Sランク冒険者:カインズ8
――こいつは…悪い人!でも…ほんとにそうか…。
カインズを疑う迷いがミーナの剣筋に乱れを生じさせる。
「オラァ!」
「グ…!」
乱れた剣先を読まれ、手の甲で剣身をはじかれた後、反撃の拳を開いてしまっている腹に一撃食らい後方へと数m飛ばされる。
地面を勢いよく転がりながら、カインズから受けた力を外へ流し肉体的ダメージを抑え、両足で地面を捉えながら、腰の低い姿勢を取り…何とか息を整えようと試みる。
「どうした…まだ一撃も与えられてないぞ」
「はぁはぁはぁ…」
ミーナは苦し紛れの笑みを浮かべ、カインズに向って左手を前に突き出す。
カインズは咄嗟に自身の腰に手を当てるも、それが無い事に気が付いた。
「お前…僕の魔法袋を…」
「はぁはぁはぁ…いきなり爆発物を使われたら…こっちが困るんでね」
「は!舐めるなよ!お前に魔石なんて使わなくても十分殺せる。それに、そろそろお前の親も潰される頃だろう、刻々とお前たちの死が近づいているのが分かるか!お前たちは今から死ぬ!僕に殺されるんだ!その現実をただ無慈悲に突き付けられ、絶望するんだな!」
「絶望…そんな言葉は知らないね…。人族だけの言葉じゃないのか…弱い奴が良く使う言葉だ。私と、父様を甘く見るな。父様だって今頑張っているんだ…私がそんな感情に惑わされる分けには行かない。それこそ、お前の方が絶望しているんじゃないか…。あれだけの魔法だ、相当な魔力を消耗しているはず、人は魔力が少ないんだろ、魔力が無くなったとたん、お前に出来ることは無くなる。ほら…すぐそこに絶望があるじゃないか…」
ミーナは息を整える為、出来る限り話を伸ばす…。
「確かに…1体の敵を殺すにしては割に合わない魔力消費だが…獣人を殺せるなら、俺の命が尽き果てようと必ず殺す!『ストーンバレット!』」
先ほどよりも多くの石が生成され、地面から打ち出される。
「つ!」
四方八方から生成された礫がミーナの周りを囲うようにして飛び交う。
すべてを回避しようにも死角からの礫に反応することが出来ず、背中、太もも、など…数多くの身体へ攻撃を食らう。
何とか致命傷になる部分を回避、打破しながら反撃のチャンスを窺うが、一向に礫が止まる気配が無い。
「どうした!このままじゃ死ぬぞ!俺を倒し父親を助けるんじゃなかったのか!」
――何言ってんだ…別に獣人が死のうが僕には関係ないじゃないか…っツ…!。
カインズは攻撃を食らい続けるミーナを見ていた時…頭部に打撃を食らった感覚を受け、うろ覚えな昔を思いだす…いや、思い出してしまった。
☆☆☆
「ねえ!見てお母さん!頭に大きな耳を付けた人が歩いてるよ!」
母さんとの買い物中…目の前に広がる村1番の大通りでは、多種多様な獣人たちが腕を手錠で拘束され、重たそうな鉄球を足枷にし、引きずりながら歩いていた…。
――その中に1人、当時の僕と同い年くらいの獣人がいたんだ。
「こら!見てはいけません!あれは獣人と言って人とは違う生き物よ。絶対に関わったらダメだからね!」
母さんは、獣人たちにも聞こえるような大きな声で僕に怒鳴った。
あまり怒鳴ったことの無い、母さんがいきなり大声で喋ったものだから僕は驚きのあまり、思ってもない返事をしてしまった。
「は…はい」
――母さんは獣人と関わったらダメだと言った…。でも、僕の好奇心…また探求心は簡単に抑え込めるものではなかった。友達の少なかった僕は…獣人のことが気になって仕方なかったのだ。
「ねえ!君は何でここに居るの?どうしてそんな耳が付いてるの?」
「………」
――獣人の眼は曇っていて、何を見ているのか全く分からなかった。
素肌が丸見えなボロボロの服を着て、その場に座り込んでいる。
体には無数の傷跡があり、痛々しかった。僕の掌には一筋の傷跡も無かったのに…。
「ちょっと待ってて!」
「………」
僕はすぐさま家に帰り、傷に効く薬草で作った軟膏を棚の中から取り出した。
大急ぎで獣人の元へ向かい痛々しい部分に軟膏を塗ってあげた。
その時の顔は今でも覚えている…いや思い出したのか…。
…この人間が何をしているのか、全く理解できていないといった顔…。
恐怖や嫌悪感、様々な感情が混ざった、僕の見たことが無いおかしな表情をしていた。
だが、次第に傷口の痛みが治まったことに驚き、硬い表情が柔らかくなって行く。
どうやら驚きを隠せなかったらしく、僕に聞いてきた。
「これは…何…?」
「傷に効く薬草で作った軟膏だよ。どう?痛くない?」
獣人の少女は、俯きながら小さく頷いた。
この時…僕はすごく嬉しかった、誰かの助けになれた…。
誰かを助ける事ってこんなにうれしい事なんだと…初めて実感した瞬間だった。
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