Sランク冒険者:ジャス
勇者ジャスは左翼後方から一気に上がり、いつの間にかケイジュを抜き去っていた。
「はぁはぁはぁ…こ、これは…、なんてことだ…」
目前には魔族の死体が山の様に積みあがっており、地面は黒血の池になっていた。
「これだけの数、いったい誰が…、いや…アイツしかいないか…」
視線を下へやると黒血の池に銀の光沢が見え、…人族の死体が無造作に転がってる。
「すまない…皆…、く!」
未だに戦闘は続いており、既に人族は疲弊しきっているのが見て取れる。
――王が自らを囮にして、敵を引き付けている…。今の内に何としてでも魔族軍総司令を倒さないと。
ジャスは焦っていた。
森、草原、崖、何処を見て回っても、魔族軍総司令らしき姿が見つけられないのだ。
「どこにいる…次こそは逃がさない!」
しかし現れたのは…別の魔族だった。
「また会ったな…勇者…。その動きからするに、回復したようだな!」
「お前は…あの時の」
「やっと全力で戦える…これまでの恨み…憎しみ…、憎悪、嫌悪、何もかもきさまにぶつけてやる…!」
魔族は黒々とした大剣を握りしめ、瞬きの間にこちらへ切りかかってくる。
「ごめん!今は、そんなことをしている場合じゃないんだ!」
ジャスは鞘から剣を引き抜き、一振りで魔族の両腕を切り裂く。
そのあまりに早く鋭い剣撃には、闘志など全くこもっていない。
ただその場をいち早く離れ敵の総司令を倒さなければならないと言った、使命感がジャスの頭の中で埋めき合っていたのだ。
『ズシャ!』
大剣は制御していた両腕が切り離され、重さを支えることが出来ず、地面へと突き刺さった。
体から切り離された両腕が大剣を握ったままの状態で、そこに存在している。
「グ!」
両腕が無くなり、黒い血液が地面に留まることなく流れ続ける…。
「フ!」
切られた腕に力を入れ、筋肉によって止血し、勇者の方を向いた。
勇者は、メルザードの両腕を簡単に切り落とした。
その上…ただの魔族には興味無と言った態度で場を颯爽と去っていく。
「おい…ちょっと待てよ…何だよその顔…あの時と同じじゃねえか。またそんな顔で俺のことを切り伏せやがって!」
メルザードは、勇者の前に立ちふさがり、足に魔力を集め蹴りかかる。
しかし…。
「邪魔!!」
「く!!」
勇者が再度剣を一振り…、メルザードの両足が切断された。
棍棒の様に太い足が一振りで切断され、メルザードの体は地面へ力なく落ちる。
――クソ!クソ!クソ!あの野郎!俺様をこんな姿にしやがって…。しかも首は切らず、生かしたままにするなど…、許せねえ…。許さねえぞ…。きさまは俺が必ずぶち殺す…。地の果てまで追い続けて、必ず…。
しかし、メルザードは追いかけようにも両足まで切断されてしまった、腕もすでに切り落とされている為、追う手段が無い。
時間を掛ければ両手足は再生する…だが、メルザードの心に深く切り裂いた傷は一生消えることは無い…。
「…勇者、きさまを許すことは絶対にない…」
メルザードはその場を去る勇者の背中をマジマジと見詰め、何時か勇者に一撃を届かせるという大きな目標を立てた。
☆☆☆☆
「ブロード様が到着されました!」
ブロードは本部から魔馬を使い前線へと赴いていた。
「戦況はどうだ」
「はい、只今も戦闘が続いておりますが、俄然我々の優勢であります。この優勢は揺るがないかと!」
「何を甘いことを言っている!優勢な状況などピンチとさほど駆らぬわ!良いか、皆に優勢だと伝えた場合、一瞬の隙を産んでしまうだろう。この隙を回潜ってくるのが人間だ!人間を甘く見てはならない、徹底的に潰す、油断はしない!良いか!油断したらそこで足元をすくわれるぞ!」
「は…はい!申し訳ありません」
「良し!それでいい、皆には拮抗していると伝えろ油断と言うものは最も隙を作りやすいからな…」
「了解しました!」
魔族兵はブロードの伝令を伝えるためその場を立ち去ってゆく。
――ここまで来たか…、等々魔族が人族に勝つ瞬間を今ここで体現させる。
「皆の者!儂に続け!!」
――あれが人族の王…シモンズ王か、中々に目立つ格好をしているな。しかし、皆を奮い立たせるその姿勢は称賛に値するだろう。
ブロードは魔馬に乗りながら、魔族軍の先頭へと立つ。
「良いか!皆の者、目指す標的は、シモンズ王ただ1人!奴を倒せばこの戦いも終わりだ!今まで暗い世の中を生きてきた我々魔族がようやく日のもとに出ることが出来る。この戦いに勝利すれば、これからの魔族史に永遠に語り継がれることであろう。行くぞ!皆の者!私に続け!!今この一戦を持って、不毛な戦いに終止符を打つ!」
そして、そのまま真っ向から人族の王を狙い、出陣…するはずだった。
ところが…。
「ギャア!」
「グアアアア!」
魔族兵たちが、いきなり切り合いを始めたのだ。
「何をしている!!」
ブロードは目を疑った、いったいなぜ魔族同士が切り合っているのか…、原因が分からない。
だがすぐに原因が分かる。
「人族め!いったい何処から入ってきた!」
「こんな所に人族が紛れ込んでいるなんてな、ぶっ殺してやる!」
――魔族兵は仲間を人だと認識しているのか…グ!な…何だこれは。
ブロードの目前には人間の姿があった。
それも見渡す限りにだ。
「これでは…どれが本物の人族なのか全く判断できない…」
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