


『そんなこと無いわよ? 女の子なのに。お母さんは香代のスカート姿を見たいわ』


 一度ジャージの心地好さと言うか……ラクなのを体験してしまうと駄目だわね。それに、ジャージだってオシャレで結構可愛いのを売っているもの。スカートだなんて窮屈に感じてしまって駄目だわ。


『学校の制服だってスカートでしょ?』


 ハコヒダのプリーツスカートをいつも穿いているじゃない。


『それは制服でしょ? もう……そうじゃ無くって、家で穿くの』


『面倒だもん。これでいいの』


 あたしはそれっきり、お母さんにぷいとそっぽを向いた。


 お母さんにはスカートを穿きたくないみたいに言っちゃってしまったけれど……本当はそんなことなんか無い。ずっと小さかった頃は、いつもスカートだったもの。


 いつの間にか、周りの友達がスカートを穿かなくなったせいもあるけれど、スカートの丈によっては自転車に乗れなかったり、飛んだり跳ねたり出来ないし、それに男の子とはっきりと区別されているみたいで、なんとなく恥ずかしくて嫌だなって思ってしまったから……


 暫く着ていなかったワンピースやスカートに妙なコンプレックスを抱いてしまう。『似合わない』とさえ思ってしまうもの。


 そうは思ってみたものの……『もしかしたら似合うかも知れない』……とも思った。だって昔はちゃんとスカートを穿いていたんだもの。


「……」


 あたしはお母さんに作って貰った白い水玉ワンピ姿になった自分を想像した。


 そうしたら……何故だか眼の前に……左右からあたしに向かってにっこりと笑い掛け、手を差し伸べる慶と田村くんが、セットで出て来た。


「いいいっ?」


 な、なに? こっ、この状況は……?


 あたしは顔が急に熱くなったのを感じ取ってしまい、あわてて両手をバタバタと振っり、妄想を掻き消した。


 しかも、文化祭の男子一年生に用意されるコスチューム騒動が冷め遣らぬ今のあたしの脳内には、二人ともタキシード姿……って、何気に処か、猛烈に恥ずかしくなって来る。


 い、幾ら田村くんからの誘いでも、でっ、でで、デートなワケじゃあ無いんだから、かしこまって気張る必要なんか無いわよね?



 あたしは姿見に映った自分の姿を、今度は観察するようにじっと見詰めた。


 日焼け止めを塗っていたけれど、今日も炎天下で頑張って練習に励んでいたから、服から出ている顔や手足は、少しだけ熱を持って赤味を帯びてはいるものの、程よくこんがりと色付いている。


 日焼けを何とも思っていないらしい慶や田村くん達男子の黒さには負けてしまうけれど、それでも……


「焼けてる……」


 思わず自分に向かって言った言葉で傷付いてしまった。



  *  *

  


 テニスコートに一番近い駐輪所に自転車のスタンドを立てると、あたしは辺りを見渡して田村くんの姿を捜した。


 幾らテニス部だからって、部活後に即呼び出しだなんてあんまりよ。そう思いつつ、男の子との待ち合わせに少しだけドキドキ。


「あ、おうい土橋ぃ」


 あたしの姿を先に見付けた田村くんが声を掛けて来た。


 声のした方を振り向いたあたしは、居る筈の無い慶の姿と、もう一人の人物の姿に驚いて眼を見張り、顔を引き攣らせてしまった。


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