2 初めての鑑別所
俺は、初めて鑑別所にきていた。噂通り、くそ悪いとこだった。まず初めに石鹸水の冷水を浴びせられ、そのあと何回も水浴びをさせられた。
おれは、そんなに汚くないのに。確かに風呂なんて贅沢なものには、入れなかったが、毎日、濡れタオルで体をふいていたんだぜ。スラムでは珍しいきれい好きと呼ばれたものだ。
それが終わったら、ぼろきれみたいな服を着せられて、牢屋みたいな部屋に突っ込まれた。俺のほかにも何人かいた。みんな、覇気がなく、バラバラに座っている。俺と同じスラム出身なのだということが、すぐわかった。なんていったらいいか、わからないが、スラム独特のオーラというものだ。
鑑別所にくるまで、ずっと考えていた。スラムの人権なんてない。この決定は、ひっくり返らないだろう。でも、家族には最後に会いたい。そして、俺を陥れたやつも知りたい。家族は、俺が居なくても平気だろうか?まだ小さいあの子たちに盗みができるだろうか?いつも狭くて賑やかだったうちを思うと、泣けてくる。薄暗い部屋の中で、三角座りで顔を伏せて、涙をこらえていると、同じ部屋にいるやつに声をかけられた。
「よぉ。俺は、リキ。お前は?」
「・・・・カズだ。」
「何してとっつかまったんだ?
「盗みだが、薬の密売にさせられた。」
「お前もか?」
「、、、、、どういう意味だ。」
「俺も同じような冤罪だ。お前を捕まえに警察幹部が来なかったか?」
「ああ。来た。」
「おかしいよな。スラムの小さな犯罪にでしゃばってくるなんて。あんなエリートは、スラムなんて近づきたくもないはずなのに。おかしな点がいくつもある。今後、気を付けた方がいいぞ。」
「ああ。ありがとう。でも、こうなった以上、俺たちに逆らう権利なんてないよな。」
「まぁ。そうだな。」
なんて、話をしながら、することもないので俺たちは、ずっと話し合った。リキもそれなりに大変な身の上だった。場所がこんなところでなければ、俺たちは、最高の友人になれたかもしれない。
二日ほど過ぎたころだろうか?俺たちは、牢屋をでて、一室に集められた。牢屋には数人しかいなかったが、そこには、10名ほどの囚人がいた。
俺は、リキに
「いったい何が始まるんだ?少年院に送致するにも、わざわざ事前説明か?」
「わからん。しかし、やっぱりこの事件には何かあるな。」
俺たちがザワザワしているとあの幹部がやってきた。
「静粛に。君たちに最高の恩赦を与えようと思う。君たちは、スラム出身だ。その中にはこんな世の中なんてくそくらえと思っているやつもいるだろう。そんな奴にとっておきだ。君たちは、未来に行ける。」
ざわめきがおおきくなった。
いったい何を言っている。未来に行けるって?
リキが
「意味が分からない。きちんと説明してくれ。」
「君たち学のないものにしても理解できないだろうがね。まぁ、説明責任というものもあるし、
一通り説明しよう。この国では、十数年前に死刑がなくなり、犯罪は増加の一途をたどる。刑務所はいっぱいだ。死刑もないから刑務所の収容人数が空くこともない。しかし、人権問題で死刑を復活することも難しい。そこでだ。犯罪者たちを冷凍睡眠で眠らせ、刑務所があくまで、未来に送ることにした。」
何を言っている?さっぱり話についていけない。確かに冷凍睡眠装置は、何十年も前に開発された。金持ちの余命いくばくもない病人が莫大な金をかけて開発したらしい。その病気の治療法が見つかるまで冷凍睡眠するとかいう。それが成功したとかは聞いたことがある。でも、そんなの金持ちのたわごとだと思っていた。実際、自分のかかわる話になるなんて。
俺が混乱する傍らで、リキは頭がよく、続いて質問を投げかけた。
「それは、決定事項か?未来っていつまでだ」
「私の口からは、刑務所が空くまでとしか答えられない。」
「では、数十年後もありうるわけか?そんなの俺たちみたいな軽犯罪な奴には、重すぎる服役だぜ。わりにあわねぇ。」
そうだ。もし冷凍期間が百年後だったら、知り合いはほとんど死んでいる。そんな刑を受けたくない。普通の刑期で少年院に行けば、数年で家族に会える。
「残念ながら、決定事項だ。君たちは、未成年だ。親御さんの許可がいる。まぁ、スラムに人権がないから必要ないはずだが、人道的にそういう手順を踏んでいる。君たち全員がご両親に許可されて集められた」
誰かが叫んだ。「俺たちは親に売られたのか!?」
俺の頭が真っ白になった。
ま、まさか。親に売られるわけがない。だって俺は、いつも家族のために、、、。。
「残念ながら、君たちは売られたみたいだね。だが、君たちの行く未来には、そんなクソな家族はもう死んでいるだろう。せいせいするはずだ。それに眠って、起きたら未来だ。君たちの感覚では一晩眠るだけで済む。そして寝ている間も刑期と数えるから、ほぼ、刑期満了ですぐ解放されるだろう。それほど悪くないだろう。まぁ、知り合いとは今生の別れかもしれないが。」
もう何も考えられなかった。