Sランク冒険者:カインズ9
「ねえ?君はどこから来たの?」
「分かんない…気づいたら…ここに居た」
「そうなんだ…ねえ!お腹空いてるでしょ。家から余ったパン持ってきたんだ。一緒に食べようよ!」
「いや…でも…食べたら怒られる…」
「大丈夫!すぐ食べちゃえばバレないって」
僕はパンを半分にちぎろうとしたが…、上手くちぎれず、大きなパンと小さなパンに分かれてしまった。
迷わず大きな方をその子に渡す。
「ありがとう…嬉しい」
その時…初めてその子が笑った。
ただパンをあげただけで笑ってくれたのだ…。
誰かの笑顔を見る嬉しさも…この時…、この場所で、獣人の少女に教えてもらった。
僕は毎日その子の所に向った。
晴れの日も、雨の日も、雪の日も、人の子供たちと遊ぶより、その子と遊んでいた方が何10倍も楽しかった…。
「ねえ!君の名前は何ているの?僕はカインズ、いつも君って言うの何かおかしいしさ、呼びにくいじゃん」
「名前?…名前は…覚えてない。よく言われるのは…『ゴミ』だったかな…これが私の名前?」
「え…自分の名前覚えてないの?さすがに『ゴミ』は違うと思うけど。お父さんとお母さんに付けてもらったんじゃ…」
「お父さんもお母さんも…どんなのか知らない…。私…ずっと1人だったから」
その子の眼はさっきまで晴れていたのだが…すぐに雨になってしまった。
「じゃあ、僕がつけてあげるよ、君の名前!」
「ほんと…」
雨が曇りに変わる…コロコロと変わる、瞳の天気は何時もその子の心境を表していた。
「うん!えーと…どんな名前がいいかな、『マイン』とかどう?安直すぎるかな…もっとカッコいい名前の方が良い?」
「マイン…うん、私の名前はマイン!マインが良い!」
曇りだった瞳は、いつの間にか先ほどよりも快晴になり僕を見つめる。
僕が安直に考えた名前、マインをすごく気に入ってくれたらしく…嬉しかった。
マインと話すようになった日からもう半年が過ぎていた。
「マインがこの街に来てからもう半年たったんだ。早いな~」
「うん…」
――その日のマインはいつもとは違い、半年前に戻ったかのように曇った瞳をしている。
「どうしたんだよ、マイン?元気ないぞ」
「もういらないって言われた…。邪魔だからどっか行けって…。私、行くとこ無い…」
雲った瞳は次第に暗くなり黒雲が立ち込める。
「捨てられたって…どうしてそんな…」
「使えないゴミは要らないから…だって。マインの他に新しい人が来て、追い出された…」
黒雲の広がった瞳から、止まることの無い大雨になってしまった…。
――ど…どうしよう…何か僕に出来ることは無いかな…。
僕は必死に何が出来るのかを考え、いつも通り安直な答えを出す。
「マイン…ちょっと、待ってて!僕、お母さんにマインのこと話してくる!お母さんから了解を貰ったら、僕の家に来なよ。僕は絶対にマインを捨てたりなんかしない!」
「カインズ……」
「それじゃあ、行ってくる!ちょっと待ってて」
僕はその場を離れた…離れてしまった…。
「お母さん!一生のお願いです!マインを家においてあげてください!」
額を家の床にこすりつけ、これ以上は無いというほどに頭を下げる。
しかし…
「カインズ…貴方、まだあの獣人と関わっているの!どうして…あれほど関わっちゃダメだって言ったじゃない!」
「そこを何とか!お願いします!畑仕事でも、配達でも、頑張ってやる、だからどうかマインを家で働かせてあげてください!」
僕は生まれて初めて母さんに一生のお願いを使った…。
自分が出来る事を全てやる代わりに、何としてでもマインを助けたかった…。
「カインズ…。はぁ、貴方がそこまで言うなんて…。分かったは…、とりあえず様子を見てから考えましょう」
「あ…ありがとう!お母さん!」
その場から立ち上がり、先ほどまでマインがいた場所に走るが…。
「あれ…マイン、マイン!どこだ、マイン!」
どれだけ探しても、マインはその場所から居なくなっていた。
マインが僕の言いつけを破るなんて…半年間で初めての事で頭が困惑してしまう。
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