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第12話 母からの…

 みんな宮田くん達の班の部屋に集合してしまい、他の部屋はシンとして、気味悪いくらいに静まりかえっていた。


 通路に出たあたしは、人の気配がしなくなった幾つもの部屋の前を、足早に通り過ぎる。


 途中、みんなが集まっている部屋からは、ガヤガヤと騒々しい声が漏れ聞こえていて、他の部屋ととても対照的だった。


 あたしは体調が悪いからと言って、姫香達には先に部屋で休みたいからと断り、頃合いを見計らって慶の居る部屋にこそこそと壁に隠れながら遣って来た。



「慶? 居るの?」


 みんなが居る部屋の三つ隣にある慶の居る部屋のドアをノックして、あたしは周囲を気にしながら小声で問い掛けた。


「ああ、僕だけしか居ないから、入っていいよ?」


 中から慶の声がした。


 こんな時に、一体なんの用事なのかなと不思議に思いつつ、あたしはドアをそっと押し開けた。


「わ?」


 ドアを開けた途端、すぐ眼の前に慶が立っていた。


「驚かしてごめん。これ……今朝、おばさんから預かって来たんだ」


 慶はそう言うと、四角いスーパーの紙包みがすっぽりと入った、小花柄の布製手提げバッグをあたしに差し出して来た。


 大きさの割には物凄く軽くて、ふわふわしてて……?


 たちまち、それがなんであるのかが判ったあたしは、頬がチリチリと熱くなって来るの感じた。


「なっ? ち、ちょっと慶! これって……」


「渡して来たのはおばさんだよ」


「これが何だか判って……」


 そう問い掛けると、慶は少し赤くなって顎を引いた。


 あたしは慶の表情を見るなり、カッと頭に血が上り、身体が戦慄わなないた。


 なに? 慶は今朝からあたしのお母さんから預かっていた『用品』を、あたしに渡そうと思って、ずっとあたしの事を見ていたの?


「あの……さ、悪いんだけど僕に八つ当たりしないでくれる? 僕は香代のお母さんから『これを渡して』って預かっただけだし、それに……僕には母さんも美咲も居るから、だいたいの事は、その……知っているんだ。保健体育で習ったし、美咲がお腹が痛いって言って毎月機嫌が悪くなるから」


「で、でも……でも……」


 慶から受け取ったあたしの手が震えた。


 慶の一言々が信じられない。


 美咲さんは慶の年の離れたお姉さん。お姉さんが居れば、女の子のお月さまも当たり前のものだと思っちゃうのかな……?


 でも、慶は口では平気だって言っているけれど、顔は正直に赤くなって俯いてしまっている。平気だったら、どうしてちゃんと眼を合わせて言わないのよ?


 こんな所に呼び出して、何かと思えば……


「平気なんかじゃ……ないでしょっ?」


「そ、そんなこと……」


 否定しておきながら、慶はあたしを直視出来なくて居心地が悪そうにソワソワし、視線も定まらなかった。あたしは慶の気配りがにわかに不愉快に思えて嫌になり、堪らなくなって来た。


「慶の嘘吐き!」


 気になっている癖に!


 そう言い捨てると、ぱっと身を翻して自分の割り当てられている部屋に駆け戻った。


 用意されていたお布団に潜り込むと、横になって身体を丸める。そして、たった今慶から手渡された『用品』をぎゅっと両腕で抱き締めた。


 恥ずかしくて身体が燃えるように熱い。このまま燃えて消えちゃえばいいのに……


 結果的には物凄く助かったのだけれど、それでも頭に血が昇って腹立たしかった。


 お母さんもお母さんよ! あたしを車で送ってあげるだなんて言っておいて、こんなのを慶に持たせてしまうんだから! どういう神経しているのよ!


 あたしが恥ずかしい思いをするだろうって、どうして判ってくれないの?

受け取った慶も慶だわ。


 もう……慶も立川と同じよ。男なんてみんなデリカシーが無くって……嫌いっ!



  * *



 どのくらい経ったのかな?


 通路からガヤガヤと雑談が近付いて来ている。


「香代ぉ~調子はどう?」


 姫香達が真っ先に声を掛けてくれた。


 あたしは寝起きでぼんやりしたままこくんとうなずき、大丈夫だよと伝えると、同じ班の子達が、みんなホッとした表情を浮かべた。



「ごめんね? あたし達だけ楽しんじゃって」


「ううん、いいのよ。みんなが楽しんでくれた方が。却って心配されるより、楽しんでくれた方が嬉しいもの」


 そして、あたしはみんなが集まった時の事を聞かせて貰った。


 男子による一発ピン芸から始まり、結構盛り上がったかくし芸大会になったそうで、途中何度か先生が部屋に遣って来て、厳重注意を受けのだそうだ。


 しかも、解散直前に『シメ』だとか言って、『あの』立川を含む五、六人がまくら投げを遣らかして女子まで巻き込む大騒ぎになり、遂に学年主任から怒られてしまったと聞かされた。


 首謀者の数名は、今も通路に立たされていると聞かされてて、あたしの笑いを誘った。



「そうそう、秋庭くんが遅れて来たんだよ」


 不思議そうに言った亜紀の一言に反応して、あたしの心臓がどきりと大きく脈打った。


 慶はその……あたしにお母さんから渡された物をあたしに届けるために、みんなが集合していた部屋に行けなかったんだったっけ……


「こら、亜紀」


 姫香の突っ込みをあたしが不思議に思っていると、慶はお手洗いに入っていて遅くなったのだそうだ。同じ班の門田くんが本人よりも先にその事をみんなに伝えていたから、遅れて遣って来た慶は男子のから拍手喝さいを浴び、ついでに下品なネタに困らされていたと言うのだ。


 ……嘘よ。


 慶は、あたしの為にみんなと離れて遅れてしまっただけなのに、クラスのみんなからからかわれていただなんて……


 結果的に、あたしは慶にも思わぬ迷惑を掛けてしまった事になるのだわ。




 それからというもの、あたしは慶と視線を合わせられなくなってしまった。


 慶がかさばる荷物を持ったまま、まる一日どうやってあたしに渡そうかと悩んでいて、出来る限りの気遣いをしてくれたみたいだったのに、あたしは許してあげる事が出来なかった。


 クラスの担任は男の先生だったから、とても相談できそうに無かったけれど、それでも自分でなんとかしなくっちゃと、勇気を出して買いに行こうと思っていた矢先だったのに。


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