Sランク冒険者:ケイジュVSジャス
ジャスは、ようやく最前線へと到着した。
目に映った景色は、まさに地獄…。
「オラァァアア!」
「死んどけや!このクソ野郎!」
人族同士が殺し合いをしているのだ。
地面には、人族の死体…血液…頭部…足、臓物…、家族の似顔絵だろうか…。
この光景を地獄と言わず…何といえばいいのか…。
「ここにも魔族が居たぞ!」
兵士はジャスを見るや否や、攻撃を繰り出す。
「やめろ!僕は人間だ!目を覚ませ!」
兵士たちの眼に光りは無い、何者かに幻覚を見せられていると即座に判断し、殴ったと同時に自身の魔力を兵士に流し込むが…。
「グッァアア!ぶっ壊れろ!」
兵士は鎧が陥没しているにも拘らず、すかさず立ち上がり、凄まじい殺意を持って襲い掛かってくる。
「クッ!ダメだ!元に戻らない…。この症状…『無限催眠』と似てる…そうか、ケイジュ!!あいつ…また…」
『無限催眠』ケイジュの最も得意としている魔法にして、最も卑劣な魔法。
王国の『魔法憲法』によって使用を禁止されている『禁忌魔法』だ。
本来の『催眠魔法』であれば、他者の魔力又は強い衝撃で催眠を解くことが出来る。
しかし、この魔法の恐ろしい所は、『無限催眠』に掛かったら最後、ケイジュ本人しか魔法を解除させることが出来ない。
名前の通り、無限に催眠を掛けられ続けてしまうのだ。
広範囲、又は小規模での使用が可能で、いったいどれだけの人と魔族が催眠に掛けられているか、全く分からない。
いったい、何のためにこの魔法を発動したかさえ理解不能だ。
魔族だけならまだしも、仲間であるはずの人間にまで催眠を掛けるなんて…。
「こうなったら、僕が遣るべきことは、ケイジュを見つけて魔法を止めさせること。僕、自身にも魔法が掛けられている可能性だってあるんだ…」
この魔法の勇逸と言っていい弱点…それは発動者本人は催眠によって自身の姿を変えることが出来ないと言う事。
つまりケイジュを見つければそれは確実に本人だと言う事だ。
「でも…この状況も見捨てる分けにはいかない」
『大地の聖霊よ…汝の力を僕に』
僕の右手拳が、淡い焦げ茶色へと変化する。
肘を後ろに目一杯引き込み、渾身の一撃を地面に叩きつける。
「マグニツァード!」
地面に叩きつけられた拳から、魔力を放出し、僕を中心として広範囲に振動を送る。
魔力を持った地面は、うねり初め、常人では真面に立っている事さえ出来ない。
「これで少しは時間が稼げるはず。今の内にケイジュを…」
「その心配はいらねえよ…ジャ~ス!」
「!!」
すぐさま後方へ身を翻し、回避する。
「おいおい、そんなに警戒しなくてもいいだろ。俺たち仲間なんだから…」
黒いローブにその不気味な瞳…間違いない。
「ケイジュ…いったい何をしている。今すぐその魔法を止めろ」
「何言ってるんだ。俺は人族のためになる様、使ってるだけだ。このまま行ったら人族が負けちまうと思ってな~」
話している本人の瞳に光りは無い…ずっと奴の眼は死んでいる。
「なら、人族にまで催眠を掛ける必要が無いだろ。そしてなぜ味方同士で殺し合いなんてさせているんだ!」
「いや~、久々にこの魔法を使ったからさ…。加減が分からなくて…ね~。練習させてくれなかったからかな~」
「ク!見え見えの嘘をつきやがって…」
「おいおい…俺は、一言も嘘なんてついてないぜ。ジャスは、昔から俺のことよ~く、知ってるだろ…。だったら俺がどういう性格かよ~く知って居るはずだ…」
「お前は、変わった…昔のお前と今のお前は別人だ。あの頃はまだ眼に光りがあった…。しかし、今のお前は…、いったい何を見ている。その真っ黒な瞳で!」
ケイジュは、その場に佇み、口角を上げる。
「俺は、何も変わっていないよ…。ただ…面白いことが好きなだけさ。だってそうだろう、戦争中に味方同士で殺しあうなんて…。周りから見たら面白いにあふれているじゃないか」
「狂人が…」
「狂人…。ハハッ!俺にとっては誉め言葉だな。それで、お前は、どうする…俺を殺すか?それとも無理やりにでも魔法を解かせるか。お前にそれができるかどうかは知らないが…な?」
「僕は、あの時忠告した…二度とこの魔法を使うなと。なのにお前は…使った。僕は、お前を止めなければならない!あの村人たちの為にも!」
――奴の表情は変わらない…、何故こいつがSランク冒険者なのか、分からない。いや…ギルドにとってはSランクなのか…。地面は、まだ揺れている…どのタイミングで仕掛けるか。
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