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第31話 聞かれてしまった独り言

 五時限目の授業が終わって黒板を消していたら、さっき呼ばれて職員室へ行った委員長の瑞穂が、プリントを抱えて戻って来た。


「香代っち、今日、あんた日直だったよね?」


「うん」


「先生が『日直は職員室へノートを取りに来るように』だって」


 プリントは一人に三枚ずつあるらしく、交互に重ねられていた。瑞穂はそのプリントの束を崩さないように、教壇の上にそっと置く。


「ノートって、今朝持って行った宿題のノートの事?」


「うん、そう」


「ええ~~~?」


 あたしは自分でも驚くくらい、嫌そうな声を上げてしまった。


 だって、今日の日直はあたしと慶だ。その慶が怪我をしているから、いつもなら二人で分担していた作業なんかを、全部一人でこなさなくちゃいけない。


 ノートの事だって、今朝みんなの宿題ノートを回収して、独りで苦労しながら職員室に運んで行ったばかりだって言うのに、今度はそれを返すから取りに来るようにだなんて……


 あんまりだわ。


 ノートが重くて、二度も職員室を往復したのに……


 だからと言って、利き手が動かせられない慶に手伝えとは言えなかったし、慶の事を気遣ってあれこれと世話を焼く亜紀は別のクラス。幾ら友達だからって、慶の日直の仕事を手伝わせるのはちょっと……無理に手伝ってと言うのは気が引ける。



 こんな時、頼りになってくれる姫香は、慶と亜紀が怪我をした日以来登校して来ない。


 先生の説明では、他県に住んでいる親戚が亡くなったと連絡があったそうで、あれからずっと戻って来ていないのだそうだ。


 あの時、亜紀の怪我の具合を気にしながらあたしに謝って帰っちゃったのは、部活終了後に予約されていた列車の時間を気にしていたからであって、別にあたしや亜紀に心変わりや愛想を尽かせたわけでは無かったらしい。


 理由を話せなかったのは、身内の『不幸』ならば、姫香が言い辛くなったのもなんとなく判る気がするし。



 姫香の件はアリだとしても……なんであたしはこんな時に、慶と日直なんかになっちゃうのかな?


「はぁ……」


 あたしは大きくため息を一つ吐いて、重い足取りで職員室へ向かった。



「香代、どこに行くんだ?」


 浮かない顔をして廊下を歩いていたあたしは、背後から慶に呼び止められて思わず立ち止った。


「し、職員室……」


「職員室? ……ああ、今朝香代が持って行ってくれたみんなのノートか?」


「そ」


 あたしは少しだけいじけて素っ気なく言い放つ。


「あれ、重たかっただろ? 僕も手伝……」


「い……いいっ! 独りで持って来れるから」


「……香代?」


 言い掛けた慶の言葉を遮り、あたしは強く言い切った。


 剥きにならなかったと言えば嘘になる。


 あたしは、それまで亜紀からちやほやされていた慶が急にあたしを気遣ってくれたのが嬉しかった反面……悲しくなってしまった。


 自分だって日直なのに、今頃になって日直であるあたしを意識しただなんて……遅過ぎるわよ。


 それでも、あたしは自分の気持ちとは真逆の言葉を口にした。


「あ、あんたは来なくていいから。そのまま教室に残って居なさいよね? け、怪我してるんだから。それに、二回に分ければ持って来られるんだし、慶が気にする事ないよ」


 ああ、あたしの馬鹿馬鹿馬鹿っ。なんでこんな時に意地張っちゃったりなんかして、平気なフリするのよ?


「でも、香代……」


「『でも』じゃないの。いいから慶は教室に帰ってて!」


 慶の心配そうな声を振り払うように、あたしは後ろを振り返らずにそうきつく捨て置くと、可愛げも無くサッサと足を速めて歩き始める。


 なんだか顔が火照ほてって……身体が熱いわ。



 ……れ? あたし……なんでこんなに怒っちゃっているのかな?



 日直に気付くのが遅かった慶に対して頭に来ているのか、それとも、亜紀にちやほやされて照れていた慶に対してなのか……?


 でも本当はもっと早くに慶は日直の事に気付いていたのかも知れない。だって、午前中は亜紀が心配して、休憩時間はずっと付きっ切りだったから。


 慶が日直を遣ろうものなら、きっと亜紀は自分が代わりにするって言い出すだろうから、慶は行動出来なかったのかも知れないわ。


「全く……それで無くたって新人戦が近いのに、こんな時になんで怪我なんか遣ったりするのよ……ふんだ。亜紀にデレデレなんかしちゃって……」


 お陰であたしまで迷惑をこうむっちゃったじゃないのよ。


 こんな事で気持ちが浮いたり沈んだりするんだもの。


 その……こ、困らせたり……しないでよ。


「……ごめん」


「ええっ? う、うわ!」


 ぼそっと呟いた独り言だったのに、いきなり背後から慶が謝って来た。


 もうとっくに教室へ慶が帰ってしまったとばかり思い込んでいたから、この不意打ちには驚いてしまったわ。


「なっ、なんで? 慶は教室に居ればいいって言ったじゃない」


「そんなコト言わないでよ。片手なら遣えるんだし」


 慶は穏やかに笑ってあたしの目の前で左手を広げると、ひらひらと振って見せた。


「……」


 ひゃあ~~~、どっ、どうしよう。


 もしかしてもしかしなくても、あたしの今の独り言を慶に聞かれちゃったの……かな?


 うわぁ、あたし聞かれると拙い事を口走って居たりしなかっただろうか……?


 いや、そんなコトよりも……


 あたしは慶にくっ付いているであろう亜紀の姿を捜して、辺りをキョロキョロと見回した。


「あ、亜紀は……?」


「教室移動が無いから、来ていないよ?」


「そ、そう……」


 慶の言葉にホッとした。


 だけど……


 だけど、同時にあたしの友達でもある亜紀の不在を聞かされて、安心してしまった自分が何だか卑怯に思えて……


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