Sランク冒険者:ケイジュ2
「『幻覚魔法』か!それならば!」
ブロードは自身の頭に魔力を外部から流し込む。
しかし、人の数が減らない。
「どういうことだ…『幻覚魔法』ならば上から他の魔力をぶつければ相殺されるはず…」
「人族の王がここに居るぞ!今すぐ殺せー!!」
人族兵がこちらに、切りかかってくる。
「ク!きさまは誰だ!」
やむおえずその人間を胴から切り捨てるも、指1つ動かなくなった瞬間、姿が魔族へと変わっていく。
――こいつは同胞だったのか…すまない。だが、これだけの数…、魔族兵を全く違う人族兵の姿に変えるなど、容易に出来る事ではない。いったい誰が…、このままでは魔族軍は内側から崩壊するぞ。
――何だ…魔族軍が交戦している…。あの魔馬に乗っておるのが敵の総司令か…、わざわざこちらの都合がよい所まで来てくれたようだな。
シモンズ王は魔族軍総司令であるブロードを見つけ、皆に声を掛ける。
「皆の者!今こそ人族の力を発揮させる時である。我が民を守るのは王である我が使命、そして民の使命は国を守ることだ!行くぞ!」
シモンズ王もブロード目掛けて馬を走らせる。しかし…
「グァ!」
人族兵が人族兵を切り殺した…。
「何てこんなところに魔族が居やがる!」
「ぶっ殺せ!」
「何をしておる!!ここに魔族などおら…」
シモンズ王の目前には魔族しかいなかったのである。
見渡す限りの魔族兵、巨体な体に黒い鎧を付けた、どうやっても見間違え用の無いその姿がそこに存在していたのだ…。
――どうなっている…これほどの魔族兵が紛れ込んでいたというのか。…いやそんな事はあり得ない…。だとすれば魔法か、魔族兵の中に魔法に長けたやつが居ったのか。クソ!…こうなってしまっては容易に魔族軍へ攻め入ることが難しくなったぞ。
シモンズ王、ブロード率いる両軍は何者かによって、誰が敵で誰が味方かを判断する事が出来なくなってしまった。
「ハハハハハハ!ヒィィ…ああ…、面白い。面白過ぎて、内臓がはちきれそうだ…。…もっと、もっと、勝手に殺しあえ。敵か味方か分からない状態で戦うなんて常人には難しいだろうがな…。もしかしたら、王と総司令は、どちらも民に殺されるかもな…。さてさて、もっと範囲を広げるか…」
そこに居たのは真っ黒なローブで身を包む影の姿があった。
「もっとだ…もっと殺しあえ…そして俺を楽しませてくれよ…」
「クソ!魔族兵よ聞け!我々は今人族からの攻撃を受けている!容易に攻撃してはならない!姿を変えられた同胞の可能性がある!」
しかし、ブロードが発した言葉は魔族には全く違う言葉になって届いてしまった。
「『魔族軍の兵士よ聞け!我々は今人族軍に攻撃を受けている!人族を1人も逃してはならない、全滅させるのだ!目の前にいる人間は全て敵である!』」
魔族兵はその言葉を聞き、より一層戦闘態勢に入る。
魔法を放ち、人族を焼き払い、剣を使い人族の首を撥ね飛ばす。
強化された拳で人族の頭を潰し、腹部を強打させ内臓をまき散らした。
目の前にいる人族を必ず殺すと言った精神が見て取れるが…それが裏目に出てしまう。
「あいつら…同族で殺しあってるよ…何してんだろうな~、あ~何しているんだろうな~!バカだな~ホントバカだな~、バカすぎて逆に面白いな~!!」
黒ローブは、はち切れそうな程口角を上げ、全てを見下すような表情を浮かべる…。
既に両兵士たちの数は全体の3分の2にまで減ってしまった。
両者の軍は、とある魔術に掛けられ敵と味方が判断できないうえに、自身の王や総司令の姿さえ分からないよう操作されていた…。
「殺せ!!今すぐに殺すんだ!!人族なんぞに負ける我々ではない!」
「死にやがれ!今こそ国を守る時!!我々が必ず勝つ!勇者様を信じろ!!」
何方の兵士も戦っているのは同族同士…、唯々時間が過ぎるたびに数が減っていく…。
死に対する恐怖心が自身を守ろうと、眼に見える敵をすべて攻撃しろと唆すのだ…。
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