Sランク冒険者:シャスVSカインズ3
考えられる理由は2つ。
1つ、僕が催眠にかかっている。2つ、目の前にいるケイジュが本体ではない。
この2つが今の状態を作り出していると言っても過言ではないと思う。
しかし、僕に催眠がかかっている場合、ケイジュへ攻撃が当たらないと言う事はあり得ない。
――情報では『魔法使用者本人が催眠によって不可解な現象を起こすことは無い』と報告されているはず…万が一、この情報が根本から間違っているのだとしたら…この魔法には弱点が無くなってしまう。いや…弱点の無い魔法なんて存在するものか、僕にだっていろんな弱点がある。何物にも必ず弱点というものがあるはずだ。完璧なものは、この世に存在しない。
目の前にいるケイジュが本体ではないとして、今の状況を考えてみる。
僕は今『幻覚魔法』により、ケイジュによって幻覚を見せられ、ケイジュの姿をした影と戦わされている、可能性がある…。そうなのだとしたら、即座に、本体を見つけなければ成らない。
「拳が利かないなら…これを使うしかない」
ジャスは剣を引き抜き、地面を蹴りつけ、頭部の無い体に向い、下脇腹から左肩に掛けて切り上げてみた。
「く!」
だが、ケイジュの形をした幻想が、ただその場に佇んでいるだけ…。
切りつけた先の景色がケイジュ体の隙間を通して、瞳に映る。
――こいつは…、ケイジュじゃない…。人がこんな芸当、できるわけ無い。
「お前…本物じゃないな。本体は何処にいる!」
「何を言っているんだ。僕はここに居るじゃないか。こうやって、昔みたいに会話を楽しんでいるんだよ。俺は…ジャス…お前は違うのかい?」
「お前は、変わってしまったと言っただろ。俺は、お前のような奴とは話したくもないし、友達でも何でもない。お前は、ただの殺戮者だ。『弱気を助け強気を挫く』初代勇者の言葉だ…。ありきたりな言葉かもしれないが、僕はこの言葉が好きだ、自分が強く生まれてきた理由が弱き者のために必要なんだと思えるから。例え、どんなに大変なことがあっても…勇者と言う枠組みから逃げることはできない、逃げる分けには、行かないんだ」
「逃げれば良いじゃないか…。逃げ道などいくらでもあったろ。ジャス…。お前の言い方を聞いているとさっさと逃げ出したいような口ぶりだな…。本当は逃げたいんだろ、何もかもを捨てて…逃げれば良いじゃないか。どうせ、ここに居る人は皆死ぬんだ。お前1人逃げたところで誰もお前を責めたりしない…。ただ人の歴史が終わるだけ。俺は別に人の歴史とかどうでもいい…、魔族の歴史もどうでもいい。今この瞬快…この一時を楽しめれば満足だ。満足できるならどれだけでも殺すし、魔法も使う…」
「逃げることはできない…、なぜなら僕の後ろには長年、紡がれてきた思いがあるんだ。今までこの国を守ってきた勇者たち、その守りたかったものを僕も…守っている…。だから、お前を倒さなければならない」
ジャスは、剣を握り、深く構える。
銀色に、輝く剣身は光を反射し真っ白に輝いている。
「真実を示す光の剣…『アネモネ』太古の昔から存在する光を放つ一振り…初代ドワーフ王が作ったとされる聖剣の1本だ…。この剣で切ったものは真実を映す。今お前の体をこの剣で切った…。お前の存在が偽物なのだとしたら、その姿を保つことはできないはずだ」
先ほどから奴を切り裂いた空間が元に戻らない。
「なるほど…そいう事か。参ったな…そんな代物で切られたら、僕の魔法は意味が無くなってしまうじゃないか…」
苦笑を浮かべながら、何かを言っている…。
――奴の言葉に耳を傾ける必要はない。
「フフフ…ハハハ…ヒヒヒ…」
「何がおかしい…、自分が追い詰められていることが分からないのか…」
「え…俺は、今…追い詰められているの?」
「何…?どういうことだ…。は!」
ケイジュの体は溶け地面に黒い液体が散らばる。
黒い液体は蠢き、森の闇へと紛れ込んでゆく。
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