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第25話 女神(おんながみ)様のいたずら…5


「慶はもう御参り済ませたの?」


「うん」


「じゃあ、もう帰ろうっか?」


 あたしの願い事はもう叶ったし、さっき嫌な眼に遭ったから、これ以上の長居は無用だと思った。それにこれだけ大勢の人が御参りに来ているんだもの。


 今のあたしは慶とツーショット。だから、そ、そのう……デ、デートしているみたいに見えちゃうとアレだし、ましてや姫香達に見付かったら、この状況をなんて言い訳……い、いやあのその……なんて説明すれば良いのか……


 今日はお祭りに来ていないけれど、亜紀が慶の事を想っているのは判っているし、気の多い姫香だって、本命は慶なのかも知れない。あたしは、二人とも慶の事が好きだと知っているから、幼馴染のお守役だったあたしが慶を独り占めして一緒に居ちゃ、なんだか悪いような気がするもの。


「香代は参拝済ませたの?」


「あ……ああ、その……」


「なに言ってんの。正直に言いなよ。もう。まだ行ってないんだろ?」


「……」


 当たり。あたしは心の中で返事をする。でも、しどろもどろの答えになっちゃったから、一発でバレちゃったのかも。


「行くよ?」


「って、何処へ?」


 思わず聞き返してしまった。慶は困った顔をして小首を傾げる。


「なに言ってんの? 神社に決まってるでしょ?」


「あ? ……う、うん……そ、そうだよね」


 慶にリードされて、あたしは渋々従った。周囲の雑踏に紛れてあたし達は肩を並べて歩き出したけれど、あたしはそわそわして落ち着かない。



 お祭りのお囃子の音が近くに聞こえ、和太鼓の力強い音が、あたしの早くて浅い呼吸に合わせるようにドンドンと身体に鳴り響く。



 お願いだから、誰にも会いませんように……



 あたしは心の中で祈る様に呟きながら、いつ顔見知りの誰かに会うかも知れないと言うドキドキの状態を気にしていたのに……中々そんな状況にはならなくて、気が緩んだあたしは、いつの間にかそれさえもスリルとして余裕で愉しんでしまった。


 しかも周囲にはあたし達と年の近いカップルも結構居て、あたしの視線が無意識に同年代のカップルを捜している。


 ……もしかしたらあたし達、あんな風に他の人達から見られているのかな? 


 そう思うと嬉しくなって浮かれてしまった。



「ねえ、慶はどんな子がタイプなの?」


「え……?」


 慶は一瞬あたしの質問に困ったような顔をした。


 会話が途切れてしまい、黙ってお社へと向かって歩くだけになってしまったあたしは、この沈黙の状態が我慢出来なくなっていた。


 殆ど顔を合わさなくなってしまったし、お互いに状況は違っている。せっかくの接近チャンスなのだから、亜紀達が一番慶に聞きたい事を聞いてみようと思った。


 で、あたしもそこのところは是非聞いてみたい気が……するし。


 歩いていた慶は、急に足を止めてゆっくりとあたしの方へ身体を向けた。思わずあたしの胸がドキンと弾む。


「いや、急に聞かれても……」


「ううん、違う。違う。あたしが気になっているのじゃなくて、男子の意見を聞きたいと思っただけ……だけなのよ。でね、慶の意見はどんなのかなぁーって」


「……」


「あ? んなっ、なに? そ、その疑いの眼は?」


 慶はすぐには答えてくれなかった。訝ってあたしの様子をうかがっている慶の視線に、またもやドキドキの動悸が……


「そ、それとも、もう彼女が出来た……とか?」


「いや、居ないよ。まだ……」


 慶の答えにドキドキしながらホッと胸を撫で下ろした。だって『居るよ』って言われたらどうしようかって……返事に困ってしまったから。


「『まだ』……って事は?」


 あたしの視線を受け取って、慶は軽くうなずいた。


「そうだなぁ……すぐに想った事が顔に出て、判り易くて『嘘』が吐けない……かな?」


「は……ぁ……」


「なんかさ、判り易い所が可愛いかも」


 なんだか曖昧な言い方ね?


 慶の言った言葉をもう少し解釈してみると……


 あたしの頭の中には、純情可憐ではにかみ姫の亜紀の顔が浮かんだ。亜紀は今年のバレンタインに勇気を出して慶にチョコを渡しているし、去年は同じクラスだったから慶が亜紀の事を知らないはずは無い。


 確かに亜紀なら慶の理想の彼女にぴったりかも知れない。積極性を持ちたいからって理由でテニス部になんか入っているけれど、普段は本ばかり読んでいるおしとやかな文学少女で、男子とはなかなか会話に至らないオクテ中のオクテ女子。


 そうなんだ……慶は亜紀みたいな女の子が好きなんだ……


 なんだ。ちょっとだけ残念……かも……


「……って、香代、聞いてる?」


「え? え、ええ、き、聞いてるわよ?」


 慶からの急な『振り』に驚いて、あたしは慌てた。


「いや、聞いてなかっただろ? 今の」


「ええ? きっ、聞いていたわよ。わ、判り易くて単純な子が良いんでしょ?」


「……」


 あたしのつっけんどんな言い様がしゃくさわってしまったのか、慶は少しだけムッとなって眉を寄せる。


「んな、なによ?」


「ったく……なに誤解してるんだよ? 僕は……の事が……」


「ええ? なに? 聞こえないわよ?」


「だから……」


 肝心な所を言い掛けた慶の言葉は、お囃子のクライマックスになった和太鼓と見物客の歓声に掻き消されてしまった。


「なに赤くなってるのよ? 聞こえないってば!」


「も……もういいよ……」


 一人でなに鼻息を荒くしているのよ?


 亜紀が好みだってさっさと認めちゃえば良いものを、ごちゃごちゃ言うから邪魔が入って……聞こえなかったんじゃないのよ。


 だけど……やっぱり慶は亜紀みたいな女の子がいいんだ……お守り役だったあたしなんかじゃ……駄目……なんだよね?

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