Sランク冒険者:カインズ14
「ダメ!このままじゃ…」
ミーナは咄嗟にアランの腰に掛けてある剣を奪い、クレーターに走る。
「うっ………」
立ち上がろうとしたが…上手く力が入らず顔を地面に強く叩きつけてしまう…。
「これ位の事で…へこたれる分けには…行かない!」
剣を軸に何とか立ち上がり、一歩…一歩と少しずつ前のめりになって足を前に出していく。
足がもつれ、思ったように真っ直ぐ走ることが出来ない。
しかし…ミーナは、それでも足を止めない。
――足を…止めるわけには行かない…、今…あの魔族を倒さなければ…いったい何のために、あの人族は戦っていたんだ。
「オラァア!」
声を迫り上げ、体に力を入れる。
声を出したことで血圧が上がり、心拍数が上昇していく…。
するともう力が入らないと思っていた足に感覚が戻ってきた。
感じた瞬間、力強く地面を蹴り上げ、ミーナは加速した。
地面が抉れ、土が空中に舞う…。
目まぐるしく生え揃う大木をかわしながら移動しているのにも拘らずその速度は落ちて行かない…逆に上昇し続ける。
――体力なんてもう無い。魔石の魔力は隠れるために使った…後戻りはできない。後ろから父様の声が響くが止まれない…。このまま魔族の首を切り離す。奴は気づいてない…一気に奴のもとに飛んで首を切る!
ミーナはクレーターの一歩手前で跳躍し魔族に向って切りかかる。
ミーナの隠密行動は完璧だった、跳躍する瞬間にさえ衝撃音を殺し、空中を移動している時でさえ移動音がしない。
風が吹き、ミーナの尻尾が…髪が…揺れる…。
体のしなやかなバネを使い、身を縮めながら剣の軌道を修正する。
――このまま…行ける!!
ミーナが魔族に届くまで残り数m…。
しかし…魔族の右手が再生してしまった。
魔族の焼け焦げた顔が此方を向き、漆黒の瞳だけがミーナを見詰めた。
何を見ているのか分からない瞳…すべてが無に感じて仕方がないといった表情…。
「ぐ!」
――気づかれた、でもやるしかない!
罪悪感など微塵も感じていない、人間を生き物とも思っていない…、我々獣人族もゴミを見るかのような…顔しやがって。
「ヘイヘに似た顔で…そんな顔してんじゃねえよ!!」
ミーナは、左側後方に剣を引き、剣身が銀色に光り輝いているのを感じながら、魔族の首めがけて振り払う。
剣は魔族の首を捉えミーナは振りぬこうとする…が。
「切れない…どうして…。こっちは、エルツさんが打った剣なのに…」
首元を見ると黒い魔力が首ギリギリで剣身を受け止めているのが分かった。
「だから…ヘイヘって誰…?」
「ク!」
――このままじゃヤバ…!
左手を使い一瞬で剣を振り払われ、ミーナは地面に叩きつけられる。
「ガハァ!」
「知らない…人の名前?…言われるとさ、イラつくよね…」
魔族は、ミーナを地面に叩きつけた瞬間、地面から受けた反動で浮いた状態の腹部を、右足で軽く蹴り飛ばす。
「グア!!」
ミーナの体は、小石かと思わせるほど軽く蹴り飛ばされ、激しく土煙を上げながら地面を転がっていく。
勢いは次第に弱まり、先ほどまで綺麗な毛並みだったミーナの髪と尻尾は土…砂塗れになってしまう…。
口からは鮮血が漏れ出し…、上手く息を吸えない…。
透き通る頬を伝うように鮮血が地面へと垂れる…。
――諸に食らってしまった…クソ…、息が…出来ない…。
目の前に転がる剣を掴もうとするが…視界が既に暗い…。
ミーナの意識は、痛みと酸欠により飛びかける。
「グぁ…あ…ァア…」
しかし、魔族に対する怒りと憎悪により何とか持ちこたえた…。
だが、ミーナの体に立ち上がる体力など、涙一滴分すら…残っていない…。
「はぁはぁはぁ…グァハ…」
口から再度吐血し…視界が鮮血に染まる。
――奴が…こっちに歩いてきているのか…。クッソ…奴の姿が見えにくくなる…。
「ミーナ!」
ミーナの後方からアランが駆けてくるが…。
「面倒だな…獣人…2人もいらないや…。でも…どうせなら…元気な方…残そうか」
魔族は人差し指をミーナに向ける。
小さな魔法陣が指先から展開され、黒く淡い光を帯びている。
「く…っそ…」
ミーナの体は、逃げようにも…意思の言う事を全く聞かない…。
アランも全速力で向かっているが…どうも、間にあう兆しが無い。
ミーナは目を閉じた…。
この時、考えていたのは紛れもなくヘイへの顔だった。
何故ヘイヘの顔が思い浮かぶのか分からなかったが…今、目の前にいた敵がヘイヘそっくりだったからかもしれないと自分に言い聞かせる。
――すまない…ヘイヘ…、ラーシュも…合えずじまいか…。
『ヒュン!』
と何かが飛んだ音が聞こえた。
――痛みはない…。ああ…等々痛みまで感じなくなってしまったのか…これが死…短い時間だった…。
等々自分も死んでしまうのかと思っていた…。
しかし…心臓の鼓動がいつまでも骨振動によって脳まで響く…。
――私…いつ死ぬんだ…ドンドン痛みが出てきた気がするぞ…。死ぬのなら痛み無く…。
ミーナは、いつまでたっても自分が死なないことに疑問を覚える。
静かにギリギリ動く瞼を開けると…。
そこには、先ほどまで倒れていた人間が両手を広げて、私の前で壁になっているではないか。
――あり得ない…そんな体で動けるはずもない。熱によって皮膚は黒く焦げ、所々掛けている…目も見えているのか…。いや、見えていないのだろう瞳に色は無い。
「何で…動けるんだよ…人間が…」
これには魔族も驚いたようだ。
「弱い…人間は…可愛そうだね…。はぁ…そこまで…守りたいなら…守って見せなよ」
魔族は矢筒から右手で銀矢を1本取りだし、左手に魔力で作られた弓を持ちながら銀矢を掛け構える…。
そして魔力で出来た弧を思いっきり引っ張り…銀矢を放った…。
勢いよく放たれた銀矢は、胸に巨大な穴を開け人間の心臓を貫いた。
貫通した銀矢が私の頬を掠め、真後ろの地面に土を激しく巻き上げながら突き刺さる。
「はぁはぁはぁ…」
私は…またもや目の前の人間に…助けられた。
「そこまでして…助ける…価値なんて…こいつらに…あるのか…人間」
心臓を貫かれた人間は前に倒れ込み、崩れ去る…。
そして…風に揉まれ、この世から消えた…。
何故か…倒れ込む最後の顔は笑っているように見えた…きっとあれは身間違いじゃない…。
「仕方ない…面倒だが…2人とも…連れてくか…」
「ミーナ!立つんだ!」
アランが到着するも。
「『パラ…ライズ』」
魔族の指先から紫電流が流れ、アランとミーナに直撃する。
全身を走る電流が体の自由を奪い、痛みによって意識が遠のいてゆく。
アランとミーナは体から煙を出しながらその場で気絶した。
「人間は…灰になったか…そうか…死んだか…人は…死んだら…墓を作るんだよな…確か…」
魔族は、折れた剣を灰になったカインズの居た場所へ突き刺した。
「こっちは…折れてないから…持って行くか…。この2人の…獣人も…運ばないと…ああ…面倒くさい」
魔族は、その場から2人を連れて煙のように消え去った。
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