Sランク冒険者:カインズ13
カインズの一閃は、その場に直立していた魔族の眉を動かさせる程度だが、一瞬でも不意を突けたようだ。
不意を突かれた魔族は、自身の魔力で弓を作り銀矢を3本放つ…。
――銀矢に魔力は込められていない、つまり…矢の殺傷能力は低い、今回も権勢に使ったのだろうか…。だが今の速度ならば回避することは容易だ。
カインズは稲妻の如く、地面を走り3矢すべて交わすと、爆発寸前の魔石を魔族の目の前に投げ込み即座に起爆させる。
爆発の余波を使い、カインズはさらに自身の速度を上げる。
魔族魔族をかわし、そのままの速度で魔族後方の地面に刺さていた剣を手に取り、大木を足場に跳躍する。
大木から大木へと跳躍し続け、自身の速度をさらに上昇させる。
跳躍する際、カインズの持つ剣で魔族を攻撃しているのだが…魔族にはすべて回避されている。
――クッソ!この速度でも攻撃が当たらないのか…もう魔力が尽きる。このまま攻撃を続けても、僕の攻撃じゃ倒せない。たとえ僕の魔力が満タンでも同じことだ…。な!
「よい…しょ」
「グハァ!!」
丁度僕が高速で切りかかろうとした瞬間、奴は身を翻しカウンターの一撃を僕の下腹に食らわせた。
口から大量に吐血し、下からのカウンターを食らってしまったため上空へと打ち上げられる。
霞む視界には吐血した鮮血が球体となり太陽の光を反射しているのが見えた。
その所為で…鮮血の球体に苦しそうな僕の顔が映る…。
――下腹をやられた…内臓が数個破裂してるんだろうな…。痛すぎてどれだけ破裂しているか判断できないけど…。なんて情けない顏だ…とっくに眼鏡何て外れてるじゃないか…。
痛みの影響で意識が飛びかける…。
そんな時だった…。
「マ…イン……」
名前を呼んだ、僕が…本当に助けたかった相手の名前を…。
マインとの思い出が走馬灯のように脳内を駆け巡る。
辛い思い出ばかりではなく確実に楽しかった思い出は数知れない。
――僕みたいな人を…増やすわけには…行かない!!
「『ストーン…ショット…』」
空中に大きめの石を出現させる…。
これが僕にとって…最後の攻撃になるだろう。
「まだ…やる気…なの…もういいよ…飽きたから」
魔族は矢筒から1本の銀矢を取り出し、右腕からどす黒い魔力が溢れ銀矢へと迸る。
左手には魔力によって大きな弓が出現し、銀矢と弓が重なりあった…。
弓は雷鳴を轟かせ、銀矢は紫電を己に走らせながら、魔力は次第に銀矢の先端に集まり、鋭さを増していく。
その威力は計り知れないだろう…、大量の魔力があふれ出ているせいか地面が魔族を中心にしてひび割れている…。
矢の先端がこちらに向き当たればただじゃ済まないことは確実。
しかし、こちらも引く分けには行かず、発生させた石を足場にして魔族を狙う。
今出せるだけの力を足に籠め、地面へ向って垂直に跳躍した。
剣先を魔族に向けて突き出し、奴の攻撃を待つ。
「……」
『ゾババババババ!!!』
感情無しに放たれた矢は光の軌跡を作り何物にも阻まれることなく僕の頭を撃ち抜かんとする。
余りの轟音に鼓膜が破れ、聴覚を失った…。
剣と銀矢が衝突し爆風と激雷が入り乱れ、全身に刺すような痛みを伴う電流が走るも耐えられない痛みではない。
「このまま…押し切る!!!」
銀矢は剣によって阻まれ、僕の頭部に直撃はせず、左耳を焼き切りながら上空へと逸れていった。
「――はぁ‥‥めんど…これで何回目だっけ…外したの…」
――奴は今…油断している。決めるにはここしかない!
魔法の袋から最後の魔石1つを取り出し、その場で手放した。
僕は魔石ともに落ちてゆく。
内臓がグチャグチャで意識が朦朧とする中…マインの顔を頭に思い浮かべ何とか意識を保つ。
魔石が落ちるよりも先に、僕の持っている剣が魔族の右腕に届いた。
魔族は右手で剣を止めようとしたのか、右手を刺し伸ばしてきた。
そこで、僕は剣を持つ手首を翻し魔族の右手を避け、そのまま剣を振り下ろす、
『ズシャア!!』
――きっと豪快な音が鳴っているのだろうが…僕には聞こえない…。だが…何とか右腕を切断することに成功したぞ!
右腕が切断されているにも関わらず魔族の表情は一向に変化しない。
そのまま地面に着地し、上空から落ちてきた威力をそのまま流すように下から上えと切り上げる。
しかし、この攻撃は魔族の左腕によって阻まれた。
「捕ま…えた…」
耳では聞こえないが…口の動きで言葉を理解する…。
「いや…捕まえさせたんだ…」
魔族の目前に、黒と白が埋めきあい、この世の物とは思えない光を放つ魔石が投下してくる…。
その輝きによって、ようやく魔族の瞳に光りが灯った。
「…さあ、食らってくれ。最恐のSランク冒険者と最強の勇者から削ぎ取った魔力が込められた人生最後の最大火力…。世界一の爆発だ…」
「……ふ」
魔石にひびが入り、視界が白く染まる…。
大爆発が起こり、その場の地形を変えていく。
…今までの魔石とは比べ物にならない範囲に衝撃波が生じ、木々も地面も抉り取っていった。
その攻撃を遠目から見ていたミーナとアラン。
自分達にはどうする事も出来ないもどかしさに苛まれているが…カインズの雄姿を見届けるべく、茂みに隠れている。
直ぐに爆風と爆音がミーナたちの居る地点にまで届く。
木々草花は吹き飛び…抉られた大木がミーナたちの傍を通過していく。
その場から動くことが出来ず、何も直撃しない事を祈るしかなかった。
爆風が止み…固く閉ざしていた瞼を静かに開け…目を見開く…。
爆発地点には黒煙が立ち昇っており、中の状況が見えない。
風により黒煙が晴れるのを待っていると…その黒煙は中から強引にかき消された。
半径数十メートルのクレーターの中心に真っ黒に焦げ地面に突っ伏している人物とその人物を見下ろすように立っている存在が居た…。
全身焼け焦げているものの、その場に倒れる予兆は無い…。
涼しげに直立している者から黒い魔力が流れ出し…切断された右腕そして…全身へと流れてゆく。
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