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第14話 バレンタイン…(後編)

 二月十四日……遂に遣って来たバレンタイン。


 その日は朝からみんななんだかソワソワしていて、特に男子は落ち着きがない。


「ねぇ、見た? 三宅みやけくん、今年も両手一杯にチョコ抱えて登校して来たわよ」


 二組に偵察に行った瑞穂が、鼻息を荒くしながら戻って来た。


「え~、やっぱり?」


「いや~ん、あたしももっと早く渡すのだったぁ~」


「あたしもー」


「今から渡す?」


「うん!」


「あ、あたしも~」


 瑞穂の帰りを待っていたクラスの女子の殆どが、それぞれチョコを手にして席を立った。


 クラスの女子の大半は六年二組の三宅くんのファン。


 彼は四年生の時にイギリスから帰国して来た男子。お母さんが凄い美人のイギリス人だと聞いている。そのせいか、彼の髪は淡い栗色で、光に透けると金髪に見えるし、瞳の色も黒に近い濃いブルー。


 背が高くて頭が小さいアイドル系人形みたいな容貌だ。帰国した当時は日本語が上手く喋れなくて、随分苦労をしたらしいし、望まないいじめにも遭ったらしいけれど……基が頭の良い彼だったから、半年も経たないうちに日本語がペラペラになって、あっという間にクラスに馴染んでしまった。


 彼とは五年生の時に同じクラスだったけれど、品のある優雅な立ち居振る舞いをする彼の周りだけはいつも空気が違っていた。頭が良くて運動もそつ無くこなせるから、確かに女子に人気があるのは頷ける。去年のバレンタインでは、彼がダントツでトップだったから、恐らくは今年もそうに違いない。



「あ~あ、やっぱ今年もこうなるのかよ? 乗りでこくっても実らねーって事、まだ判んねーのかねー? 競争率激しい『激戦区』なのに」


 教室の窓辺に慶と並んで寄りかかっている門田くんが、嫌味混じりにぼやく。


 あたしは自分の席から見えた二人に視線を送ったけれど、慶があたしの方を見ている気がして、慌ててぱっと顔をらした。


「秋庭さん、これ、受け取って?」


「ん? あ、ああ……」


「おおっ? やるじゃんチクショー。で、これ何人目?」


「え?」


「言うなよ、門田」


 顔をそむけたあたしの耳に、慶宛にチョコを渡す女子の声が聞こえた。そして慶の妙に気乗りしていないような声がする。門田くんが傍にいて冷やかしたりするからそうなったのかな?


 あたしはその遣り取りを聞いただけで、自分までが緊張して息を殺してしまった。


 だって、女子の殆どが二組に行っちゃって、手薄になった今のこの狙い時を逃す手は無いわ。慶の所に行っているのはきっと亜紀だと思ってしまったから。


 さっそく亜紀は頑張ったのね……でも、亜紀にしてはなんだか大胆かも……?


 そう思って視線を戻したら、慶の前には二人連れの女の子の後ろ姿。一人はショートボブの髪で、もう一人はツインテールに髪を結んでいる。どちらも亜紀とは別人だわ。


 姫香や亜紀じゃなく、あたしの知らない女の子が慶にチョコを渡している光景に、あたしは唖然としてしまった。


「受け取ってくれてありがとうございます!」


「失礼しまぁ~す」


 その言葉遣いで、女の子達が後輩だと判った。


 慶に受け取って貰えた彼女達の弾んだ声が教室内に響き、二人は嬉しそうに笑いながら教室を出て行く。


 あたしは無邪気な彼女達の後ろ姿を見送った。


 本物の亜紀はどこに居るのかなと思い、教室を見回したら……教室の隅っこで、顔を真っ赤にして尻込みする亜紀と、亜紀を説得しているらしい姫香が居た。あの様子じゃ、亜紀は慶に渡す勇気が無くて、更に後輩の出現で精神的にプレッシャーを掛けられてしまったみたい。


 でも、亜紀には『あの』姫香が居るから、きっと大丈夫。渡せるよ。


 そう思ったら、急に気抜けしてしまった。


 な、なぁんだ……あたしが心配することなんか……無かったじゃない。


 心配しなくっても、慶って意外ともてていたんだ……?


 予想外の展開を目の当たりにして、席に着いていたあたしの両手が、無意識に机の下で長方形の箱を掴んでいた。


『慶なんかにあげないんだから……』そう心の中で誓っていたものの……結局はいつものお手製チョコを持って来てしまった。


 チョコのカップが五個一列に並んでいるよう配置している細長い箱の中身は、去年雛乃から教えて貰っていた。生クリームとホワイトチョコのマーブル模様のチョコを、あのまま作らずに忘れてしまうのも……そのう……勿体無いし。


 だけど姫香や亜紀にしてみれば、あたし……立派に裏切り行為してる。



  * *



「ねえ、亜紀達もう渡せた?」


「う、うん。なんとか……ね?」


「良かったわね」


「うん」


 午前中の授業が終わり、当番で給食室に行く途中、あたしが亜紀に問い掛けると、照れた明るい返事が戻って来た。


 亜紀は、初めて慶と二人で喋った事が嬉しくて仕方ないのだと言う。姫香からかなり積極的にプッシュされていたにも関わらず、結構尻込みしていたみたいだったから、あたしは凄く気になっていたのだけれど……無事に手渡しが出来て良かったわね。


 亜紀の成功を喜んだあたしだけれど、反面、あたしの心の中で何かがぽっかりと抜け落ちてしまったような……不思議な感覚を覚えてしまった。


 それは多分、あたしが持って来てしまったチョコをずっと机の中に入れたままにしているから? 


 渡す心算が無いのなら、そもそも作る必要も無ければ、それを持って来る必要だって無いのにどうして持って来ちゃったんだろう……?


 今までは義理で渡すのが義務だと思っていたから、止めようと自分で決めた事なのに……なのに辛く感じてしまうのはどうして……なのかな?


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