プロローグ レジナルドの苦しみ
俺の名は、レジー。
俺が生まれた帝国は自然を破壊し、魔族の怒りを買った。
魔法なんて使えない人間相手に、魔族が手こずるハズがない。
そのハズだった。
帝国研究局は、木材工学、金属工学、薬学を駆使し、魔族の固い身体に傷をつける武器を創り上げた。
剣や、弓矢だけじゃない。回転式機関銃、つまりマシンガンを創り出し、魔族の力に少しずつ追いついていく。
研究局は兵士が回収した魔王のかすり傷から落ちた血液、髪の毛や爪、皮膚のほんの一部を研究し、細胞を複製。もう一人の魔王を生み出すべく人体実験を繰り返した。
この大仕事の責任者であるマクミラン博士は俺の腐れ縁だ。
俺は重い病を患い、余命は残りわずかだった。
このバカは幼馴染の俺すら実験に利用しやがった。
奇跡的に俺の身体は魔王の細胞と適合した。
俺は無敵の肉体を手に入れ、更に体中のあちこちを改造された。
俺は一人で魔王軍の半分を潰した。
そして俺は今、深夜の山脈で戦っている。
魔王は傷を抑えながら俺の頭上に扉を開き、マグマを突き落とす。ものすごく熱いが、問題はない。だが身動きが上手くとれない。
魔王は腹心であるバハムートに指示を出す。
「良いか?バハムート、全魔族に伝えろ。逃げて隠れろ。繰り返す!逃げて隠れろ。いいな?」
「でもよお!ボスはどうするんですか!!」
「私は長くもたない。良いか?必ず反撃のチャンスは来る。共に戦えたことを誇りに想う、ありがとう。」
バハムートはためらうも、覚悟を決めて飛び去る。逃がしちまった、怒られるな。
「くそ!くそ!ちくしょう!」
俺は飛び去るバハムートをボーっと見つめる。
すると魔王は自分の胸の前で小さなでブラックホールを作り、俺を高速で引き寄せ、重力をまとった渾身の右ボディブローを俺に叩き込む。
俺は咳き込みながら倒れる。
いかん、内臓をかなりやられた気がする。俺は11メートル18トンの大剣「ファットボーイ」を握りしめ、力を溜める。
俺もまた渾身の横薙ぎを魔王に食らわす。ちょうど二発目の重力パンチが俺の頭上に降りるところだった。
アレを食らったら、俺は死んでいただろう。
魔王の身体は裂け、静かな山の中で死んだ。
・・・・・
俺は腹を押さえ、血を流し、ファットボーイを引きずりながら帝国へと歩いて帰る。
そして、また声が聞こえてくる。
「リジー?」
ほら、まただ。
「ねえ、リジー?」
やめろ。
「リジー、好きよ。」
黙れ。
「うん。あたしも大好き。」
やめろやめろやめろ。
「リジー、ねえリジー?」
こうやって毎晩聞こえてくる。
「リジー、どこなの?」
俺が幸せにできなかった声が。
「あたしから離れちゃダメよ、リジー。」
俺が傷つけてしまった愛の声が。
「おかえり、リジー。」
俺がこの世にしがみつく、たった一つの理由。
彼女を、キャシーを、想い続けること。
「リジー、リジー?」
ああ、分かったよキャシー。もう今夜は勘弁してくれ。